送風道の対決

ごうごうと風が鳴き、それ以外の音は耳に届かない。そんな中をフリード君は進んでいきます。

ここはセントラルタワーに繋がる送風パイプの一つ。世界中に風を送り出すための通路です。

(フリード!ここ以外にシルフの所に行く道なかったの!?)フリード君の懐に潜り込んだセーラが文句を言いますが、風の音で周りには聞こえません。

(もうちょっと聞き込みできればあったかもね!誰かさんが大事故起こさなければ!)フリード君が言い返します、風の音で周りには聞こえません。


どうやらフリード君たちはシルフに会うのが目的だったようです。

しかしその情報収集の最中に先日の不幸な事件が起こってしまった模様。


(仕方ないじゃない!あんなになるなんて思わなかったし!)セーラの声はやっぱり周りには聞こえません。

(そういや確かに強すぎたな、喉が成長してんのかな?体は成長しないのに)フリード君の声も聞こえません。

「一言余計だよ!えっ!?」突然風が止まり、セーラの声だけがパイプの中に響き渡りました。セーラも響き渡った自分の声にびっくりしています。


「出たな極悪テロリスト!今度はシルフを狙って来おったか!!!」

そして、それよりも更に大きく響く声に目を向けると、前方には警察官の集団、先日吹っ飛んだ(ふっ飛ばした)警察官も混ざっています。

「お前のことは既に全組織に報告済みだ!今度は逃げられると思うなよ!!」

「おーおー、ずいぶん風通しのいい組織ですな!」

「言うてる場合かフリード!どうすんのさ!」

フリード君が軽口を叩くも、警察官の言葉通り、いつの間にかパイプの後方にも警察官が回り込んでいて逃げ場はありません。


「お前達は下がっていろ、私が相手をしてやる」

「おお!暴風将軍みずから!」

暴風将軍と呼ばれた男が一人、前に出てきます。先程の警官のように風船筋肉ではなく、鍛え上げられた肉体と隙の無い動きから実力を感じ取れます。


「ぬんっ!」「うおっ!?」暴風将軍が振るった剣をフリード君は避けますが、巻き起こった風に吹っ飛ばされて空中で一回転し、パイプ壁面に着地しました。

そして次々に繰り出される攻撃と共に強風が発生し、フリード君の動きを遮ります。フリード君もギリギリなんとか避けていきますが、これは大ピンチのようです。

「ちょっと!人工の風を作ったらダメなんじゃないの!?」フリード君の懐からセーラが叫びます。

「ふん、この剣はシルフの力を宿した精霊の剣!邪悪なる風と一緒にするでないわ!!」暴風将軍は自慢げにその剣を振りかざしています。

しかしその言葉を受けたフリード君の目つきが変わりました。

「精霊の力を使った剣……だと……?」


(力……精霊……奪……道具……)


引き起こされた記憶がフリード君の怒りに火を付けたか、それまでの飄々とした雰囲気が消し飛んでいます。

「……セーラ!」

叫ぶと自らの腕を切って、流れた血ごとセーラの口へと突っこむフリード君。

「何むぐっ!?」

そしてセーラの目が赤く光り、必殺のファイヤブレスが


「馬鹿め!再送風開始!」

しかし暴風将軍の合図により、再びパイプ内を凄まじい風が吹きつけて火の息は吹き戻され、掻き消えます。

「おっ?わっ、とっとと、おおおおお!?」

さっきまでよりも強い風を受け、2歩3歩とたたらを踏むも、そのまま吹き飛ばされてスッ飛んでいくフリード君。


「はっはっはっは!貴様の行くべきところへ行くがいいわ!!」

暴風将軍の笑い声と共にパイプの底面に穴が開き、ワンバウンドしたフリード君は為す術もなくその穴に吸い込まれていきます。


穴の中は真っ暗で、風の音しか聞こえずにただ下の方へと落ちていく、落ちていく……

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