吹き抜ける風の都
Enju
風の都 ウィーズブリンド
船は帆に風を孕み、凧は風を受けて空を飛ぶ。
すべてが風で動くこの都市、その名はウィーズブリンド。
この街の産業はそれこそ風であり、世界中で吹く風は全てこの街で作られ輸出されています。
この街の中心にある巨大な塔、セントラルタワーには風の精霊である「シルフ」が住んでいて、そこから伸びる多数のパイプが世界中に風を送っているのだとか。
そんな街の広場に、今日は人だかりができています。どうやら旅の芸人がショーを開いているようです。
「よっ、はっ、とうっ!」
少年が小型のトランポリンを使って大きくジャンプしたかと思えば、空中で突然燃え上がって姿を消し、観衆の後ろから再登場。
助手のちびドラゴンが吐き出す煙をサーベルで彫刻して鳥の形にしたら、その中から本物の鳥が飛び出す。
1人の少年と1匹のドラゴンが曲芸と手品を組み合わせたような技を繰り出すたびに観衆は沸き立っています。
その少年の名はフリード・フリーマン、助手のドラゴンはセーラ。
大盛り上がりのショーですが、そこに水を差すように巨漢の警察官がやってきました。
「おい!貴様、誰の許可を得てここで商売をしている!?」
横柄な態度で威圧的に指を突きつける警察官、かなり態度が悪いです。
「は?役所の方で許可は貰ってるよ。」
「そうかい?だがこの広場は俺の管轄なんだ。俺は何も聞いてねぇなー!」
このやりとりでピーンと来たフリード君、すかさず接待モードに入った様子。
「いやー申し訳ありませんご挨拶が遅れましてわたくし旅の芸人フリードと申しましてこのたびここで一席設けさせて頂きたいと思い」
持ち前のすばしっこさで警察官の周囲に回りこんで手もみ肩もみ、そしてポケットや懐に「ココロヅケ」を忍ばせていきます。
もちろんこれは不正なことなのですが、その場所その土地においては文化として成り立っている事も否定できません。街の住人である観客達も、どちらかと言えば賄賂の要求に怒るよりも、早くショーを再開して欲しいと思っている様子。
さて警察官の方もすんなりと期待のものが手に入ったので「まあ、今後気をつけるように」などと満更でもない態度です。
「こちらの手配不足でご足労頂き申し訳ありませんでした今後気をつけますともご寛大な措置ありがとうございます警部どの長官どのー」
フリード君も、もう警察官にはさっさと帰ってもらおうと、煽て、服の埃を払い、扇子で扇いでいます。
だが、それが悪かった。
これまで、警察官の乱入も、観衆の目前での賄賂も、いつもの事だとスルーしていた人々が一斉に驚愕の色に染まっています。
そして次の瞬間「に……贋風だーっ!」と、風に吹かれる木の葉のように一斉に逃げ出しました。
「にせかぜ?え、何?」
状況を掴めないフリード君、しかし見ると目の前の警察官は大激怒しており、巨漢が更に膨れ上がっているようにも見えます。
「貴様、自分がいったい何をしたか、分かっているのか!?」
当然ですが分かっていません。警察官は更に体を震わせながら……というか膨れ上がらせながら指摘します。もう最初の倍以上のサイズになっています、もはや錯覚ではありません。
「この街において誰もが許さない非道な行為、それが!人工の風を作り出すことだ!!」
「えっ?あっ!」
殺気すら込めたその言葉に、フリード君はようやくその手に持った扇子が原因だと気づいたようです。
「いやでもまさかこんな程度で……のわっ!」
警棒と呼ぶにはあまりに巨大な、自分の胴体ほどもある棍棒のフルスイングをなんとか避けるフリード君。
「人の作る風はシルフにとって毒なのだ!忌々しい偽風め!死刑!死刑だ!」
警察官は怒りにまかせてメチャクチャに棒を振り回してきます。
「フリード、こいつヤバいよ!どうする!?」
逃げようにも、背を向けた瞬間にぶっ飛ばされてしまいそうな暴力の嵐にセーラも慌てています。猫くらいの大きさのドラゴンの幼体ですが、人の言葉を喋れるようです。
「ちっ、仕方ない!セーラ!!」
大振りの一撃を避けた勢いでフリード君がセーラを抱え上げ、そして、
ズギュウウン、とキスをしました。
少年と!ドラゴンが!キスをしました!
そこに迫り来る、怒れる警察官!振り上げた腕が振り下ろされるその時、セーラの目が赤く光を放ち、そして
「必殺!ファイヤーブレス!」
通常なら煙くらいしか吐き出せないセーラですが、フリード君の体液を摂取することにより一時的に炎を吐き出すことができるようになるのでした。
警察官は燃え盛る炎に吹っ飛ばされて広場の周りに建っているビルに激突!
ビルは倒壊!人々は逃げ惑い一言で言うと阿鼻叫喚です。
……
「セーラ!やりすぎだろこれ!」
「いやだって久しぶりだったし……でもでもこんな……」
そんな中、ぴるぴるぴるぴる~、と先程の警察官が空を飛び、そして墜落してきました。さっきよりだいぶ体が縮んでいるようです。
「なんだこれ、風船……?」
巨漢に見えたその体は、その殆どが空気の入った筋肉風船だったようです。それに穴が開き、吹き出る風の勢いで空を飛んでいたのでしょう。
とりあえずその警察官には息があり、ビルの方も人は死んだりしていないようなので
フリード君たちはとんずらしました。
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