第2話 天使ジェレミエル
目覚めてから休みなく働いていた天国受付人の天使サンダルフォンは長かった死者の列が数えるほどの人数になりホッとしていた。
『ブラック企業にもほどがあるぞ、神様って優しいものじゃないのかよ』
左隣りで受付をしている同期の天使ジェレミエルの列も同じくらいになっていた。机の下に置いてある生前履歴書を右手で漁っていた天使サンダルフォンは先輩である天使ジェレミエルと目が合うと、わざとらしく机の下の履歴書を懸命に探しているふりをしながら声を出さずにこう言った。
『ジェレミーさん、先に終わったほうが、ヘブンズエール奢りで♫』
天使ジェレミエルは呆れながら『はいはい』と勝負に乗った。ヘブンズエールとは天使達が飲むビールのようなもので生意気にも天使サンダルフォンは時々天使ジェレミエルと賭けをするのだ。7:3で負けているがその3で勝ち取ったヘブンズエールが格別美味いことを覚えたのだ。
あと3人くらいか。
80代女性。死因は、持病の悪化。肝機能関係。夫が五年前に先に天国受付をしていて休息中とのことだったので、そのことを伝えると。『夫に会えるなら会って、一緒にゆっくりしようかしら』と優しく微笑んだ。休息を選んだ死者は3階にある"住民課"へ行き、住所登録をする。天国は現世の世界の真上にあるため、住所もわかりやすい。現世の日本の真上に、日本人が多く住む地域があるのだ。
『旦那様の天国での住所を住民課で調べることが出来ますので、お会いすることも一緒に過ごすことも可能ですよ』
と言うと、女性は『それじゃあ』と休息を選択した。住民課へ向かう女性の背中を眺めながら新たな生前履歴書を片手で漁った。
次の死者は表情の暗い男性。40代後半。死因は自殺。最近は結構多くなってきた死因だ。現世ではなにが起きてるのだろうか。そんなに辛いのだろうか。この死因を取り扱う時に天使サンダルフォンは呼吸が少し浅くなってしまう。
『未来にしますか?それとも休息にしますか?』
いつもの質問を投げかけても返事が返ってこなかった。男性はぼーっと机を見つめるだけだった。こういう場合は未来をお勧めすることにしている。休息する間も記憶が残っているので現世での辛い感情も思い出してしまうからである。そう説明すると男性はボソッと『生まれ変わりたい』と呟いた。男性の目から小さな雫が一滴落ちた。雲で出来た受付所の床にスッと消えていくのを天使サンダルフォンは偶然見てしまった。
『早めに手続きすれば、今晩の旅立ちに間に合いますので』
と、優しく微笑み未来のスタンプを履歴書に押して渡した。
最後の死者は先程からチラチラ見えていたが、とても体の大きい頑丈そうな男。死因は戦死。仲間を庇って銃弾に打たれたようだ。彼は休息を選んだ。先に天国受付をしていた母親に会いたいとのこと。どれだけ強そうでも、勇敢でも、母に勝るものはない。最後の死者が終わり左隣りをみると天使ジェレミエルはまだ受付手続きをしていたので、賭けに勝った天使サンダルフォンはこれ見よがしに大きく伸びをした。
くぅーっと、伸びをしたあと正面を向いて瞼を開けると同僚である"子供課"で働く女天使のメタトロンが申し訳なさそうに微笑みながら赤ん坊を抱いて立っていた。
『終わりと思ったのに。。。』
と頭を抱えた天使サンダルフォンの隣で最後の受付を終えた天使ジェレミエルが嫌味なほど大きな声いつものセリフを言った。
『良い来世を〜』
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