意識世界の車窓から

 電車に乗っていた。最初の一駅、二駅を微睡みとともに通過していると、私は車窓から流れる景色が、実は精巧に造られた映像なのではないかと考え始めた。そうであっても不思議はないのではないか。だって、私は生まれて今まで、電車の窓を開けて身を乗り出して、車両の外部を感じるというようや経験はないのだ。この車両を揺らす装置と、あたかもレールの上を走っているような音、車窓の映像に合わせた音を出す装置と、私達を一瞬にして目的の駅に運ぶ何かしらの装置があれば、私の、車窓映像仮説は成り立つのだ。

「仮説というアンテキヌスは、常に実証という番いを求めて童貞のように鼻息荒く、忙しなく走り回る」と、私の空想の中に現れた科学者が、教科書にはとても載らない類の名言を遺して消えた。彼の専門は不明だったが、その言葉に従って私は背後の窓を下まで目一杯に開けた。高速でスクロールする世界がそこにあった。隣に座っていた小学生が、表情を変えずにこちらをじっと見ていた。私はその視線に押されるようにして窓から身を乗り出し、今朝から喉にこびり付いていた痰を吐き出した。

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