第5話

 4月も半ばである。

 

 桜も花びらの大盤振る舞いを悔いてるんじゃなかろうか。


 今じゃもう花びらは半分以上散ってしまった。

 

 葉桜も乙なものだとしみじみ考えながら放課後、下駄箱前を歩いていると、後ろから底なしに明るい声の男に呼び止められた。

 

 「おっすミツ!

 

 このあと暇か?」

 

 「まだ二週間だってのにこれからやってけるのかお前。」

 

 会話の2手先まで読んでやったぞ。

 

 こいつの魂胆は分かっている。

 

 こいつが宿題を教わりにきたのはもう4回目である。

 

 別に教える分には構わんのだが、高1の1学期だぞ?

 

 つまずくには早すぎやしないか?

 

「おっと、今日は宿題じゃないぜ?

 

 今日から部活体験が始まるじゃないか。

 

 一緒に行かないか?」 

 

 なんだ、違ったのか。


 しかし、そう言われればそうだ。

 

 今日から部活体験解禁である。

 

 新入生は各々希望する部の活動場所へ赴いて体験入部という形で部の活動に参加するのである。

 

「そういえばそうだったな。

 

 吹部は音楽室だっけ?」

 

 ここで俺はマツが妙に得意げ顔をしていることに気づく。

 

 何企んでるんだこいつ。

 

「聞いて驚け! 

 

 見ておののけ!

 

 なんとうちのクラスで一人吹奏楽部に入部するかもしれない者見つけてきたぜ!

 

 しかも男子だ!」

 

 そういうとマツの後ろからひょこっと剽軽そうな顔をした小柄の男が飛び出してきた。

 

「おっす三井くん!」

 

 こいつは確かうちのクラスの香川仁だったか?

 

 持ち前の明るさと芸達者さでクラスの輪の中心にいる。

 

「おっす香川くんだったか?

 

 お前も見学行くのか?

 

 確か中学の時はサッカー部って言ってたような。」

 

「こいつに誘われて見学行くことにしたんだよ。

 

 高校入ったら新しいことにもチャレンジしたいと思ってたし、それに女の子とお近づきなれるチャンスだしな。」

 

 正直だな。

 

 こいつとは仲良くできそうだ。

 

 そんなことを考えているとマツが急に音楽室のある方へ走り出した。

 

「じゃあとりあえず音楽室に向かうか。

 

 誰が一番に音楽室にたどり着くか競争だ。

 

 一番遅かった奴は他の二人からデコピンな。」


  

 俺と香川くんはそれを聞くとお互い顔を見合わせたのち慌てて走り出した。

 

 


  

 

 

 

 

 

 

 

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