第4話

 放課後、俺は校舎裏にいた。

 

 俺の自己紹介の時に声をあげたあの女の子に呼び出されたのである。

 

 流石に面と向かっては恥ずかしかったのか四つ折りにしたメモ帳をさりげなく渡してくる形で俺をここへ誘った。

 

 もしや告白なのでは?

 

 そんな淡い期待も抱きつつしかしながら、初めてあったのにそんな急にと諦観している自分もいた。

 

 そんなことを考えていると、加藤栞が俺のいる方に近づいてきた。

 

 加藤栞というのが彼女の名前らしい。そうメモに書いてあった。

 

 自己紹介を半分聞き流していたのもあって、彼女話した内容の記憶は俺の中にはない。

 

「おまたせ!

 

 ホームルームでのこと謝りたかったのとちょっと話したかったのもあって…」 

 

 と、うつむき加減に俺にいう。

 

「そんな、別にいいよ。

 

 それよりなんであんな風に声をあげたりしたの?」

 

 俺は率直に抱いていた疑問をぶつけた。

 

 すると彼女は少し考えた後話し始めた。

 

「びっくりして、こんなところに三井くんがいると思わなかったから。

 

 あなた800mで地方大会でてた三井くんでしょ?」

 

 まさか、俺のことを知っている人がいたとは。

 

 確かに俺は800mの県予選を2位で通過して地方大会に出場していた。

 

 全国大会は逃したもののそれでも条件次第では参加標準記録を切れていたんじゃないかというところまではきていた。

 

「確かに僕は800mの選手だったよ?

 

 でもよく知ってたね。

 

 中学の時はこの辺に住んでなかったのに。」

 

「私も地方大会の会場にいたの。

 

 まあ、兄の付き添いなんだけどね。」

 

 と照れ臭そうに笑った。

 

「それで三井くんも陸上部入るんだよね?

 

 陸上部にお兄ちゃんがいるんだけど、聞いてみたら今日から練習きていいって言ってたから!

 

 私もマネージャーしようと考えてて見学いこうと思ってたの。

 

 それで、三井くんもどうかなって。」

 

 俺は一瞬たじろいだ。

 

 が加藤さんの方をしっかりみて口を開く。

 

「陸上はもうやめたんだ。

 

 自己紹介でも言おうと思ったんだけどね。

 

 高校からは吹奏楽部に入ろうかなと思ってて。

 

 だからごめんね?

 

 せっかく誘ってくれたのに。」 

 

 加藤さんは一瞬静止して、そのあと

 

「やめた!?

 

 なんで?

 

 あんなに速かったのに…」

 

 と驚いたようにいった。

 

 俺は加藤さんの目を見れず宙を見つめながら


「いろいろあって。」

 

 と、短く答えた。

 

 すると加藤さんは

 

「そっか。

 

 じゃあ見学は一人で行くね。

 

 気が向いたらいつでもきてねー。」


 そういうと加藤さんは後ろを振り返り地面に置いていたカバンをつかむと、てててとグラウンドの方にかけて行った。

 

「陸上か…」 

 

 ぽつりと呟いて俺は小さくなっていく加藤さんの背中を眺めながらしばらくその場に立ち尽くしていた。

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