2020/2/8 漫才×10 MAN-JU


 二月六日、最近始まった、金属バットのYouTubeラジオ『金属バットの声流電刹せいりゅうでんせつ』を聴いていたところ、「今度沖縄で舞台がある」という気になる情報が飛び込んできた。

 調べてみると、八日、九日にそれぞれ別の出番があることが分かった。悩んだが、時間は作れるし、せっかくだからと、八日に十組の漫才師が出演する舞台、「漫才×10」を見に行くことにした。


 出演者には、ミルクボーイ、さや香、天竺鼠もいると聞いていたのだが、まさか開始十五分前に来た頃には満席で、立ち見になるとは思っていなかった。

 ライブは三回目だが、初めての立ち見になった。


 順番が呼ばれているのを待っているときに、私の背後で、出入り口側で待っている男性のお客さんが、「友保さん!」と呼ぶのが聞こえた。

 振り返ると、長髪に革ジャンの後ろ姿が、話しかけている男性に向かって片手を上げながら自動ドアから出ていく所だった。後ろ姿とはいえ、舞台上以外で見れるとは思っていなかったので非常に嬉しくって、番号を呼ばれたのに反応が一瞬遅れてしまった。


 さて、案内された場所に来た頃には、すでに前説も最後の方だった。

 そのため、前説担当の芸人さんの名前を失念してしまった……申し訳ない。






1.猫ノカケラ

 沖縄出身の男性二人組の漫才師。左側が、ボケのキャット上原さん、右側が、ツッコミのガツン!と岸本さん。

 だが、最初は岸本さんがツッコミだとは思わなかった。話の冒頭が、彼の「おなか空いて漫才どころじゃない。ファミレスの店員やって、俺の脳と腹を騙して」というものだったからだ。


 上原さんはもちろん戸惑うが、岸本さんが駄々をこねるので、渋々付き合うことに。しかし、ここからが上原さんの独壇場となる。

 「早く食べたい」と主張する岸本さんに対して、上原さんは長い時間待たせたり、何も食べないうちに帰らせたりしてくる。「早い店にして!」と岸本さんが叫ぶと、今度は「早すぎるファミレス」になってしまう。


 ワードも面白いけれど、上原さんの妙な動きも面白い漫才だった。

 岸本さんのツッコミもおかしいのがあって、「ちゃんと脳と腹を騙してよ! 俺は馬鹿なんだから!」と自ら言ってしまうところには笑ってしまった。






2.イーシャンテン

 沖縄出身の男性コンビ。左側のボケの本田さんは、下の名前が圭祐でちょっとびっくりした。右側は、ツッコミの又吉さん。

 本田さんが引っ越しをしたいので、そのシミュレーションに又吉さんが付き合わされるというネタ。


 本田さんは、わざわざサンパチマイクの間を通って又吉さんの隣に行き、「軽めの荷物から行くよー」と宣言してから作業を始める。

 ほっと掛け声とともに何かを上へ投げて、人差し指で受け止めるというパントマイムをする本田さん。又吉さんも同じように受け取るが、それは洗濯機で、「お前は筋肉化け物か!」とツッコむ。


 それからは、「軽めの荷物」から派生したダジャレボケを続けていく。

 本田さんが、サンパチマイクと又吉さんの間を通ったりするのも面白かった。






3.マルキヨビル

 左側、ツッコミの勝連かつれん康介さん、右側はボケのしゅうへいさんの沖縄出身コンビ。

 勝連さんは、沖縄のローカルヒーロードラマで主役をするほどのイケメンで、しゅうへいさんは顎髭とスキンヘッドと黒縁メガネという、見た目のギャップのあるコンビ。


 早速、勝連さんが「好きなサッカー選手がいるんです」と前置きして、その海外の選手の話をし始めると、しゅうへいさんがそれを遮って、最近コンビニの女性店員が好きになった、彼女に連絡先を聴きたいから、練習させてほしいと言い出す。

 勝連さんは嫌々ながらも、コンビニ店員をやろうとするのだが、しゅうへいさんから「一人だと心細いから、康介も来てほしい」と言われてしまう。


 店員としてカウンターで勝連さんが待っている所へ、しゅうへいさんが来店するとすぐに、「康介ー!」と相方を呼ぶ。すぐに勝連さんがしゅうへいさんの隣へ飛んで行って、自信のない彼を励まし、また店員役に戻って、接客する。

 「連絡先を教えてください!」の申し出に、店員の返事は軽めの「オッケー」。喜ぶしゅうへいさんをよそに、勝連さんはサッカー選手の話を続けようとするが、しゅうへいさんにはまた別の悩みがあって……


 とにかく、好きなサッカー選手の話をしたい勝連さんと、恋の悩みを解決したいしゅうへいさんの噛みあわなさが終始可笑しかった。

 佳境で、勝連さんがしゅうへいさんに対して思っていたことを爆発する場面には、大きなうねりがあった。






4.ピーチキャッスル

 左側が真栄城まえしろさん、右側が桃原とうばるさんの、こちらも沖縄出身男性コンビ。

 つかみが、真栄城さんが人の顔を見ただけで出身地が分かるといったので、客席の一人に話しかけたのだが、全然違っていたというものだった。A市とB市がとても離れているというのは沖縄県民だからこそ笑えるのだが、そういうローカル色を出していたのは今回のコンビの中では珍しかったので、印象的だった。


 ネタは、桃原さんがお料理番組をやってみたいので、それに真栄城さんが付き合うというもの。

 いざコントに入ると、桃原さんは女性アシスタントの演技を始める。真栄城さんは、昨今のフィクション作品でも見ないようなぶりっ子に当然ストップをかける。


 ここで、桃原さんがボケで、真栄城さんがツッコミだと思ったのだが、その真栄城さんが「男ならもっと男らしく」と言い出してから話がおかしな方向へ。

 再び料理番組が始まるが、桃原さんはぶりっ子女性のまま、そして真栄城さんはマッチョというよりも脳筋のようなキャラに豹変して、プリンを作り始める。


 お互いにお互いのキャラを全うし、めちゃくちゃな言動をしていても、それを止めようとはしない。

 そのまま、とんでもないプリンが出来上がり、オチに至った。


 ギャグマンガのような、ツッコミ不在のまま突き進む漫才に、私はゲラゲラ笑った。

 正直、今回見た沖縄芸人の漫才の中で一番好きかもしれない。






5.ハイビスカスパーティー

 今回唯一の女性コンビであり、沖縄花月所属の唯一の女性漫才師でもある二人。

 左側がツッコミのちあきさん、右側がボケのゆかさん。ゆかさんは、既婚者で、旦那さんはトルコ人だとツカみで話していた。


 独身のちあきさんは、どうすれば結婚出来るのかを相談する。ただ、彼女の願望は白馬にのった王子様で、典型的なシンデレラストーリーを夢見ていた。

 ゆかさんは、そんな相方の夢に、「シンデレラには犯罪の匂いがする」と指摘する。その理由は、「ディズニーのシンボルはシンデレラ城と呼ばれているけれど、シンデレラは嫁いできたのだから本来は王子の名前が城についているはず。これはシンデレラのお城乗っ取り作戦だ」というものだった。


 こういう着眼点は今までなかったので、目から鱗だった。それ以外にも、シンデレラが怪しい理由がゆかさんから語られるが、それもまた笑えながらも納得してしまった。

 オチはベタだけど、しっかり落として笑わせてくれた。






6.初恋クロマニヨン

 前回の『9×コント』ライブでも出演していた、沖縄出身のトリオ。左が比嘉さん、真ん中が新本さん、右が松田さん。

 飲み会の後の酔っぱらいの介抱が大変だという話から、酔っぱらい役を新本さんにやってもらい、それを家まで送り届ける練習を始める。


 べろべろになった新本さんを送らなければならないのに、比嘉さんと松田さんはなんだかんだ言いくるめて一人で帰そうとする。

 途中からボケの二人が、大昔に化け物に生贄を差し出さなければならない村人たちのコントを始めたときは、余りの無関係さと脈略のなさに会場が沸いた。


 なんとか三人でタクシーで乗り込むところまでできたのだが、そこからもテンポのいいボケとツッコミが繰り広げられる。

 新本さんの酔っぱらいの演技が上手くて、まあ、こんなに横暴な酔っぱらいだったら、放っておきたくなるよなってラインが面白かった。






7.さや香

 M-1の決勝戦の経験もある実力も人気も申し分のないコンビ。ただ、私は今回漫才を見るのは初めてだった。

 あいさつの後、新山さんが最近のAIの進化がすごいと話し始める。例えば、インドネシアでこんなことが起きたと。


 インドネシアの博士が、見た目も人間にそっくりなAIロボットを作り出した。博士が「人間を滅ぼしますか?」と尋ねると、AIは「はい」と答える。さらにAIは、

「しかし、博士は友達なので、滅ぼしません。代わりに、人間動物園へ収容します」と続けた。

 その話をした後、新山さんは宣言した。「人間動物園に収容されたら、俺は一生懸命AIを楽しませる」と。


 恐ろしい話を聞いて、しーんとしている所への最初のボケ。会場の爆発はものすごいものだった。

 もちろん石井さんは何を言ってんだとツッコむが、新山さんはAIはこんなに進化しているから、必ず人間は滅ぼされる、ならば芸人として、AIも全力で楽しませたい、と。その後に新山さんが提案する、「新山の餌やり」とか「新山ショー」とか、その一言ごとやシミュレーションだけでもうねるぐらいに会場が笑っていた。


 このくだりが一段落した後、石井さんがこんな怖い話ではなく、最近あった話をしようと言い、財布を拾ったことを話す。

 そこから、新山さんが財布を拾った時に、石井さんが天使や悪魔になって、諭したり誘惑したりしてくる。


 「財布を拾ったら自分の中の天使と悪魔が出てきた」というのはよくある設定だけど、ボケの人が拾う側になるのは新しく思った。新山さんは石井さんの言っていることにすぐ乗っかるし、さらに一つ重ねてくる。

 最終的に、天使と悪魔に振り回されていることにキレた新山さんが、まくし立てる新たな展開は、その視点に感心しながらもめちゃくちゃ笑った。






8.ミルクボーイ

 2019年のM-1チャンピオン! やっぱり拍手の大きさは一番だった! 優勝おめでとう!

 八月のライブで初めてミルクボーイを見て、その面白さに度肝を抜いたけれど、チャンピオンになった状態で見れたのは嬉しかったし感動した。


 今回、つかみで駒場さんがもらっていたのは跳び箱の六段目だった。何をもらっても、内海さんが「こんなん、いくらもらってもいいですからねー」と必ず言うのが地味に好きだ。

 ネタの冒頭は、駒場さんが「おかんの好きな秋の味覚」が思い出せないというもの。早速内海さんがヒントから答えを推測するのだが、「栗」と「栗じゃない」のループが始まる。


 ミルクボーのネタの、「あー、あるあるだねー」と「いやー、それはないでしょー」の積み重ねが、脳を揺さぶられるかのように笑えるので楽しい。

 「栗はアダムとイブが食べるなと言われたら、絶対に食べない」と「栗はお風呂に浮かべない」というツッコミ(?)が個人的に好き。


 「栗」の話は一段落して、今度は駒場さんが「おかんがよく使う薬が分からない」から、「湿布」のネタへ。

 「湿布」は、八月にも見たネタだけど、その時にはなかった下りが入っていたりして、また十二分に笑えた。新たな「あるある」を組み込めるってところが、このネタの強いところかもしれない。






9.金属バット

 推しの満を持しての登場。会場から歓声が上がっていたのは、多分気のせいじゃない。

 ちなみに、出囃子は「ガラスの割れる音&拍手喝采」だった。いや、嘘みたいなんだが、本当なんです。八月は別の出囃子だったので、あれが生で聞けたのが嬉しかった、なんていうとかなりイタイファンになっている気がする。


 さて、今回は前列が何故か二席分開いていることをいじってからのスタート。

 沖縄暑いという話から(実際には、この日の沖縄は結構寒かった)、涼しくなるために小林さんが怖い話をすることに。


 「近所でも有名な廃屋……廃墟……廃旅館、いや、廃病院があって……」という冒頭から、かなり怪しい。その後、移動手段が変わっていったり、ドアの開け方を試行錯誤したりと、明らかに可笑しい。

 友保さんから、「今、考えていない?」とツッコまれるが、小林さんは最後までこの怖い話を語り終える。その恐ろしいオチとは……。


 「全然怖くない!」とキレる友保さん。そこで、小林さんが実際に経験した、恐ろしい出来事を話し始める。

 丑三つ時、家に帰る途中で神社の前を通ろうとした小林さんは、そこに不気味な老婆がいることに気付き、回れ右をするのだが……。


 初めて見るネタを生で見れてこの上なく嬉しかった。

 ボケもツッコミも、金属らしくて大好きなんだが、これを見ていたちびっ子たち(結構いた)は理解していたかどうか、ご両親に意味を聞かれたら困らないかがちょっと心配。






10.天竺鼠

 今回の大トリは、天竺鼠でした。ミルクボーイかなと思っていたけれど、芸歴順なのだろうか? ミルクボーイと金属バッドがどっちが上なのかよくわからないけれど。

 私は川原さんのボケのテイストが好きで、YouTubeの公式チャンネルもちょいちょい見ているのだが、漫才以上のサプライズがあった。それについては後述。


 マナーが悪い人に対して、どう注意すればいいのかという話。

 川原さんは、「じゃあ俺がマナー悪い若者をやるから、お前が温泉やって」と急に言うのが最初の最大風速だった。戸惑いながらも、自分なりの温泉をやっている瀬下さんもすごい。


 今度は、電車でマナーを悪い人を注意しようという流れに。そんなの簡単だとうそぶく瀬下さんは、川原さんにマナー違反を注意するが、「腹から声が出てない!」と逆に怒られてしまう。

 そこから、ますますカオスな状況に陥っていく。ありえないけれど、電車に乗っていて、こういう状況には絶対に遭遇したくない。


 その後に、子供が多いからという理由で、川原さんがヒーローになるから、瀬下さんは怪獣として暴れてほしいと言い残し、舞台をはけていく。瀬下さんは、嫌そうだったけれどちゃんと言われた通りに、怪獣として沖縄の観光名所を踏みつぶしていく。

 沖縄花月が入っているとまりんが踏み潰されようとしたその時! ナスの被り物をして、サングラスをかけた川原さんが現れた!


 ……いや、まさかのまさか、なすびくんを生で見れるなんて。変な話、この日一番、「芸能人をこの目で見た!」って感じがした。

 その後、川原さん、もといなすびくんは怪獣・瀬下さんに攻撃をするのだが、その馬鹿馬鹿しさに腹を抱えて笑った。






 以上が、今回ネタを見た十組の漫才のざっくり概要である。こういうレポートのようなものを書く時は、どういうボケツッコミまで書いていいのか、関西弁の面白さは文字で伝わるのかとか考えてしまう。

 長々と失礼しました。また、ライブに行ったら、このようなレポートもどきにもお付き合いください。
























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