2020/1/13 9×コント~きゅーこん~


 さる一月十三日成人の日、那覇の沖縄花月内で開かれた、九組のコント師によるライブ「9×コント~きゅーこん~」を見に行った。

 見に行った一番の理由は空気階段が出るから。もちろん、ライスやマヂカルラブリーも楽しみだが、正直殆どの出演者を知らない状態だった。


 時間内に来れたので、初めて前説というのも見た。担当したのはヤンバルナゴンというコンビ。

 拍手などのレクチャーや声出しの後に、ちょっとネタもしていた。宣材写真のものまねで、見た瞬間に「あー、分かる!」というのが新鮮だった。






1.利根川ホプキンス 「不動産屋」

 沖縄花月で活躍中の、男性二人のコンビ。調べてみたら、結成三年目という若手で驚いた。

 不動産屋に、一人の黒づくめの男が来店する。とある噂を聞いてきたという。それは、この不動産屋が空き巣に向いている物件を紹介するというものだった。


 客は、まるで物件を探しているかのように「今すぐ空き巣に入れる家」を注文する。店員は色々と紹介するが、「家主の年収が低い」や「セキュリティがしっかりしている」や「トラウマがあるのでペット禁止」などの条件が厳しくて決まらない。

 しかし、客が得意な手口であるピッキングに一番向いている物件を紹介してもらい、彼はそこに決める。書類に氏名と住所を書く必要があったが、偽名でオッケーだといわれて、ちゃんと書いてから出て行った。


 物件紹介を空き巣にするという非常にブラックな内容。

 オチも皮肉が効いていて、スカッとした。






2.大屋あゆみ 「職場の電話」

 こちらも沖縄花月で活躍中の、女性ピン芸人さん。

 オフィスの中で電話が鳴り響いているが、その席の人は休憩で外出中。そこで、大屋さん演じる掃除のおばちゃん・下地しもじさんが自己判断でそれを取ってしまう。


 電話の内容から、このオフィスが沖縄気象台で天気予報の177の番号にかかってきたものだと分かる。

 ただ、一介の掃除のおばちゃんである下地さんは、礼儀正しく抑揚のない喋り方ができず、自分の名前を言ってしまうし、事情も話してしまうし、「十パーセント」を「じっパーセント」と言ってしまうほど方言も全開。


 もちろん何度も隣の男性に注意されるのだが、それに反発して、さらに自然体すぎる応答をエスカレートさせていく。とうとう、この席の人が戻ってきたのも、大丈夫だからと追い返してしまう。

 沖縄の、陽気でおしゃべりなおばちゃんの形態模写が上手くって、あるあるネタに爆笑した。これ、沖縄県外に伝わらないのがちょっともったいないくらい。






3.ありんくりん 「谷茶目たんちゃめー

 谷茶目というのは、沖縄の民謡とそれに合わせた踊りのこと。黄土色に縦じまのある着物の二人組で踊り、一人はドジョウ掬いのようなザル、もう一人は船の木製のオールを持って踊るのが特徴。

 これを舞台で踊るので、相棒と練習を積んできた比嘉だが、その相棒が急遽出れなくなり、代理と練習することになる。しかし、その相棒はカルフォルニア出身、言葉は全て英語のクリスだった。


 舞台袖から踊りながら音楽に合わせて出てくるのだが、クリスは真面目に練習しない。オールをエアギターのようにしたり、ライフルのように構えたり。

 比嘉が怒って方言でまくし立てても、どこ吹く風だ。「まじめにやってよ!」「Yes!」「ふざけないでよ!」「Yes!」と元気よく返事していたのに、急に言われた「普天間返してよ!」には無言で苦い顔をする。


 クリスのふざけがパワーアップするので、比嘉は今度は物で釣ろうとする。

 「バーガーあげるから!」「No」「ピザあげるさ!」「No」「辺野古あげるから!」「Yes! Yes! Yes!」のやり取りに、比嘉は「怖い怖い怖い!」と走りだすのだが、失礼ながらここで笑いが止まらなかった。


 こちらもローカル色が強いコントだが、ふとした風刺が個人的には好きだ。見た目から沖縄人らしい比嘉さんと、ダブルのクリスさんとのコンビだからこそできるコントだと思う。

 あと、私は方言とか全く聞き取れない方だけど、比嘉さんのセリフはちゃんと分るのがすごかった。






4.初恋クロマニヨン 「CMを感動ドラマに」

 こちらも、沖縄花月の男性トリオ。コントも漫才もできて、沖縄のお笑い芸人ナンバーワンを決めるO‐1グランプリで去年優勝するほどの実力派。

 このコントは、沖縄のローカルCMが元ネタになっている。こちらはご参考に→https://www.youtube.com/watch?v=oXKDWMSKsLA

 これに感動ドラマを付け加えたというもの。


 上司がふと発した方言も嫌がるくらいに、方言嫌いの女性・ヒデミ(顎髭が濃いけれど、ここでは女性である)。その理由は、方言で子供の頃に家から出て行った父親を思い出すからだというものだった。

 そこへ、一人の男性客が来店する。そして、先ほど挙げたCMのやり取りになり、それだけで会場は爆笑に包まれてる。


 コントはCMの後も描き出す。ヒデミは客に方言が嫌いな理由を話すうちに、彼こそが自分の父親だということが発覚する。

 父親は家出したことを謝罪し、一緒に暮らそうと提案するが、ヒデミは激しく取り乱し、上司に突進するかのように店内を逃げ回る。しかし、そんな彼女にも父親は必死に説得して……


 こちらも、バリバリ沖縄色の強いコント。

 面白かったけれど、沖縄県外の人にこの面白さを伝えるのは難しいだろうなーと、見た後はどう描くかに悩まされた。







5.空馬良樹 「新車のAI」

 こちらは沖縄出身の男性のピン芸人。

 新車を買った男性は、早速後部座席のチャイルドシートに娘を載せて、AIを起動させる。


 AIにドライブに会う曲を注文すると、お化け屋敷で流れるようなおどろおどろしい音楽を流しだす。また、「バックしてください」と言い過ぎて、車をぶつけてしまい、すぐにAIの可笑しな点が出てくる。

 このことを責めると、AIは人間のように拗ねた言い方になる。しかし、ハイオクを入れるといえば、すぐに機嫌を直してしまう、非常に現金な面もある。


 AIの無茶苦茶な指示に振り回されちゃう空馬さんのストレートな怒りが面白い。

 ラストは、簡素なセットと先入観に驚かされるもので印象的だった。






6.男性ブランコ 「守護霊」「数学泥棒」

 二人とも関西出身のコンビ。コントの時はしていなかったけれど、普段は二人とも眼鏡らしい。

 コントは短めなのを二本だった。一本目のタイトルは「守護霊」。


 最近ついていない男の前に、守護霊が現れる。

 お前がいながら、俺はなんで酷い目に遭うんだと憤る男に、守護霊は、自分が頑張って、ものすごいマイナスからちょっとマイナスまで持ち上げているんだと主張する。


 すると、その守護霊の後ろから、また守護霊が現れる。

 守護霊は、守護霊の守護霊に文句を言うが、彼もものすごいマイナスからちょっとマイナスまで持ち上げてもらっていた。


 そしてその守護霊の守護霊の後ろには……とどんどん続いていく。

 ちなみに、このコントは二人が人間の男、守護霊、守護霊の守護霊を順番に演じているので、舞台の幅を大きく使っていた。


 オチの後、浦井さんがはけて、次のコントの準備をしている間、舞台上に残った平井さんが自己紹介をしながら場を繋ぐ。

 浦井さんは今回、飛行機に乗り遅れて四万の自腹を切ってきたらしい。あと、これは後日ツイッターで知ったのだが、空気階段のもぐらさんも同じく乗り遅れたらしい。


 さて、次のコントは「数学泥棒」。

 数学の授業中、教師はa・b・cの点を繋ぐように参画を書いているが、後から教室に入ってきた生徒・浦井が点aを盗んで逃げだす。


 教師はそれを追いかけるが、浦井はXを地面に巻いてまきびしにしたり、Y軸とX軸をアスレチックのように配置したりして邪魔をしてくる。

 そして円周率を延々と伸ばしてルームランナーのように配置し足止めするが、それを「π」に置き換えられ、追い詰められてしまう。教師が浦井になぜこんなことをするのか問い詰めると、彼の様子がおかしくなり……。


 コントの発想源からとんでもないのだが、そこから組みあがっていくのが理論的な印象だった。

 特に「数学泥棒」は、数学あるあるが散りばめられていて、懐かしさと共に笑っていた。 






7.空気階段 「ネズミ」

 この場では説明不要かな。二〇一九年のキングオブコントの決勝にも進出した、見た目の個性は強いけれど、しっかり実力派のコント師。

 ちなみに、今回のネタを私は初めて見たので、否応にもテンションが上がった。


 パチンコで隣になったおじさんにライターを貸したお礼にと、寿司と焼き肉をおごってもらい、そして現在は銀座の高級クラブで五十万のウイスキーをごちそうしてもらっている青年。

 おじさんは、全開きのアロハシャツに中は白いランニングシャツ、野球帽を被っていて、ウイスキーで歯が抜けてしまい、残りはあと八本という風貌。青年は、そのお金持ちには見えないこのおじさんの仕事は何なのかを尋ねる。


 実はおじさんは、青年が博打のやりすぎで借金を抱えていることを見抜き、自分と同じ仕事で手っ取り早く稼がないかと誘うのが目的だった。

 その仕事とは、実験用マウスで成功した薬を一般人に試す前の被検体になる、「ネクストステージアンノウンミッション(うろ覚え)」、略して「ネズミ」だった。マグロ船よりも稼げるのだが、青年が不安がる通り、恐ろしいリスクも……。


 もぐらさんが得体のしれないおじさんを演じる、空気階段のスタンダードを見れて、本当に感激した。

 やっぱり、生の迫力ってすごい。座っているもぐらさんのおなかもすごい。もちろん、ネタも爆笑ものだった。






8.マヂカルラブリー 「平成ラッパー合戦」

 キングオブコントとM-1、どちらの決勝戦も経験している実力派コンビ。

 私は野田さんの作る世界が非常にツボで、コントや漫才はもちろん、野田さんの手作りゲームでも転げ回るぐらいに笑っているので、今回も楽しみだった。


 暗転の中、女の子が「ここには野生のラッパーがたくさんいたの?」と無邪気に尋ねる声が。それに対して、おじいちゃんが「ああ。いたよ」と優しく答える。

 おじいさんが語る、野生のラッパーがいなくなった理由。それこそが、「平成ラッパー合戦」である。


 村上さん演じる社長は、山を崩して行う都市開発を、葉巻片手に満足そうに眺めている。

 それを憎々しげに眺めている一匹のラッパー……赤いバスケットのユニホームに金のネックレスをした、絵に描いたようなラッパーあの格好をした野田さん……は、開発を止めるために、社長の前に現れる。


 社長に「帰れ、マジ帰れ、超帰れ」と歌いだすラッパー。しかし、社長には全く効かず、むしろ追い返されてしまう。

 そこで、ラッパーたちは群れをなしで最終手段に打って出る。

 

 当たり前のように、「ラッパー」が野生生物として存在している世界のお話。動物園にもいるらしい。

 あと、元ネタは「平成狸合戦ぽんぽこ」で間違いないだろう。ジブリ作品で一番好きなものなので、何気に嬉しかった。






9.ライス 「誘拐」

 言わずもがな、キングオブコント2016のチャンピオン。

 チャンピオンのネタ、こんな近くで見てもいいんですか? ってくらいに、贅沢な体験をさせてもらった。


 泣きじゃくる誘拐された子供(関町)に、誘拐犯(田所)は脅しをかける。その度に、子供は「ママー!」と「お母さーん!」を繰り返す。

 最初は子供の叫び方やメロディのあるような泣き方で観客は笑っているのだが、誘拐犯が「ママ」と「お母さん」、呼び方が二パターンあることに気付いてから流れが変わる。


 色々試す内に、誘拐犯は銃を向けられたら「ママ」、何も向けられなかったら「お母さん」と言うことに気付く。

 そこでさらに検証していくのだが、刀を向けたときに、子供、というか関町さんが、「まま、母上ー!」と言い間違えてしまう。


 そこから、田所さんは拳銃を向けるか、刀を向けるか分からないようにして、関町さんを試し始める。

 関町さんはずっとやっていた泣きの演技を止めて、椅子ごと田所さんに向かい、本気で答えようとするのだが、田所さんのフェイントが上手くて結構噛んでしまう。


 個人的に、漫才よりもコントの時の方がアドリブとかトチった時の処理が大変だと思うけれど、関町さんが噛んだことから急にゲームになっていったのには笑いながらも感心した。

 こういうライブならではのやり取りも見れて、本当に得したなと、ライブ二回目の癖にそんなことを考えていた。あと、本来の展開が気になるので、後々公式チャンネルで見ると思う。


 とまあ、新年一発目の『笑う門』更新だったのだが、「去年のM-1レポートもまだ書いていないのに、こちらを優先するのか」と思いつつ、「でも、できるだけ感動が残っているうちに書きたいな……」と思っていたので、結構頑張った。

 M-1の感想も、今月中にはアップしたいと思っているので、そちらもお目を通していただければ幸いです。


















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