バカリズム 編


 一番好きな芸人さんは、バカリズムさんである。

 ……正直、「バカリズムさん」ではなく、本名の「升野さん」と基本的に呼んでいるくらいに好きで、尊敬している。しかし、今回は趣旨がずれるかもしれないので、「バカリズムさん」と呼んでいく。


 爆笑レッドカーペットでトツギーノのネタを見た時が、一番最初だったと思う。それから、R-1で披露していた地理バカ先生のネタで、完全に好きになった。

 私はまあまあ、バカリズムさんのヘビーウォッチャーの自覚がある。ライブのDVD、脚本ドラマ、出演バラエティ、大体見てきたと思う。


 脚本とか、司会とか、演技とか、話術とかでのバカリズムさんの魅力もたくさんあるのだが、今回はネタに絞って語っていきたい。

 とはいえ、バカリズムさんのネタにも、様々な要素があると思っているのだが、個人的に一番すごいと思うのは、シビアなまでの客観性である。


 大学の時の恩師が、「人は主観からは離れられない」と言っていたけれど、一番客観に近い目線を持っているのは、バカリズムさん説を提示したい。

 怪談の口調で普通の話をしている「急カーブ」、100メートル走でとんでもない新記録を出してしまった男の会見「はやすぎた男」、娘に生物の名付け方について父親が説明する「久保家の縁談」など、当たり前だと思われている物事を俯瞰的に見て、そこから笑いを生み出していく。


 特に、その客観性が一番発揮されていて、もはや笑いを通り越して恐ろしさを感じるネタは、「40LOVE~幸福の類~」だと思う。

 独身のまま四十歳を迎えた男は、観客に対して「誰かと結婚するのではなく、妄想の中で結婚生活を送る」という境地に至ったと語る。


 そこから、架空の女性との結婚生活を一人芝居で繰り広げていくのだが、そこがものすごくリアルなのだ。

 新婚時代を過ぎた後に、二人の倦怠期が始まり、男はキャバクラに通うようになる。懇意になったキャバクラ嬢がいながらも、妻への愛を選んで、家に帰ってくると、妻はテニスのコーチと不倫をしていた。


 ……妄想の結婚生活なのだから、幸せそのもの、順風満帆な生活を想像すればいいのに、すれ違いや不倫を想定に入れてしまう。まるで、これらも結婚の醍醐味だと言わんばかりに。

 そして、始まる衝撃の展開。視聴者を引き込めるまで引き込んでから突き落とすようなオチ。バカリズムさんのネタで一番怖いオチだと思う……「科学の進歩」のオープニングコントと悩むが。


 面白いネタを見ていて、この人ホント頭いいなあーと唸ってしまうことがあるけれど、バカリズムさんのネタはそのロジカルさと多角性から、脳みそが笑っていると感じられるのが非常に楽しい。

 ただ、ひたすらにくだらない内容のネタも大好きだ。特に、二人の人物による擬音満載な会話の「ギオオオオオン!」は一部を完コピしてしまうくらい好き。


 これくらい客観性があると、生活の中で面白いと感じられることがあまりないんじゃないかと、勝手に心配してしまっていたことがあった。

 なんというか、楽しんでいる自分も俯瞰で見てしまっているのではないかとか。


 しかし、バカリズムさんがOLのふりして書いていたブログ、「架空OL日記」(知らない人からすれば意味不明だが、一先ず呑み込んでほしい)にて、こんな一説にはっとさせられた。

 OLの升野さんが、同僚の人たちと美味しい韓国料理を食べた時に、周りが「こんなにおいしい料理が食べられるなんて、韓国人になりたい」というようなことを言っている中、この前はベトナム人で、アメリカ人やイタリア人の時もあったと思い返している。

 しかし、その日のブログの最後は、こんな一言で絞められている。


「私は、いろんな国のおいしい料理が食べれる日本に生まれてよかったと思う。」


 私の心配は、杞憂だと思い知らせれた。

 ああ、バカリズムさんは、その客観性を持って、当たり前や日常を楽しく見る方法も知っているのだと。


 まあ、そう色々と言ったが、このやり取りも結局は架空だという事を思い起こさせられると、また恐ろしくなってしまうのだが。

 妄想とか架空とかについての話が中心になってしまったのだが、バカリズムさんは危なくないので、大丈夫ですよって、何言ってんだ、余計な一言かもしれない。


 バカリズムさんのネタは、公式YouTubeチャンネルで見れるので、興味を持ってくれた方ぜひぜひ。

 個人的お勧めは「ルール」と「六本木の女王」です。


















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