52日目  新鹿ー熊野


 いよいよ熊野を目指して出発。

 まずは新鹿湾の海岸線を横手に見ながら伸びる国道を通っていく。

 けれどすぐに右に左とくねくねと山の中に登っていく。古道も国道も山を通るのは変わりないのか。

 そんな道を進んでいるうちに波田須町に入った。ちょっとした長さのトンネルはダッシュで越える。こういう道ばかり歩いていると、古道の車の通らない道が懐かしくなる。でも山登りをすると後悔する、その繰り返しである。


 ぽつぽつと住宅が目立ってきた。国道は高い位置を通っているので、左手の眼下にも段々とした大地に家々が立ち並んでいる。その奥に見えるのは海。なかなかの光景だ。

 ちなみにこの間には、波田須の道という熊野古道ルートがあったんだけど、古道ではなく国道ルートにした。GPSの移動速度が、山道とは明らかに違うよ。

 道の脇に観光案内板があって、徐福の里と書かれていた。不老長寿を求めてきた中国の人だ。伝説なのか本物なのかは不明だけど、中国からこんな果てに不老長寿の手がかりがあったのだろうか。


 国道を進んでいると道路上の案内板に「熊野市街7キロ」の文字が。これを見るとこのまま国道を進みたくなるけど、乗用車さんのためにも今度は古道に入る。大吹峠だ。さぁ今日も頑張って登ろう。

 熊野古道も三日目。慣れたものだ。けれど歩いていて、ふと違和感を覚える。そして気づいた。周りの木々が、杉じゃなくて、竹、竹林なんだ。

 案内板があって、大吹峠まで250mとあった。歩いてきた国道311号線方面も同じ距離が記してあったので、ちょうど半分だ。


 そこからはさすがにくねくねとした登りで甘くなかったけど、しばらくして広々としたところに出た。ここが大吹峠だ。案内板によると昔はここにも茶屋があったみたい。しかも昭和25年。意外とちょっと前って思ってしまったのは、頭が古道に支配されているからだろうか。

 さてここからは下り。この辺りも竹林が目立つ。しっかり手入れされていて、伐採された竹が、いかだのように横に並んでまとめられているのが、至る所に見られる。


 そして無事古道の出口(反対側)に到着。案内板に「約1キロ。なだらかでハイキング気分で歩ける」と書いてあったけど、まさにそんな感じだった。そこから少し歩いていくとアスファルトが見えてきた。そしたら、こちら側の入り口に衝撃の文言が。

「スズメバチに注意してください」「落石につき通行注意」「熊出没注意」

 ……早く言ってほしかったような知らない方が良かったような。気づかなかったけど、向こうの入り口にも書いてあったのだろうか。


 さぁまた国道311号線だ。沿って歩いているうちに、海が見えてきた。

 大泊だ。町並みを抜けるように歩いていると、熊野古道松本峠の入り口が見えてきた。出発前はここを越えて熊野市街に行く予定だったけど、そこを通らず、迂回する国道311号線を歩くことにした。地図を見たら自動車禁止の歩行者用トンネルがあることに気付いたからである。

 綺麗に舗装された道を行くと左に「世界遺産鬼ヶ城」とあったけど、寄り道する気分でもなかったのでそのまま進み、トンネルに入る。自転車車通行禁止509mの歩行者専用トンネルだ。

 ゆったりとした気分でそこを抜けると、家々の屋根、街並みが広がっていた。

 ついに熊野に到着だ! 長かった。伊勢神宮から9日もかかったよ。


 住宅地を抜けるように歩く。これまではずっと選択肢がほとんどない一本道ばかりだったので、右に左に歩くのが懐かしい。ファーストフード店も懐かしい。そこで遅めの昼食を摂って、ゆっくり休憩する。

 足の疲れも癒えて駅へと向かい、世界遺産の都市熊野駅に到着した。平屋でそれでいて広く、歴史を感じられる駅で、いい感じだった。

 というわけで今日はここまで。お疲れさまでした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る