40日目  奈良ー伊賀


 さぁ今日は久しぶりの山越えである。

 昨日は早めに寝て、今朝は早目の出発。まずは国道369号線を東、春日大社・東大寺方面へ進む。この時間帯なので、観光客より通勤通学者の方がたくさん目に入る。

 奈良公園前を左に曲がって北上。東大寺の前を通る。駅から徒歩で観光地まで向かう人なんて自分だけなんだろうなって思ったけど、30分くらいなら、普通の観光客も歩いて行けるかな。


 そこからは少しでも歩く距離を縮めるため、右へ左へと、住宅地の間を北東に進んでいく。瓦葺きの一軒家が多くて歴史を感じられる。

 その住宅を抜けると、なだらかな山と荒れ地しか見えなくなってきた。再び国道に合流して進んでいく。歩道はあるけど駅前の通勤・通学・観光客のような徒歩の人は見られなくなった。それでも信号を見るとホッとする。さすがに家や会社もぽつぽつあって、全くの山の中ってわけじゃないけど。

 歩いていてほっとしたのは歩道がまだ続いているのと、車通りがほとんどないこと。けれどそれも途中まで。予想通り歩道もなくなって道幅も狭くなった。他に迂回路もなさそうだし開き直るしかない。


 Y字路は左に進む。ここからは国道から、県道33号線、笠置街道と呼ばれる道を行く。感覚的には伊豆諸島で、西伊豆から中心の修善寺に向かった時と似ている。どっちも東に向かっていたし……というのはたまたまだろうけど。あのときはバイパスとは違うまったく車の通らない迂回路を使ったんだっけ。おかげでものすごく歩くことになったけど。今回は大丈夫だろうか。

 たまに道幅が広いところはカーブのためで、人が歩くためのものじゃない。それでも途中に、東鳴川というバス停の駅があった。公衆電話とぼろい駅舎。古い看板。本当にバスが来るのだろうかと不思議なくらい。バスの代わりに、トトロが出てきそうだ。


 再びY字路を迎える。今度も左に進路を取り、県道752号線を進む。少し道が近代的というか綺麗になったなんて思って歩いていると、京都府木津川市という看板が。あれ? 進路が北寄りの北東方面だったから、京都に戻って来てしまったみたい。出戻りは市町村では三浦半島の横須賀市であったけど、都道府県での出戻りは初めてだ。

 ということは、この道も県道から府道になったのかな。心なしか道が良くなったって思ったのはそれのせいかも。周りも山なんだけど畑になっていて、ちょっとした高原の雰囲気だ。

 道が綺麗になって歩道もできたと思ったら会社もあった。こんな山奥に作っても車必須だろう。こんなところを部外者が歩いていたらスパイと思われないかしら、なんて杞憂を抱きつつ、今度の分かれ道を右に進む。

 対向車線もない小道になってしまったけど、車通りがない分歩くのは気が楽だ。道からは、棚になった畑も見えて、のどかな雰囲気が悪くない。

 なんて思っていたら一気に山道になった。山の中を抜ける道路じゃなくて、右と左に木がまっすぐに立っている本物の山道だ。よくこんな道を登録したなと、グーグルマップさんに感心する。木に覆われているから、昼間なのに薄暗い。これで天気が曇りだったらたぶん真っ暗なじゃないだろうか。


 けど山道を抜けるとぱっと光が差し込んできて、目の前に広々とした畑が見えてきた。山々に囲まれていて、ちょっとした隠し里気分だ。まだ先だけど、実際伊賀に向かっているのだから、間違いではないのかも。

 おお電柱だ。電線だ。家だ。対向車線付きの道だ。歩道もある!

 変なテンションで感動していると、県道33号線の看板が。県道ということはまた奈良県に戻ったんだ。そういえば伊賀って何県なんだろう。いまさらだけど。


 ちょっとした集落を進んでいると、久しぶりに自販機があったのでジュースを買う。そういえば、昼食はどうしよう。ゆっくり食べるところがなさそうだし、久しぶりに我慢するかな。奈良の駅前で、パンか何かを買って来ればよかった。

 後悔しつつ再び山の中へ。右手にあるちょっとした川に沿うように進む。この川の上流に須川ダムというのがあって、放流の際はこの川が増水するみたいなことが書かれていた。


 さて再び山道に入って建物が見えなくなったかと思うと、突然左手に青い建物が現れた。その名前は「こうもり博物館」何これ。建物は普通に窓があってペンションかアパートみたい。

 怪しさに興味が惹かれたので、せっかくなので寄ってみることにした。

 入場料は200円。入口に「特定非営利活動法人 東洋蝙蝠研究所」と書かれていた。なんか怪しい。

 中は博物館というより、大学の研究所の一角って感じだった。ごちゃごちゃしている中に蝙蝠の標本が多数置かれている。見ているだけならふさふさしていて可愛いんだけど、これが部屋の中を飛んでいたら阿鼻叫喚だろうな。壁には手書きの説明が張られていて、学校の文化祭みたいな感じだ。けど蝙蝠はほんものだし、解説も分かりやすく本格的で勉強になった。あと食器などの蝙蝠グッズも色々置かれていて面白かった。わざわざ観光で来るのはどうかと思うけど、ついでに寄るくらいなら十分楽しめると思う。


 いい気分転換になって出発。しばらく歩いたら、「京都府笠置町」との看板。あれ? また京都に入るのか。

 しばらく歩いて関西本線の笠置駅に到着。やっぱり駅があるとホッとする。けど食べるところは無かった。仕方ない。駅前には昭和を思い浮かべるような建物が並んでいて、逆に風情があった。パナソニックな電気屋さんとか。二階にビリヤードって看板があるけど、今はもうやっていないんだろうな。


 そんな町並みを抜けると薄赤い鉄筋の目立つ大きな橋が見えてきた。木津川を渡る笠置大橋だ。歴史を感じさせる橋の真ん中に立つと、山々に囲まれた間を縫うように流れている木津川が一望出来た。

 って木津川って奈良に来るとき通った川だよね。地図を照らし合わせてみると、昨日奈良に向かって歩いてきた道から直接ここに来た方が、奈良駅から来るよりも距離が短かった。奈良駅という目標を立てなければ(あと泊まる場所があれば)、もっと楽できたかもって、ちょっと疲れが出てしまった。


 そんな思いを抱きつつ橋を渡って国道163号線に入る。そこをしばらく進むと久しぶりのトンネルに出会った。その名も笠置トンネル。しっかりと歩道があるので直進する。全長は書いてなかったけど、思ったより長かった。

 トンネルを抜けるとさきほどの木津川を沿うように道が続いている。川の分視界が広くなっているので、開放感が感じられる。雰囲気的には伊豆の真ん中を歩いているときかな。

 いい気分で歩いていたけどやはり歩道はそんなに続かず、途中からはまた歩道なしの狭い道だ。

 道路上の青い看板に「伊賀」の文字があったんだけど、その距離は20キロ。さすがにまだ遠いけど、もう半分近くは歩いていたわけだ。


 JRの大河原駅に到着。駅舎がポツンとあるだけで、駅前には何も無い。トイレと休憩させてもらった。さすがに疲れてきたたけど、泊まる場所もなく進むしかない。

 大河原の駅前の集落を抜けると、綺麗な道に合流した。歩道もしっかり整備されている。これならこっちの道を通ってくればよかったかなと思ったけど、後ろを振り向いたら、「このさき北大河原バイパス 歩行者と自転車は通行できません」とあった。やっぱり徒歩が駄目な道なのか。けど反対側の「この先」だから、自分がこれから向かう先は歩いていいということだ。それはちょっと心強い。


 そのまま月ケ瀬口の駅に到着。こちらも駅前らしい駅前がない。都会的というより地理的な問題で高架になっている駅の下をくぐって線路沿いを進んでいると、また山道になってきた。

 そこに唐突に石碑があって何かと思ったらその上に「三重県」という看板が。三重県との県境だったのだ。いよいよ三重県に突入だ。


 再び国道に戻って交差点。まっすぐ進むと島ヶ原バイパスとあった。人が歩いていいのか心配だけど、歩道があったし、直線ルートなので、あえて進む。地元の人の自転車に抜かれてほっとする。

 道は上り坂。完全な一本道で、山越えといった感じだ。登ったら今度は下り。バイパスは快適に進めた。やっぱり新しい道は良い感じ。むしろその先の国道が、また狭い歩道なしになってしまった。

 それでも根性で進み、ついに伊賀の街並みが見えてきた。長かった……


 国道163号線を出て、伊賀城へとまっすぐ続く道に入って進む。畑が広がっていて、完全に山の中に現れた盆地だった。

 伊賀の中心に入ってくると、思った以上にビルが立ち並んでいて、道路も整備された都会だった。それでも街並みは、やはり忍者の里をイメージしたのか、瓦ぶきの屋根が目立って雰囲気は出ていた。

 けど疲れたので散策する気もなく、まっすぐホテルに向かった。

 というわけで今日はここまで。お疲れさまでした。



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