36日目  長浜ー近江八幡


 琵琶湖にせっかく来たので、どうせなら周辺をくるりと回って京都近くまで……と思っていたけど、よくよく考えれば浜名湖でさえ、一日じゃ済まなくて断念したというのに、日本最大の湖である琵琶湖がそんなに楽に回れるはずがないのだ。

 地図に照らし合わせると、何日もかかけて回った三浦半島・渥美半島・知多半島などがすっぽり入る大きさなのだ。琵琶湖、でかいっ。


 というわけで一周計画はあっさり頓挫して目的地を探した結果、今日は近江八幡まで向かうことにした。失礼ながら初めて聞く地名だけど、検索でホテルが多く出たので、栄えている町なのだろう。それでも8時間近くかかるので楽ではない。まぁ山登りがなさそうなのがせめてもの救い。


 というわけで。今日も早めの出発。

 まずは昨日行った湖のほとりまで移動する。せっかくだから琵琶湖を見ながら歩いたほうが気持ちいい。琵琶湖を右手に見ながら、県道331号線を南下する。しばらく歩いていると、お城の天守閣が見えてきた。長浜城だ。

 天守閣に登ると湖が一望出来て景色が良さそうだけど、早く出発したため、残念ながらまだ開館前だった。というわけで城はスルーして先に進む。お城と公園を通り過ぎると、再び右手に琵琶湖が見えてきた。

 琵琶湖にそって伸びる道には、並木に歩道が整備されて観光気分で歩きやすい。ときおり休めるベンチもあるので、腰を下ろしてのんびり湖面を見つめて軽い休憩を取りながら進む。

 湖側に「長浜水道企業団」というのがあった。やはり琵琶湖の水が飲み水として管理されているのかな。


 先に進むと、道路標識に彦根11キロ。そっか彦根にも寄るのか。

 近江母の里という道の駅でトイレも兼ねたひと休憩。さすが食事にはまだ早い。記念のお土産を買えないのはこの旅の辛いところ。

 さて出発。右手に広がる琵琶湖は風の影響か、やや穏やかな波が立っていた。広大な水面を含め海とあまり変わらない。けど今までは進行上、左に海を見て歩くことが多かったので、右側に水面があるのは不思議な感じだ。

 しばらく湖のほとりを歩きながらあることに気付いた。そういえば、海や川と違って、琵琶湖には堤防がないのだ。だから余計なものに遮られることなく、道からダイレクトに水面が見られるから開放感があったんだ。何となく新鮮に感じていたのは、右側に水面を見ているだけだからではなかったみたい。


 一級河川と書いてあった天野川を渡る。そういえば海にそそぐ川なら、流れは海側だけど、琵琶湖の場合どうなんだろう。いわゆる「琵琶湖の水を止める」って言葉があるし。この川は琵琶湖に注いでいるのではなくて、琵琶湖から出てきているのかな。川の流れって上から見ているだけだと分り難い。

 途中からは少し遠回りかもしれないけど、内陸を通る県道ではなくて湖側の道を進む。住宅と湖に挟まれた小さな道を歩いていると、漁港街を歩いているような感覚だった。

 再び県道に合流すると、いつの間にか左側は山のように切り立っていた。そこを抜けると「彦根市」の看板があった。祝、彦根市入り。ひこにゃんの姿はなかった。

 彦根城に行けば会えるだろうけど、ここからだとまだ見えない。地図によれば、彦根城に行くとなるとそれなりに遠回りになってしまう。結局少し迷った末、このまま先に進むことにした。

 川を二つ渡って、住宅街を抜けるようにして先へと進んでいると、琵琶湖のほとりに並木が並んでいて景勝って感じになってきた。

 多景島遥か石寺浜並木と看板が立っていた。琵琶湖八景って書いてあったので、他にもあるのだろう。


 しばらく続いていた並木も終わって再び車が通るような道路に合流した。

 そういえばずっと湖側しか見ていなかったから、どこをどれくらい歩いているか分からなかった。

 ちょうど公園があったのでそこで休憩。南三ツ谷公園というらしい。途中にあった小さなコンビニ?(有名大手ではない)で買ったパンを食べて昼食替わり。それにしても食事休憩もなく、気づいたら結構な時間と距離を歩いていた。湖パワーのおかげだろうか。


 休憩を終えて出発。左側にも平原が広がっている。久しぶりに右も左もなだらかな平原を見た気がする。なんて思っていたら堤防が見えてきた。大きな川だ。

 川の前に「またおいでやす」と標識があった。なんか京都っぽいけど、近江も都があったわけだしいいのかな?

 川の手前に、東近江市と看板があった。ちなみに川の名前は愛知川。ここは滋賀県だけど、もしかして愛知から流れてきたのかな。今までよりかなり大きな川を渡って彦根から東近江へと入った。

 もっとも橋を渡っても、畑が広々と広がっている風景は変わりない。

 少し歩くと、今度は大同川である。その橋には水車のオブジェが置かれ、水車橋って書かれていた。

 それを渡り終わった先にある交差点を左折。今日初めて琵琶湖から離れ、西へと向かう。近江八幡の駅前に向かうためだが、せっかくなので安土にも寄りたいからだ。


 左側の用水路にそるように道がずっと伸びている。歩道はなくなってしまったが、幸い車通りは少ないし、いざとなったら避けられるスペースはいくらでもあるくらい畑が続いている。むしろ畑というより水田というべきか。稲が青々と辺り一面に広がっていた。

 日差しを遮る場所もない道を進んでいると、標識が見えた。「信長の館・安土城考古博物館・安土城郭資料館・安土城跡」と四か所が羅列されていて、いかにもそれが売りですと押し出している感じが好き。ちなみにどれも4~5キロぐらい先。さすがにまだ遠い。

 この先には地図上では「西の湖」という大きな湖が右手にあるはずなんだけど、作物や草が広がっていてそれらしいのはなかなか見えない。おそらく今いる場所と湖の高さが変わらないくらい、平面が続いているのだろう。

 なんて思いながら歩いていたら「豊かな恵みをはぐくむ農村を……」という幟が立っていて、その下に「近江八幡市」という文字が。いつの間にか目的の市に入っていた。

 昔はこの辺りが安土町だったみたいだけど、吸収合併されたみたい。静岡でも清水市がなくなっていきなり静岡市になっちゃっていたけど、ちょっと寂しいかも。

 しばらく歩くとようやく湖も見えてきた。予想通り陸地と湖面との高さはほとんど差がなく、巨大な水田が広がっているようにも見えた。それにしても、琵琶湖の東にあるのに「西の湖」という名前はちょっと面白い。


 その後は再び県道511号線に戻って南下する。いつの間にか住宅が増え町中に入っていて、しばらくして東海道本線の安土駅に到着した。といっても目の前に城があるわけでもなく、普通の住宅街の中の駅といった感じだ。ちなみに安土城跡は駅からさらに離れているようだ。

 安土城は見たかったけど、さすがに歩きっぱなしで疲れてきたので、そちらには寄らないで、このまま近江八幡を目指すことにした。


 線路沿いを南西にまっすぐ進む。どことなく古い町並みを抜け、住宅街を抜け、畑道を突っ切って進んでいく。途中神社の横をすり抜け、また畑の真ん中を突っ切る。いくらグーグルマップで道として書かれているとはいえ、こんなところを歩いていいのかなと思う。

 それでも県道に突き当たると、ようやく久しぶりに二車線(片道二車線ではない)の道になってほっとした。そこから駅に向かって歩いていくと、歩道もしっかり整備されて道になり、有名チェーン店などがロードサイドに軒を連ね、やがて高層ビルも見られるようになってきた。

 そしてほぼ定刻通り、近江八幡の駅に到着。後半は疲れてきたけど、前半湖畔をスムーズに歩けていた貯金が生きた感じだった。

 茶色い駅舎はすごく大きいというほどではないけれど立派な建物である。

 というわけで今日はここまで。お疲れさまでした。

 


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