17日目  沼津ー富士


 天気は今日も曇り気味。雨の心配はない感じだけど、せっかく富士山の麓にいるだし、綺麗な富士山を見ていたい。

 そんな思いを抱きながら、出発。

 まだ朝早いから閉まっている商店街を通って県道380号に向かう。ラブライブの広告とも見納めになるのかなと思うと、ちょっと寂しかった。

 地図を見ると進む道路の海沿いに、片浜公園という森林が広がっていた。せっかくなのでその公園を突っ切るようにして富士市方面へ向かうことにしてみた。

 海からの防風林となっているのか、生い茂る木々の中に伸びる道は歩いていて気持ちよかった。アスファルトと違って足にも負担が掛からないのは嬉しい。今まで気にしてなかったけど排気ガスもあまりなさそうなのがいいかも。まぁすぐ隣の大きな通りは車が走っているけど。

 この調子で歩いていたら、今日はあっという間に目的地に着きそう。


 …………

 ……


 って、これ、まだ続くの?

 確かに地図を見ると東西に長い公園だけど、まだまだ林が終わる気配はない。なにこれ。もうだいぶ歩いている気がするんだけど、もしかして異世界に突入してたりしないよね?

 本気で心配になって、地図で現在地を確認すると……あれ? 公園をもう過ぎてる……?

 なるほど。この辺りは公園ではないけれど、こうやって防風林が続いている地形だったみたい。地図の緑塗りが消えていたから林を抜けたはず、って思ってしまったけど、山の中も緑塗りで表示されないのと同じことなのだろう。

 まだまだ防風林は続きそうなので、左手にちらちら見えつつ並走していた堤防に上がってみることにした。

 すると絶景が待っていた。おおっ。すごい! 駿河湾が一望できる。右に御前岬。左手には昨日歩いてきた伊豆半島。うっすらと淡島も見える! そしてどこまでも続く堤防の道。歩いてきた防風林も同じように東西にずーっと伸びている。圧倒的開放感だ。今までこの道を通ってこなかったことをちょっぴり後悔してしまった。

 波の音と風の音。少し離れたところを通る車の音。

 それを聞きながら歩いていると時間の感覚も忘れてしまいそうだ。お腹も空かないし疲れもほとんどない。このまま静岡市まで歩けちゃうんじゃないかなってくらい。もし仮に天国にBGMがあるとしたら、波と風の音でいいんじゃないかな。

 海を見ると、左手の伊豆半島がさっきよりうっすらぼやけていて、右手の静岡市の出っ張りの方がはっきり見え始めてきている。遠くに見える工場の煙突っぽいものも徐々に近づいてきている。

 途中浜辺で工事をやっていた。砂浜の保全みたい。お疲れ様です。

 工事現場を抜けてさらに歩いたところでひと休憩。

 あまりにも広いんでどこまで歩いたか分からなくなってしまう。まぁ堤防を進む限り、迷う心配はないんだけど。

 なんて休憩しながら、ふと右手を見たら雲の上に山陰が確認できた。

 おおーっ。

 富士山だ! ちょうど真南の辺りにいるみたいで、堤防から正面に見える。

 いままで、あれが富士山なのかな? って見えていた山とはまったく別で、それより遙か高いところまで山頂が伸びている。遠近感が仕事していない高さは、やっぱり日本一。無事日本一周出来たら、富士山にも登って、上からここを見てみたいものだ。

 富士山パワーをもらって歩き出すことしばし、今度は右手にプールが見えてきた。営業時期じゃないから当然誰もいない。本当に夏になったら営業するのかなってくらい、廃墟みたいで不思議な感覚。ていうか、この堤防の上からだと、プールの中覗き放題だよね?

 さらに歩くことしばし、ようやく堤防の道の終わりにある、公園が見えてきた。歩きやすかった堤防の旅もそろそろ終わりだ。

 とりあえずまずは……トイレに行きたい。

 海と富士が見える公園。誰もいないけど静かでいい感じ。公園のベンチで軽く休憩して出発だ。

 ここからは久しぶりに住宅街だ。

 携帯地図を頼りに入り込んだ道を通り抜け、吉原駅に到着。

 でも休めるところがなさそうなので、そのまま西に向かい、田子の浦港へ。そういえば海沿いをずっと歩いてきたけれど、工場的港湾って初めてかも。大型車両が行き来し、いろんな倉庫や工場が立ち並ぶ中、リュック背負って歩いていると、アウェー感がすごい。

 そんな中歩いていると、突然ブーブーという警戒音?が聞こえてきた。大型トラックが通り過ぎるのかと思ったけどそういうわけでもなく。

 ――もしかして、携帯?

 確認してみると、訓練と称されたメールが届いていた。狩野川が氾濫という設定みたい。へぇ。この辺りに住んでいるわけじゃないけれど、ちゃんとこうやって届くんだ。

 って、今日もまた狩野川かいっ。……やたら縁があるなぁ。

 田子の浦を渡り国道一号線に合流。目的の新富士はもうすぐ。

 大きな幹線道路ということもあって、大型トラックが何台も横を通り抜けていく。さっきの波の音が天国だとしたら、こっちは本当に地獄だよ。

 こうしてようやく、新幹線の新富士駅到着。

 観光地の駅というより、ビジネスマン御用達って感じ。この駅で降りてタクシーでさっきの田子の浦あたりの工場へ向かう人が多そう。

 といっても、まだここがゴールじゃない。今日泊まるホテルがあるのは、富士駅の方だ。でも徒歩20分くらいだから、もう着いたようなものだ。

 のんびり駅の構内でくつろぐと、各地の「○○富士」の石を集めて作ったという富士山のオブジェが置いてあった。

 今更だけど疲れが出てきた感じ。そういえば食事もまだとっていないし。この辺りには何も無いけど、富士駅まで行けばチェーン店がいくらでもあるだろうということで、そっちに向かう。

 というわけで今日はここまで。お疲れさまでした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る