13日目  南伊豆ー松崎


 さてこれからは伊豆半島の西側だ。東の熱海・伊東に比べるといまいちネームバリューに欠けるし、町の規模は小さいっぽい。それだけ山道を歩く羽目になるかもしれないけど、これもまた日本一周である。

 というわけで、出発して早々山道である。昨日海を見たばかりなのに山の中だ。道幅も狭くて、歩行者がいたら車に迷惑かかりそう。車通りが少ないのがせめてもの救いだ。

 県道沿いに駐車場と建物があったので寄ってみる。あいあい岬とあった。なぜ「あいあい」なんだろう。調べてみると、愛逢岬から取ったっぽいけど本当かどうかは分からない。その名の通り、恋人たち向けのスポットのようだ。早めに出発したせいでまだ売店が開いていないし、恋人もいなかったけど、丘の上から眺める海の景色はなかなかの物でした。

 そんな感じで少し休んで出発。今日の目的地は、西伊豆の松崎である。

 県道16号線を北に進み、久しぶりに国道136号線に合流する。その合流地点に信号があったんだけど、信号ってずいぶん久しぶりに見た気がする。

 国道沿いはさすがに建物がちらほら見えて、さすが国道って思っていたけれど、すぐに山道になってしまった。

 その山道を越えると、ちょっとした集落と港が見えた。妻良港だ。まだ昼食には早すぎるけど、たぶん今日はゆっくり食べるところがないと考え、商店でパンを買い込んでおいた。おにぎりと違って常温で保存できるので助かる。

 集落を抜け、海を左手に見下ろしながら、ずいぶん海抜から高めのところを歩く。

 そのためちょっとした高原の中を歩いている感じ。そういえば、西伊豆スカイラインってのが、この先にあるけれど、そんな言葉通りの感じ。よく車のCMで走っているような道だ。

 ちなみにこのあたりはマーガレットラインって名前が地図に記されていた。なんでもマーガレットの栽培が盛んだからだそうだ。でも周りの木々を見ても、どれがマーガレットなのか分からない。

 しばらくして歩くと、右手に「石部の棚田」の案内板があった。それが目的じゃないけど、地図を見たら近道なのでそっちに進む。さて吉と出るか、凶と出るか。展望台というから、そこまでの道のりは当然坂道だ。けれど思ったより展望台は近くにあった。

 展望台は木で組み立てられた、ログハウスの下部分だけのようなちょっとしたものだったけど、そこに立って見下ろす棚田はさすがに宣伝するだけあって、爽快なものだった。思わず疲れが吹き飛んだよ。

 けれどその先は、本当に「山道」だった。

 かろうじてアスファルトで舗装されているけれど、左右の木々の圧迫感が半端じゃない。熊が出てもおかしくないような道だ。イノシシやシカくらいなら本当に出てくるかもしれない。

 それでも、木々のトンネルを抜けると左側が開けて、伊豆の山々とそのさきの駿河湾が見えた。建物もたまにあって間違った道じゃないことが分かって安心。

 しばらく歩き分かれ道を右に曲がる。内陸方面へ向かう道。山道は相変わらずだけど、今度は上った道を降りていく。山から山へ。ちょっと前まで、海が見える岬を歩いていたのが嘘みたいだ。

 それからだいぶ歩いて、文字通りようやく人里に降りて来た。郵便局を見て軽く感動してしまったくらい。なだらかな平野になっているけど、その周りは右も左も山。盆地みたいな感じだ。つまり山越えをしてしまったってことか。

 ここからは県道121号線を川沿いに北へ向かって歩く。先に見える山は上ることなく、その裾野の間を抜けるようにして道は続き、そこを抜けると、ようやく町らしくなってきた。目的の松崎の町だ。ただ泊まるホテルは、海沿いにあるのでもう少し先。

 まずは美術館っぽい公園の空き地で休憩し、残っているパンを食べる。って美術館っぽいではなく、よく見たら奥に美術館の建物があった。伊豆長八美術館といって、漆喰芸術家でこの松崎出身の長八という人の作品が並んでいるとのこと。さすがに山越えした後なので寄る気力はなかったけど。

 というわけで、美術館を後にして出発。家々が立ち並び、明らかに歩いて来たような山の中とは違う。もうゴールは目前だ。

 いつの間にか合流していた国道136号線を通って松崎の町の中を進む。那賀川を渡り綺麗に舗装された道を歩いていると、ようやく海が見えてきた。今朝見ていたはずなのに、何日ぶりに見たような感覚で懐かしく感じた。

 海が見えるようにホテルが並んでいて、ちょっとした観光地のようになっている。今日はそのうちの一つのホテルに宿泊。温泉もあるようなのでゆっくり休みます。

 というわけで、お疲れさまでした。


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