8日目 小田原ー熱海
今日の目的は熱海まで。新幹線なら一駅だけど、歩いていくとなると結構な距離である。今までのようになだらかな海岸線というわけにもいかないだろうし。
まぁなるようになるというわけで出発。まずは旧東海道、小田原らしい道を進む。歩き始めて間もなく、目の前に大きな山が迫ってきた。箱根だ。
旅らしく箱根の山越えもいいんだけど、箱根駅伝しているような山道を一人で歩いていくのは辛いし、ここをまっすぐ行ったら伊豆半島をスルーしてしまうので、海岸線に沿うように左に曲がって熱海方面を目指す。伊豆半島一周コースだ。
熱海までは24キロの標識。さすがに昨日より距離は長い。
しばらく海岸線の道を歩いていると歩道がなくなって車専用のような道になったので、右側にある脇道へと登る。こちらは車通りが全くない。
上り坂は辛かったけれど、左手に目を向けると、先ほど歩いていた国道が眼下に見え、その先には大海原が広がっていた。圧巻の光景だ。軽く汗を拭きつつ、風景を堪能し歩き始める。
若干遠回りだったけど、国道と並行している道をこのまま歩いて、まずは利府川駅に到着した。とりあえずトイレ休憩。普通にしていたら大丈夫なのに、トイレを見たらトイレに行きたくなる不思議。
ひと休憩してからも同じような山道を進んでいく。
途中、ラブライブで出てきた、みかんを収穫する際に使用するモノレールがあった。みかんの販売所も何件かみているし。そういえば山の反対側が内浦や沼津なんだっけ。今更に気付いた。
そんなこんなで、意外と疲労もなく二時間弱ほど歩いていると、真鶴駅が見えてきた。といってもこっち側にはホームに渡るエレベーターがぽつりとおかれているだけで、何もない。
トイレもないのでエレベーターを利用して反対側にわたる。
国道に面した反対側の駅前は、思った以上に栄えていて、普通に駅前だった。ずっとなかったコンビニも近くにあった。さすが国道沿い。ていうか国道を通っていけばよかったんじゃないかと、ふと思った。
駅前のベンチに座ってゆっくりと体力回復しつつ、この先のことを考える。
次の駅は湯沢温泉。そんなに距離はない。地図をみた限り、さっきみたいに裏の山道を通らなくても、国道沿いで大丈夫そうだ。
というわけで出発。地図を見ながら歩いていると、後ろから人に抜かれた。周りに歩いている人がいるのが久し振りで、思わず感動しちゃったよ。
駅からしばらく歩いて、また感動。
少し高いところから見る、前方に広がる景色が圧巻だった。
左手に青い海、砂浜。そして右手に広がるリゾートホテル。まさに「ザ・観光地」だ。海ではサーフィンしている人も見えた。意外と波高いのかな。
景色に見とれていたおかげで、時間が気にならなかった。もうかなり歩いたつもりだったのに、まだ十分くらいしかたっていなかった。
調子がいいので、ルートから少しずれて、真鶴の駅前に看板があって気になっていた、人間国宝美術館に寄ってみた。
オフィスのビルっぽい感じの建物に加え、平日の昼間ということもあって、客はいなくて、本当にここでいいのか少し不安になったけど、受付の人が対応してくれた。
「順路は4階から1階となります。横のエレベーターで4階にあがってください。戻られたらお知らせください。おもちゃのサービスがありますので」
とのこと。適当にうなずきながらエレベーターに乗って、後から気付く。「おもちゃのサービス」って何? 人間国宝の方が作られた木のおもちゃだろうか。
ともかく、四階から見学する。
予想通り誰もいない。けど静かな空間はほっとする。
美術館は人間国宝の方が作られた作品が並んでいた。普通の美術館と変わらなくちょっと残念。まぁ人間国宝が展示されているわけはないけどね。
そんな美術館の一角に、細川護熙というどこかで見た名前が。
説明書きを読んでみたら、やっぱり元首相の人だった。政界を引退した後は文化人しているとは聞いていたけれど、どうやらここ湯河原に居を構えているようだ。そのつながりで特別に展示したとのこと。
細川氏の作った陶芸品は素人目には価値が分からないけれど、人間国宝の方の作品と並べておいても、自分では気づかないくらいのレベルだった。
そして一階に降りると、抹茶のサービスがあった。「おもちゃ」じゃなくて「お茶」だったのね。
抹茶をいれる器は選べるサービスで、細川氏が作った茶器もあったけれど、豊臣秀吉が作らせたという金の茶碗(もちろん複製)を選んでみた。抹茶の緑と、金のコントラストが良い感じで、じっくり堪能させていただきました。
美術館を出発。少し歩いて、湯河原の駅に到着した。木で作られた駅前のロータリーがいかにも温泉街っぽいいい雰囲気を醸し出していた。
木彫りのベンチに座って休憩がてら、地図を確認する。
駅前なので今は広い国道ルートも、海沿いを通っているうちに、また自動車優先道路になるおそれがある。いちおう海岸沿いを通らなくても熱海まで続いている道もあるようだ。
少し考えて、後者を選択した。
駅沿いの温泉街の街道っぽい道を歩いて、地図にある熱海方面へと続く道を左折。いかにも観光地っぽいホテルの脇を通るようにして、流れの速い川がある橋を渡る。
そこから一気に上り坂になった。
まぁ、地図的に山道は覚悟していたし、これくらいなら……って思ったけど。しばらくして、その覚悟の上を行く上り坂に、道の選択を間違えたと後悔した。
傾斜14度。横浜の地蔵坂よりはるか上。気になっていた噂の尻こすり坂でも平均傾斜は13度みたいなので、それを越えているのだ。しかもそれが、延々と続いている。前傾姿勢になってしばらく上っても、さらにこの先1キロ続くという標識。
簡単に戻れないのが徒歩の旅。もしかすると、下の海沿いの国道は歩けないかもしれないし。それでまた戻ってくるのは精神的にやばい。ていうかこの坂道を降りるのも怖い。
結局先に進むと、途中に学校があった。熱海市立泉中学校とあった。ここの生徒たちの足腰は強靭だろうなぁ。
それにしても、いつの間にか熱海市に入っていたのか……あれ、熱海市? もしかして熱海って……
そう、今頃になって気づいた。熱海市は静岡県。記念すべき第一回県境越をスルーしてしまった!
おそらく坂を上る前のホテルの横にあった川がちょうど県境だったんだろう。なにげにこれはショックだった。
というわけで。やけになって坂道を上って、さらに近道しようと桜ヶ丘というニュータウンに入ったら、さらに急勾配で、死にかけた。なぜこんなところに家を建てたのか不思議なくらい。子供が絶対に道路でボール遊びできないレベルだ。
住宅街を抜け、県道に戻ったら、今度は恐怖の下り坂。心臓には優しいけど、足にはぜんぜん優しくない。
それでもくねくね山道を曲がっているうちに、ようやく開けたところに出た。
大きなビルがはるか眼下にあって、海がさらにその先に見える。
絶景なんだけど……これだけの標高を無駄に登ってしまったというショックの方が大きかった。百メートルくらいあるんじゃないかな。
登ったから降りなくちゃいけない。お菓子食べ過ぎたからダイエットしなくちゃいけないは分かるけど、登りたくて登ったんじゃないのに降りるのは理不尽だ。自転車なら降りるのは楽そうだけど、自転車であれを登るのは無理だろう。足に力を入れながらスピードが出ないよう山道を下っていく。
地味に足の体力を奪われつつも下りが終わり、住宅が目立ってきた。熱海駅はもう少し。その途中、ちょっと気になる看板があった。
「瑞雲郷」
なんか師匠が喜びそうだなと思いました(昨日に引き続き艦これネタ)
そして、ようやく熱海っぽい白いビルが目立ってきた。
けどさすがに昼食抜きで山登り歩きっぱなしはさすがに堪えた。
実は湯河原の駅で地図を見て、面白そうなお店が載っていたからそこまで行ったら情報が古くすでに別の建物になっていて、しかもその先が例の山道で食事をとれなかったというオチ。
結局熱海観光する気力もなく、熱海駅まで行かない手前にあるふつうのビジネスホテルに泊まることにした。
せっかくの観光地を無駄にしている旅だけど、まぁ日本は広いし、まだチャンスはあるでしょう。
ということで今日はここまで。お疲れさまでした。
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