2日目  磯子ー横須賀


 日本一周の旅。記念すべき初宿泊明けの朝だ。

 泊まったホテルがアレだったけど寝てしまえば一緒。

 海外のCMで、真っ黒な画像を流して高級ホテルも格安ホテルも、泊まっているときあなたが一番見ている風景はこれです、っていうのを出して盛況だったという話を思い出した。うん。それといっしょ。


 さて出発――の前に、昨日の反省から、先に目的地と泊まるホテルを決めておくことにした。普通は当たり前だけれど。

 んー。今日は横須賀くらいでいいかな。

 何度か行ったことがあるけれどかなり大きな町だから、泊まるホテルの検索にも困らない。

 それに昨日の根岸ー磯子間を歩いてきた大きな道路は、別名「横須賀街道」とも言われている。そこを通っていけばいいだけなので、歩くのも分かり易くてよさそう。


 というわけで今日は、ひたすら幹線道路の歩道を進むことにした。

 うーん。晴天で気持ちいい。昨日は疲れていて心配だったけれど、しっかり寝たら体力も足も回復した。寝たら回復って、ドラクエの宿屋システムみたいだ。実は意外と現実的なのかも。

 

 なんてことを考えながら歩く道は、国道16号。埼玉の実家の近くにもあった馴染みのある名前でちょっと親近感。けどこのあたりはずっと同じ風景で退屈。たまにガソリンスタンドがあるくらいかな。それでも少し進むと左手に大きなタワーマンションが見えてきた。

 新杉田のタワーマンションだ。

 どういう人が住んでいるのだろう。宝くじが当たったら、一度は住んでみたい。


 歩き始めて一時間ちょっと。

 順調に歩いているつもりだけれど、横須賀ままだまだ先。それでも道路標識に「横須賀」の文字を発見して、ちょっと元気になった。

 看板によると、横須賀までは15キロ。時速四キロで歩いて、四時間ぐらいか。自分の歩くペースがどれくらいか分からないけれど、ちょうどいいくらいの目標かも。


 歩く道はさっきからずっと同じ国道16号だけど、沿線には次第に緑が多く見えるようになってきた。やっぱり進んでいるんだなと実感。それにしても、なんとなく山あいっぽい感じになってきたけれど……なんて思っていたら、先に見えてきたのは……トンネルだ。

 えーと、これって、歩いて入っちゃっていいのかな。

 不安になったけれど、歩道も続いていたので一安心。

 そこそこ長いトンネル。車ならともかく歩きだと、トンネル内で息を止めるルールをしていたら、死んでしまいそう。

 トンネルを抜けると、緑が綺麗だった。またちょっと都会から離れた印象だ。

 歩道橋に「ゆっくり走ろう金沢路」と標語が書かれていた。自分の場合はゆっくり歩こう、だ。

 さて、そろそろお昼ご飯を考えたいけれど、それっぽいところが見当たらない。それどころか、周りには山が目立つようになってきた。さっきもトンネル通ったし。

 とりあえずコンビニがあったので、そこでトイレ休憩。おにぎり買ってそれでお昼済ませちゃおうかなとも思ったけれど、朝もコンビニパンだったし、結局ドリンクだけ買ってコンビニを出た。

 ど田舎って訳じゃないし、そのうち食事どころも見つかるだろう。


 そんな気持ちで歩いていたら和食レストランが見えてきたので、そこで食事にすることにした。選んだのはレストランの名前がつけられた御膳セット。ご当地感はないけど、まだ横浜の近くだし。

 食事をとりながら、地図で現在地を確認。だいたい行程の三分の一くらいだ。今日中に横須賀に着けばいいくらいの気持ちなので、時間を気にせずゆっくりと食事を終え、店を出た。


 店を出てしばらく歩いていたら右側に線路が見えた。赤い電車。京急線だ。

 地図的には右にあるのが能美台の駅っぽいんだけど、線路わきの白い建物に小さな看板があるだけで、駅前なのに何もない。たぶんこっちは裏側で反対側はそれなりに栄えているんだろうけれど、ちょっと寂しくない?

 そこからそれほど歩いた感じはなかったけど、次の駅が金沢文庫駅も通過する。金沢文庫って、なんか歴史で習った気がするけれど、どういうものか知らないので、スルーして、そのまま国道を南下。


 一時期山っぽい感じだったけれど、この辺りは駅前だからか、そこそこ家が多い。さらに進むと、住宅というよりはビルのような、大きい建物が目立つようになってきた。

 出発地点の横浜の頃を思い出す。もしかして横須賀近いのかな。横須賀のイメージっぽくないけど。

 それにしても、気持ちいい町並みだ。道路幅が大きくて電線がないだけで、景観が上品に感じられる。

 ふと左手を見ると水面が見えた。川かなと思ったら、海だった。

 出発したとき、海岸線を歩くなんて言いつつ、これまで全く見てこなかった海が見えてちょっと興奮。道路を渡って特に意味もなく海に近づこうとして、さらに面白スポットを発見した。

 なんと、海の上にぽつんと小さな小島があり、そこに神社があった。

 ここの名前は琵琶島神社。何でも鎌倉時代の、あの北条政子が創建したものらしい。島の周囲は六十メートルにも満たないとか。松に囲まれた神社も風情だけど、ほとんど波のない海の対岸に見えるビル群が水面に浮かんでいてこれがまた綺麗。和洋折衷……じゃなくて古今折衷?

 あまり聞いたことのないスポットを見つけると、改めて日本って本当に広いんだなと思う。

 これからもこういう景色に出会えると思うと、気分が高揚してくる。

 というわけで、軽くお祈りして再出発した。


 しばらく歩くと「観音崎16キロ。横須賀8キロ」の標識を見つけた。

 ゴールが近づいてきた。トンネル通っていた山のときとくらべ、だいぶ大きくなった国道を進む。

 右手に駅発見。追浜駅だ。当たり前だけどまだ横須賀駅じゃない。

 駅前の古びたアーケードが覆う歩道を抜けるとまた寂しい感じになってきた。道路わきに山が目立つようになってきて、またも現れたのはトンネル。今回も歩道があるので一安心。そしてトンネル抜けたら……さらに田舎だった。

 その後もしばらく山だらけ。ついさっきまでの、横須賀ムードが一変だ。本当にこっちであっているのかなと不安になってくる。

 しかも再び標識を見つけて見てみると、「三崎・観音崎」となっていて、横須賀の文字が消えてるし。

 でもよく見ると、標識が掛けられている歩道橋に、「横須賀市」の文字があった。つまりここはもう横須賀だから案内から消えたというわけだった。

 実際、しばらくすると山道から都会になってきた。


「三崎25キロ。観音崎13キロ」

 横須賀の文字が消えたけど、確かさっき見たときの観音崎は16だったから3キロくらい歩いたのか。時速四キロ……って、さっき見たのっていつだっけ。一時間くらいかかったかな。

 そんな感じで、まだ慣れない歩くスピードや今後の行程を考えていると、またまたトンネル。もう慣れたものだ。

 車の騒音に合わせて、意味もなく大声で歌ってみたりした。

 トンネルを抜けてしばらく歩くと、トンネル。そしてさらに、またトンネル! 神奈川って海のイメージあったけど、実際は山ばっかりだった。

 一瞬でも都会ぽくなったかなと思ったらまたトンネル。また(以下略

 それでもだんだんと、歩く左手の方が都会っぽい、栄えた感じになってきた。

 久しぶりに見たコンビニ。でっかなタワーマンション。これはそろそろ横須賀市街が近いかな。


 そしてついに――って、またトンネル。

 さすがにどうかと思ったけれど、そこを抜けると、一樹に景色が開け、海に面した公園にたどり着いた。

 ヴェルニー公園。港が見えるいかにも横浜っぽい港の公園だ。

 ずっと国道沿いを歩いていたので、こういうところをのんびり歩くのも悪くないと、思ってそちらに入る。

 下に木が張られた歩道をゆっくりと景色を楽しみながらのんびり歩きつつ、公園を抜けて、再び国道十六号に合流する。

 道路は片道三車線と大きく、周りには大型スーパーやでっかいビルが立ち並んでいる。もう完全に横須賀だ。


 予約したホテルは駅の近くなので、国道からは離れたところにあるんだけど、時間的には余裕があるので、そのまままっすぐ進んで三笠公園にも寄ってみた。日露戦争の日本海海戦で活躍した、戦艦三笠があるところだ。実はここは前にも訪れたことのある場所なので、ちょっと懐かしかった。

 この旅以前にも、ちょくちょく日本中を旅してきたので、この旅で再び同じ場所に訪れるのも楽しみの一つだ。

 戦艦の中には入らず、外から見ながら公園でゆっくり休み、ちょっと早めの夕食は横須賀カレー。

 初日のすったもんだとは対照的に、余裕を持ってホテルにも到着できた。

 というわけで、今日はここまで。お疲れさまでした。




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