1日目  横浜ー磯子 


 相変わらず工事中の、たくさんの人で混みあっている横浜駅の西口。

 ここが日本一周のスタート地点だ。

 まずはロータリーを出て駅前の通りを左に進む。

 出発してすぐだけど、交差点の所のステーキ屋で遅めの昼食。初日ということで、出発時間は遅めだ。


 さてと……

 料理が出て来るまでの間、スマホの地図を見て考える。

 行き当たりばったりが好きなので、漠然と西へ向かう、としか決めていなかったのだ。

 西周りに日本を一周するのなら、このまま交差点を直進して西に進むのが正しい。けれど地図を見ると、海岸線は東にあって、南にずいっと伸びている。三浦半島というやつだ。

 日本一周と言ったら海岸線を回っていくイメージがあるし、このまま西に進むとショートカットしてしまったみたいで、一周し終わったとき、後悔しそう。

 というわけで。まずは南に向かって、三浦半島を一周することにした。


 食事を終え、店を出ると海岸線のある東に向かって歩き出した。

 先が上り坂になっている。橋になっているみたいだ。その先に、大きなビルが見える。あれがランドマークタワーだろうか。よく分からないけど。

 橋の下には電車が通っていた。橋を上っただけでさっそく疲れていたので、ちょっと一息ついて再出発。

 いま歩いているのは県道13号。しばらくまっすぐなので迷う心配もない。

 まだ都会だけど駅から離れて来るにつれ、周りの建物が繁華街という感じじゃなくなってきた。一歩一歩進んでいる感じだ。

 初日だからこうやってこまかいことに感動しているんだろうけれど、そのうち適当になるんだろな。

 さっきからビルはあるけれど、いわゆるお店はない。オフィス街みたいな感じ。東京のオフィス街とあまり変わりないな。横浜っぽいレトロな建物を発見――と思ったら、某宗教団体の支部だったし。


 それからしばらくして、桜木町の駅にたどり着いた。さっそく駅一つ分歩いてきたんだ。

 近くのコンビニで一休み。ジュースを買って一口。少し休憩して再出発。

 高架の下を通って橋を渡って進むと、再び繁華街っぽい建物が増えてきた。人の数もどんどん多くなってきている。ていうか、横浜駅前より多くない?

 けどその人の流れに乗って歩いているうちに、その理由が分かった。

 目の前に見える公園、そして大きな建物。横浜スタジアムだ。

 ということは、気づかずスルーしちゃったけど、もう関内の駅まで来たのか。いい感じ。

 ただいいペースとはいえ、翌日に疲れを残さないためにも日が暮れる前には泊まるホテルを決めたい。

 球場前の公園のベンチにすわり、ユニフォーム姿の野球観戦に来たファンたちを眺めながら、地図を確認して今日の目標を決める。

 今まで歩いた距離と時間を参考にして目標を、このまま南に進んだ先にある、根岸駅周辺に決めた。

 よし。それじゃ行きましょうか。


 南へ進むと、このさき石川町の看板だ。左に曲がると中華街。中華街に惹かれるけれど、ここはあえて直進。

 次に見えた看板にはこのさき「根岸 山元町」の文字。ちなみに左に曲がるとこれまた聞いたことのある山下公園だけど、これも直進。

 川を渡ってさらに直進すると、一気に住宅街っぽくなってきたかな。

 とそこで、異常な光景を目の当たりにしてしまった。

 交差点で立ち止まっている自分の目の前にはすごい急坂。地蔵坂というらしい。

 けどそれ以上に驚いたのは、目の前の小さな歩道を埋め尽くす、セーラー服姿の女子学生の集団だった。しかもまだまだ、奥の路地からぞろぞろと出てくる。その光景は巣穴から出てくるアリを思わせるくらい。

 しばらく待って、ようやく人が一段落したところで、急坂を上り、女子学生が出てくる路地をのぞき見る。そこも急坂になっており、入り口わきの看板に学校名が何個か記されていて、乙女坂と書かれていた。どうやら女子校がたくさんある通りのようだ。実に分かりやすいネーミングだ。「乙女坂」で検索したらトップに風俗店が出たけど。

 さて地蔵坂を上り終えると、いかにも高級住宅街って感じの町並みが姿を現した。なるほど。確かに山の手っぽい。ということはさっきの山の手のお嬢様なのかな。その割に向かっていたのは、石川町方面だったけど。

 上り坂の後は下り坂。肺には優しいけど足には堪える。

 昔の商店街みたいなアーケードを通り、ずっとひたすら住宅街を歩いていると、右手に公園発見。

 根岸森林公園と書かれていた。

 トイレもベンチもあるので、ここで一休み。案内図を見るとかなり大きな公園でレジャー施設もあるようだ。そして博物館もあるんだけど、なんで馬の博物館? と考えて気づく。

 あ、そういえば競馬のレースに根岸ステークスってあったっけ。

 東京ダート1200.ブロードアピールで有名な重賞レースだ。

 ここは根岸競馬の記念館みたい。根岸競馬場は日本で最初の本格的様式競馬場だとか。そういえば近代史の教科書で見たような気がするかも。

 興味惹かれたんだけど、開苑時間は午後5時までなので、もう閉まっていた。仕方ない。日本を一周したら、今度寄ってみよう。


 さぁ休憩終了。根岸の文字も見えてきたし、あとちょっと。

 少し進むと、さっきの地蔵坂のお返しとばかりに急な下り坂になった。しかも山道みたいに右に左へとくねくね曲がっている。

 それでもそこを過ぎて少し進むと、久しぶりに大きな通りに出た。片道三車線くらいある大きな道路で歩道も広い。道に迷うこともないから、気は楽だ。

 その道路を右(西)に進むと、ようやく根岸駅前の看板を見えた。そこを左に曲がるとロータリーがあって、根岸駅到着だ。

 青いラインが入った電車を見ると、なんか戻ってきたなぁって感じ。まだ初日だけど。


 さてと。駅前に着いたし泊まる場所を探さないと。

 タブレットで検索……


 ……

 …………


 あれ?

 なんか、ホテルないけど。ヒットしても近場のホテルの最寄り駅は、関内や桜木町。歩いてきたところばかりだし。

 これから戻るなんてさすがにありえないし、絶対嫌だし。泊まるためなら電車で戻るのも可。……って、それじゃ一周感がないし。ぱっと見た限り、ネットカフェも見当たらない。

 そこで条件を緩和してもう一度探してみたら、もう少し先の磯子に泊まれそうなホテルの情報があった。

 ……ファッションホテル? ビジネスホテルとは違うのかな。まぁそこでいいか。 

 もうすっかり日が落ちて暗くなった大通りをそのまま進んでひとつ先の駅の磯子方面へと向かう。

 初日なのにかなり疲れが出てきたころ、磯子駅に着く途中に目的のホテルに到着した。

 あぁ。なるほど。てかこれってラブホテルじゃん。

 けどこれ以上歩くのはもう疲れたので、ここに泊まることにした。

 まぁ安いビジネスホテルやネカフェよりは、お風呂とベッドはしっかりしているかも……と無理やりポジティブに考えて。


 というわけで初日は終了。次回からは目的地を先に決めることにします。



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