第一話 試練
読者は未来を知りたいと思うことはあるだろうか?
一回や二回はきっと思ったことがあるはずだ。かういう俺も神社で雨が止むのを待っている最中、そんなことを考えていた。
あのノートを拾って約一週間が経っていた。当初は江口のイタズラだと思っていたが、どうやら違うらしい。
ノートに書かれている文字はだいたい朝の4時くらいに変わっていて、その内容が実際にその日に起こるようになっている。
しかし、内容はかなり抽象的で今日も、
-雨崎柚弦はズブ濡れになる―
というものだった。したがって今日一日水回りに気をつけていたのだが、まさかまさかの大雨とは。だが、ノートの内容を毎朝見るのは俺の日課になりつつあった。
筆者はさっき主人公は「雨が止むのを待っている」と書いたが当の雨崎には雨が止んでからの予定などは無かった。
しかしまぁ基本的に引きこもり気質である彼は一刻も早く家に帰りたいとは思っていた。
それから数分後のこと。雨が少し弱まったので俺は走って帰ることにした。
神社から家まではそれほど遠くは無いためそんなに濡れることはないだろう。
ダッと走り出した俺の両の足は稲妻の如く一瞬で止まった。
鳥居のすぐ下に女子高生がうずくまっていたからだ。
なぜ女子高生と分かったかというとまぁ制服を着ていたからという他ない。
さらに俺と同じ高校のものだ。
夏の雨の日くらい女の子にカッコつけてもいいよな、と魔がさしてしまうのも仕様が無い。
其の娘に傘を突出し俺は言った。
「家出か捨て子かホームレスか知らんが、こんなとこじゃくつろげんぞ」
「……うっさい。ほっといて」
そう言いながら顔を上げた少女を俺は知っている。同じクラスのSSS級美少女
学内ヒエラルキートップに君臨するいわば高嶺の花だ。真っ白い肌に薄紫で丁寧に結った髪は雨で濡れてか、とても艶やかだった。俺を含めるオタクグループでは眩し過ぎて見えないと評判だ。今も空を覆う雨雲が手伝って何とか俺の網膜が彼女を捉えている。
「何でわかんの」
「何が」
「私が家出したって」
「こんな日に未成年が神社でうずくまってたら家出か捨て子って相場は決まってんだよ」
ねぇねぇ俺キョドらずに喋れてるよね?「うわ、何コイツキモ」とか思われないよね?別によく思われたいわけじゃないけど理由なく嫌われるの
けどこんな美少女とサシで喋るなんて……。あのノート、こういう未来を予言しろよな……。
「…って良い?」
「なんだって?」
「あんたの家、行っていい?」
俺の青春、モテ期ようこそ。
-「意外とキレイにしてんじゃん」
彼女、小鳥遊は俺の部屋(6畳半)を見回して言い放った。オタクの部屋は汚いと決めつけるなよ。ちなみに俺は現在アパートで一人暮らししている。
父は海外出張、母は研究員で研究所にこもりっぱなしだ。
-なんてこと言ってみたいが、実際はただ俺が一人暮らししたくて実家から遠い高校を選んだだけである。
「風呂借りるね」
「おう。……ってwhy!?」
「そりゃ身体が濡れたからでしょ」
そういうと小鳥遊は洗面所に入っていった。
男子の家に入るなり風呂って……。まさか俺は今夜男から
なんて冗談は置いといて冷静に現在の状況を整理しよう。
・家に男と女二人きり
・相手は学年一の美少女
・相手は家出中
・相手は風呂中
イケるな……。俺は自然と笑みをこぼしていた。
今程「家に男と女二人」と表現したが、訂正しよう。
正しくは「美少女一人と獣一匹」である。
「キャアァ!!」
そんなことを考えていると耳に響く断末魔が聞こえてきた。
その刹那、俺は洗面所のドアを勢いよく開けていた。
「どうした!?」
小鳥遊の目線の先を見ると太古からの人類の天敵『G』がカサカサとうごめいていた。
「キャアァァァァ!!!」
さっきよりも大きい悲鳴とお湯の入った桶が飛んできた。
俺はお湯を頭からかぶる。
あの予言ってこのことかよ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます