第32話

男は辺りを見渡し、自分の身に何がおきているのかを確かめる。

そして、自分が置かれている状況を把握したのか、額から大粒の汗を流し、俺へと叫んだ。

「貴様は誰なんだっ、今すぐにこれを外せっ!!!」

風花の父親は体を前後左右に動かし、縛り付けてある椅子から必死に逃げようとしている。

「お前はあそこで石頭と会っていたな。あの男との関係は。」

「石頭だとっ、そんな男は私は知らないっ!!!そんなことよりもっ!?」

男は苦痛に顔を歪め、耳障りな声で叫び始める。

「今みたいにお前が嘘をつくたびにお前の指を引きちぎる。それで…お前はあの男と会って何を話していたんだ?」

男は自分の親指が無くなり、そこから血が流れているのを見て、更に叫び声を上げる。

「叫んでないで答えろよっ!!!!」

俺は男の顔を掴むと顔面に拳を入れる、男は鼻を赤くし、鼻からも血を流していた。

「どうせ、お前は何もできない。答えなければ死ぬまで痛みを…苦痛を味わうことになるんだ。それが嫌だったら全部、話せ。」

「私が……私が何をしたと言うんだ…。私は何もしていないのにっ!!!」

「やったからこんな目にあってんだよ。」

何が何もしていないだ、ふざけたことを言いやがって。

俺はあの時に録音していた音声を流し始める。

父親はストーンと話をしている自分の声を聴くと顔が真っ青になっていく。

「これでお前は俺に嘘をついたことになるな。」

「ちっちがっ!?がぁぁぁあっ!!!!」

男の指に器具を使うと男は部屋に響き渡るほどの大きな声を出して叫んだ。

「そんな大声が出せるのならまだまだ余裕があるな。安心して次も嘘をついてくれよ。」

痛がり、暴れる男の肩に手を置くと男へそう語りかけた。

「悪かった…だから…もう…これ以上は…。」

「言ったろ、嘘をつくなと。これ以上、指を取られたくなかったら本当のことを話せ。」

「分かった…分かったからもうやめてくれ…。それで何が…知りたいんだ…。」

「何故、お前の元にストーンが来ていた、そしてお前らは何をしたんだ。」

男は何も言わずに黙り込んでいたが、俺が器具を手にすると態度を変え、話し始める。

「仕事の件で奴と組んでいたんだっ、だけどあいつは金を払わなかった…だから、あいつを家に呼んで金を貰おうとしたんだよ…。」

この男はまだ何をしていたのかを隠そうとしている。

「聞こえなかったのか…お前らが何をしていたのかを聞いたんだ。」

「仕事だよっ…随分と前に彼奴らが俺の元へ来たんだっ。その時に彼奴から仕事の話を聞かされた。私達ヴィランが街を襲ってそれを彼奴らが止める。そうすれば金が貰えるって彼奴が私に言ったんだよっ。」

嘘だろ…風花の父親がヴィランだったなんて…。

俺はあの時のフレアの言葉を思い出した。

彼奴はあの時にヒーローがヴィランと協力をして金を稼いでいると言っていた。

その一人が風花の父親だったのか。

それとこいつが言ったことにもう一つ、気になることがあった。

「彼奴らと言ったな、お前の元に訪れた奴の名前を一人残らず話せ。」

「確か…石頭と稲光、それからそいつらをまとめてるリーダーのインビンシブルだよ…。」

「嘘をつくなよ…何故、インビンシブルがお前の元を訪れるんだ。彼奴はそんなことをやるような男じゃないだろ。」

「分かってない…な。全ては彼奴が提案…してきたことだ。あの大都市を中心に起った戦い…あれは全部、インビンシブルが考えたことだ。」

俺は動揺を隠し切ることができずに風花の父親の首元を掴むと大声で叫ぶ。

「どういうことだっ。何故、彼奴がそんなことをやるんだっ!!!」

「私が知るわけないだろっ…彼奴の考えていることなんか俺には分からん…ただ…あの時から彼奴の目は濁っていた。もしかすると何かに絶望していたのかもな…。」

こいつのいうことが正しいのならば、彼奴はヴィランと手を組み、あの大規模な戦闘を起こし、町の人々を巻き込んだ。

そして、その中に未来がいたことを知り、美樹や未来の力を使い、あの戦いを変えようとしているのか、、

けど、彼奴らは…何のために街を襲ったのか。

「なぁっ、もう私が知ってることは話したっ。だから解放してくれっ!!!」

「まだだ、まだ聞きたいことがある。ストーンが確か言っていただろう。これから大きな戦いを起こすと…それに心当たりは?」

「知らんよっ、心当たりなんか何もないっ!!!」

くそっ…わけが分からん。

何故、彼奴はまた戦闘を起こそうとしているんだ、彼奴の目的は未来を助けることなんじゃないのか。

もしまたあの時のような大規模な戦闘を起こすつもりならばすぐにでも奴を止めなければ。

「もう知っていることは全部話したっ!!!だから、解放してくれっ!!!」

「そういえば……お前には娘がいたな。」

「娘…彼奴がどうしたっ、もしかして彼奴が欲しいのかっ。だったら、お前にやるっ。だから、私を殺さないでくれ…。」

本当にこんな奴が風花の父親なのだろうか。

とてもじゃないが血が繋がっているようには思えない。

「一つ聞きたかったんだ。お前は自分の娘が…あんな状態になっているのにどうして彼奴のそばにいてやらない。父親ならば、近くで支えてやるのが務めだろう。」

「……そっ…それはっ……お前には関係のないことだろうっ。だから早くこれをっ。」

俺は立ち上がると後ろを振り向き、歩いていく。

聞きたいことは聞き出せた、それに心達に大きな手土産も出来た。

「おいっ、待てよっ!!!」

後ろから必死に助けを求める言葉が聞こえる。

俺は振り返ると風花の父親の元まで戻り、机の上に置かれたナイフを手に取り、額にナイフの先を押しつける。

「いいか、今後一切、あの子に近づくな。もし、お前があの子に近づいたら次は容赦なく、お前を殺す。分かったな。」

「あっ…ああ…分かった…。」

「分かったかって聞いたんだっ!!!!」

「分かったっ!!!!!」

風花の父親の額からは血が流れ出ていた。

俺は父親の着けているネクタイを外すと額に巻いてやる。

正直、殺してやりたかったが風花はそれを望まないだろう。

ただ、今後のことを考えるとこいつは邪魔をしてくるかもしれない。

俺は無線で心と通信を行い、この廃墟の場所を教える。

心を待っている間、録音した音声を聞き、俺の中の考えをまとめていた。

そして、しばらくタバコを吸いながら待っていると黒い車が現れる。

車から降りてきたのは心だった。

心は俺に目を合わせると仲間と一緒に中へ入り、しばらくすると外へと出てきた。

「……酷い傷ね。」

「あれぐらいへっちゃらだよ。それに正直なところ、あれだけじゃまだまだ物足りん」

「そう、だけどあれじゃほとんど死んでるようなものよ。まぁ殺さなかっただけ、成長してるのかしら。」

「………。」

気なんか治るわけがない。

彼奴にはあれぐらいじゃ、まだまだ生ぬるい。

「そう、だったら彼奴を海外の奴隷商にでも売る?」

俺は何も言わずに目を細めて心を睨みつける。

すると心は、

「冗談よ。」

と、言って笑っていた。

「それで、面白そうな話があるんでしょう。そっちの話を聞かせてもらおうかしら。」

まだ奴らの会話のことについては一言も話していないはずだが、こいつには隠し事は出来ないな。

俺と心はその後、車に乗り、アジトへと戻って行く。

風花の父親については然るべき場所へと連れて行ったそうだ。

心が言うには今までやってきた悪事を吐かせながら、罪を償わせるとのことだ。

彼奴が死ぬことを風花は望まないかもしれない。

そう思った心の対処の仕方なのだろう。

それから俺は録音していた会話を心へと聞かせながらアジトへと戻っていった。

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