第33話
「大きな戦い…か。」
心は深刻な表情をしながらそう呟いていた。
風花の父親とストーンが話していた、大きな戦い、俺達はそのことについて話し合っていた。
「翼はここへ逃げて来る前に何か聞いていたりしなかった?」
俺の隣にいる女に心は尋ねる。
だが、彼女は首を横へ振っていた。
「残念ですが、何も聞いていません。きっと、私の正体がバレて話さなかったのかもしれませんね。」
「正体…結局、お前は誰なんだ。」
さっきから平然とした態度で隣にいるが翼と呼ばれる女の正体をまだ俺は聞いていなかった。
「はぁ…またそんなことを聞いて…ってそうか、美樹ちゃんの力で貴方には記憶がなかったんだっけ。私はフェザーよ。」
フェザー…彼女は確か、フレアに殺されたはずだが、今はこうして生きている。
きっとフレアの存在がこの世界から消えた影響で彼女は死なずに済んだのだのかも知れない。
「そうか…話を遮ってすまない、続けてくれ。」
「そうかって…他に言うことはないのかしら。…まぁ、いいわ。それで心先輩は何か思い当たることとかはないんですか?」
「私もこれと言っては…もしかすると私のことも疑われ始めてるのかもしれないわね。けど、このまま黙って見てるわけにもいかないことは確かよ。また、あの時のような被害が出る前に止めなきゃいけないわ。だから、夏樹の話を聞いて私達は先に奴等に攻撃を仕掛けることに決めた。作戦の日はまだ決めてないけど武器や道具が揃い次第、奴等に挑むわよ。」
これから俺達にとって本当の戦いが始まる。
相手はあのインビンシブル、数々のヴィランを相手にし、勝利を収めてきた相手だ。
一筋縄ではいかないことは確かだろう。
だが、俺は…俺達は負けるわけにはいかない、今も苦しんでいる未来のためにも。
絶対に勝たなければいけないんだ。
俺達はそれからも奴らとの戦いについて話し合う。
そして区切りがついたところで俺達は話し合いをやめ、各自で休むことに決めた。
二人と別れると俺は体を休めに自室へと戻って行く。
だが自室の前には美樹が座り込み、俺のことを待っているようだった。
俺は美樹に近づくと何も言わずに自室へと入って行く。
後ろからは美樹がついて来る足音が聞こえ、部屋の中へと入ってきていた。
「それで…何をしにきた。」
美樹は何も言わずに黙り込んだままだった。
だが、しばらくするとポツポツと話を始める。
「あれから、心やジョウさんと話して美樹は…間違ってたって分かった。だから、謝りに…。」
「謝る相手が違う。俺なんかに謝ったところで何の意味もない。お前が本当に謝る相手は別にいるはずだ。」
美樹は今にも泣き出しそうな顔で地べたに座っていた。
少しきつく言い過ぎたかもしれないが、こいつがやったことを考えるともっときつくてもいいはずだ。
ただ、このまま二人とも黙ったままなのはきがきではない。
「力を使ったのはあれが初めてなのか?」
美樹は俺の質問に首を横に振る。
他にどんなことにこの力を使ったのだろうか。
「……その前に…フレアの前で…死んでいた猫を生き返らせた。」
脅されてやったわけではなさそうだ。
きっと自分の力がどれほどのものなのか、確かめるために自分から力を使ったのだろう。
そして、生き返った猫を見て、自分の力がどれだけ強力なものなのか、気づいてしまった。
その結果、力に溺れて今に至るわけか。
きっと未来がこの場にいたら美樹は怒られるだけじゃ、済まされないだろうな。
「その二回だけか、力を使ったのは。」
「うん。力を使おうとしても上手くコントロールできないから…。あの時はたまたま力が使えたの。」
そのたまたまでフレアの存在を消し去ったのだとしたら、身震いするほどに恐ろしい力だ。
もし、美樹の力があの時に暴走していたら、もしかすると俺や風花、それだけじゃない、他の誰かが犠牲になっていたかもしれない。
「お前はその力を使って、どう思ったんだ。」
「どうって…。」
「もう一度、その力を使いたいかどうか。」
美樹は質問に即答せずに少し考えているようだった。
無理もないかもしれない、この力があれば未来を助け出すことができるのだから。
俺がもし、同じ力を持っていたとしたら…、あの時に使っていたかもしれない。
「分かんない……けどね、お母さんのことは…助け出したい。あそこにずっと閉じ込められてるのは可哀想だから。だから……お母さんを解放してあげたい。」
「未来を解放するってことはどういうことなのか分かっているのか?」
「分かってる…心から聞いたから。お母さんを殺す…んでしょ。本当は…嫌だけど、そうするしかお母さんを…助ける方法はないんだよね。だったら、美樹は…やるよ。」
美樹の目からは前のような濁りは消え、一丁前に覚悟を決めた目をしている。
どうやら美樹は本当に心を入れ替えたらしい。
「残念だが、お前は今回は留守番だよ。だから、代わりに俺がやってやる。俺がお前の代わりに未来を助けてきてやるよ。」
「約束。」
彼女はそう言うと小さな手の小指を俺に立てる。
こんなことをするのは恥ずかしくて嫌だったが、俺は小指を美樹の小指に絡ませた。
「……約束…だな。」
絡めあった小指を見ると美樹は目を赤くしたまま、微笑む。
俺にはその表情が未来と重なって見えた。
「美樹、聞きたいことがある。お前はフレアを消した時、あいつの存在をなくせば風花が助かるって誰かから聞いたって言ってたよな。それは誰なんだ。」
あの時、美樹は確かにそう呟いていた。
誰かが美樹を使い、風花をこの戦いから離脱させた。
「それは……。」
美樹の口から出てきた言葉に俺は驚きを隠すことができなかった。
だが、何故、あいつが風花を…。
「それは確かなのか。」
「うん、おじさんはその人の正体がわかるの?」
「ああ、このことは誰かに言ったか?」
「心に言っちゃった。」
「他に誰にも言ってないのなら構わない。このことは忘れろ。」
これは詳しく調べる必要がありそうだ。
だが、こうなると誰を信用していいかわからなくなるな。
こんな時に風花がいたら…あいつなら信用することができたのに。
「ねぇ、おじさん。美樹ね、風花さんのところに行きたい…。」
会ってどうするつもりか尋ねようとしたが、きっと彼女は今回のことを謝りに行きたいのだと悟った。
作戦まではまだ時間がかかりそうだった、それなら風花のところへと行く時間もあるだろう。
「分かった。だが、行くのは明日にしよう。こんな夜遅くに行くのは迷惑だからな。」
俺がそう言うと美樹は嬉しそうに微笑み頷くと部屋から出て行く。
美樹がいなくなったことを確認すると俺はベッドに横になった。
今の美樹は風花の一件で不安定な状態になっているかもしれない。
きっと風花を救えると自信があったのだろう。
けど、それは間違っていた。
救えたのは風花ではなく、風花の父親だ。
それもとんでもない極悪人を蘇られてしまった。
俺はもう一つ気になっていることがある。
それは風花が言っていた、先生と呼ばれる人物、彼女は果たして無事なのだろうか。
確か彼女はフレアの教育係として家に招き入れられたとのことだが。
フレアがいなくなったことで彼女は風花の家には呼ばれなくなったはずだ。
だったら、もしかすると彼女は今も何処かで暮らしているのかもしれない。
ただ気にはなるが風花からは先生としか伝えられていない為、俺には調べる方法がなかった。
この世界は大きく変わってしまった。
フレアの影響はそれほど大きなものだったのだろう。
本来なら死んでいたはずのフェザーや…スピード…。
そういえば、スピードはどうなったのだろうか。
……あいつの存在をすっかり忘れていた。
フレアがいなくなり、風花が俺達に関わっていないのならば、あいつはもしかすると生きているのかもしれない。
そう考えると居ても立っても居られなくなり、すぐにジョウの元へと向かう。
だが、現実は甘くなかった。
スピードはフェザーを守る為に命を落としたとジョウから聞かされる。
本来ならば風花を救う為に命を落としたスピードだが、この世界ではどうやらフェザーを守る為に命を落としたらしい。
結局、彼奴は死から逃れることができなかった。
俺は運命というものを改めて思い知った。
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