第28話
ドアの奥から話し声が聞こえる。
「美樹、お前がやれ。力の使い方を学ぶチャンスだ。それに俺はお前に戦い方も教えた。それならば目の前にいるこの女を倒せるはずだ。」
この低い男の声はきっとフレアのものだろう。
「けど…私は殺すことなんて…。」
「殺さなくてもいい、あいつを倒せばそれでいい。」
「美樹、私は貴方を助けに来たのです。もう、こんなことはやめて私と一緒に帰りましょう。」
中で何が起きているのか分からないがこれは止めなければ。
「それは…無理だよ。美樹はもう帰らないから…決めたの。美樹はお父さんと一緒にお母さんを蘇らせるって…。だから、私はやめない。おじさん、分かったんならそこの人を連れてここから出て行って。」
美樹は俺が隠れていることに気づいているようだった。
バレてしまっては隠れている意味なんかない。
ドアを開け、中へ入ると三人とも俺の方を見ていた。
「美樹…大人しく俺たちの元へと帰ってこい。そんな奴らの言葉なんか真に受けるな。」
「間違ってるのはおじさん達の方だよ。美樹はただお父さんと一緒にお母さんを蘇らせたいだけなの。それの何がいけないことなの?おじさんだってお母さんが目を覚ましたらきっと嬉しいはずでしょ。私はなんでも出来るの。お母さんを目覚めさせることだけじゃないよ。風花さんの生き返らせたい人だって生き返させることができるんだよ。だからさ、美樹の邪魔をしないでよ。」
「未来がそれを望んでいると思うか。あいつはな、そんなことは望んじゃいない。お前にそんなことをしてもらおうなんて思っちゃいないんだよ。」
「うるさいな、分かってくれる気がないなら…おじさんも…殺るから。」
美樹の目は本気だった。
完全に奴らに洗脳されてしまっている。
もう話し合いをするだけ無駄なのかもしれない。
それだったら…やるしかない。
「風花、ここは「私がやります。」
風花は俺の前に立つと指を鳴らす。
そして両手に炎を纏わせた。
「私はそんなことを望んでなんかいない。貴方は間違っていると…私が教えてあげます。」
「美樹は間違ってなんかないっ!!!美樹は凄い力を持ってるんだから。この力があればっ!?」
まだ話している途中だったが風花は美樹の目の前を爆発させる。
美樹は驚いて尻餅をついていた。
「ふふっ…これぐらいで尻餅をつくなんて…滑稽ですね…。それでよくもまぁ、あんな言葉が口にできたものです。」
「こっこれぐらい…どうってことはっ。」
「油断しすぎですよ。」
今度は美樹の左右を爆発させる。
すると美樹はその場にへたり込んでしまった。
「分かったでしょ、貴方はそんな力を持っていても何もすることはできない。貴方には誰も救えないんです。」
「ちっ違う…美樹は…。」
「何が違うというのですか?貴方は今っ、こうして私にビビり怖気づいてるではありませんかっ。それなのに…私の大切な人を…。」
俺は風花を止めるべきかどうか悩んでいた。
だが、その隙にフレアが刀を抜き、俺の元へと向かって来ていた。
俺はすぐにジョウの作った黒刀を取り出し刃を伸ばす。
そしてフレアの刀を黒刀で防ぐ。
「俺を捕まえに来たんだろ。だったら俺たちは俺達で楽しまなきゃな。」
「くっ…俺はお前みたいな戦闘狂ではないからな。楽しむことなんて…できんよっ!!!」
美樹の方から悲鳴が聞こえ、俺はフレアから目をそらす。
奴は俺にできた一瞬の隙をつき、俺の顔面へと拳を入れる。
「ぐっ…!?」
拳を入れられた衝撃に耐えきれず、後ろへと仰け反ると奴はすかさず刀を振り下ろして来た。
何とか体を逸らすと奴の刀を避け、一旦、俺は奴から距離をとった。
「お前に聞きたいことがある。お前が…スピードやフェザーを殺したのか…。」
「ああ、殺したのは俺だよ。だが、それがどうした。あいつらは俺達を裏切った裏切り者だ。裏切り者は見つけ次第、直ちに排除する。それが俺の仕事なんだよ。」
「お前…あいつらはお前の仲間だったんだろっ。それなのにっ、どうしてそんなことができるんだ。」
「残念だが…あいつらを仲間だと感じたことは一度もない…。それにあいつらが死のうがどうでもいいんだよ。金さえ手に入ればな。」
こいつを怯ませたら風花と美樹を連れてここから逃げ出そうと考えていたが考えが変わった。
「お前は元ヒーローのくせに考え方がヴィランそのものだな。お前みたいな危険な男…これ以上好きにはさせられない。」
「ヒーロー…ね、人を助けて何になる。金が手に入るわけでもない、奴らが俺たちのために何かをしてくれるわけでもない。それなのに彼奴らを…俺達よりも劣っている人間なんか助けても何もないんだよ。」
「それならば何故、彼奴らは救っているんだ。」
「…時代が変わったのさ。今じゃ、ヒーローはこの国に必要不可欠な存在だ。力を持つ人間はまだまだ増え続け、敵の数も増え続ける。それを止めるのが彼奴らヒーローの仕事。今じゃ、助けた規模により、国から金が貰えるんだよ。知ってるか、ストーンや他の奴らはそのことを利用し、ヴィランと協力して金を貰ってるんだ。ヴィランにわざと暴れさせ、それを彼奴らヒーローが止める。そうして彼奴らは金を貰って暮らしてんだよ。」
なんて言うことだ。
だから、最近になって犯罪が増え続けているのか。
「お前はそれを止めようとは思わなかったのか。」
「思わなかったね。今まで散々、俺達に無償で働かせて、俺達の生活を奪って来た奴らだ。寧ろ、気分がいいね、この国はもう俺達を止めることなんか出来ない。俺達は誰にも止められないんだ。」
ふざけている。
そんなことがあってはならないはずだ。
このことは国は何も知らないのか。
だが…あの男は…こんなことを許す男だとは思えない。
「インビンシブルは…止めようとはしないのか。」
「彼奴は何もしないさ、今は妻のことで頭がいっぱいだからな。だから、みんな好き放題でできるってわけだよ。」
なるほどな…ならば俺の考えは合っていたわけだ。
奴らにはもう正義を背負う資格はない。
正義よりも奴らには罰を与えるべきだ。
「誰にも止めることができない…か。だったら俺がお前らみたいなクソ野郎を一人残らず裁いてやるよ。」
「俺達を裁くだと…そんなことがお前に出来るわけがない。力を持たぬ人間ごときがこの俺達を止めることなどっ!?」
俺は銃を構えると奴へ躊躇いもなく撃ち放つ。
「力なんかいらんよ。俺達、人間はそもそも力なんか持ってなくても生きてこれたんだ。これから先もそのずっと先も俺達はお前達の力なんか借りなくてもいきていける。」
「お前には分からないのか…この力さえあれば弱者を従わせることができる。この世界は強者こそが力を持つ者こそが上に立つ資格があるんだよ。それにさっきも言っただろう。この先、力を持つ人間はさらに増える、お前にその全員を裁くことができるのか。」
「例え、俺が死のうとも俺の考えと同じ考えを持つ人間が生まれるはずだ。そしたら、後はそいつに任せればいい。俺は…俺にできることをやるまでだ。」
きっとこの先にもヒーローやヴィランが現れるように俺と同じことを考える人間は現れるだろう。
俺にもしもの時があれば、後はそいつがなんとかしてくれる。
そんな気が俺にはしていた。
「ふん…そんな奴が表れようともこうしてお前のようにきっと殺されるだろう。無駄なことだよ。」
「お前には殺されんよ。」
フレアは雄叫びをあげると俺とフレアを囲むように炎を発生させる。
確かに、風花とは違うようだ。
「さてと、くだらん言い争うはやめにしよう。」
そう言うとフレアはジリジリとこちらへ詰めて来る。
俺は刀と銃を手に奴へと構えた。
フレアは俺を見ると同じように刀を構え、刀に手を添えると刀は赤い炎に包まれ燃えていく。
対フレア用の装備を一応持ってきて正解だったかもしれない。
まぁ…奴に効果があるのかはまだ分からないが。
フレアは地面を蹴ると俺の元へと一気に間合いを詰めてきた。
俺は地面に水の入った爆弾を落とし奴の攻撃を刀で受け止める。
「さてと、お前は何分、俺の相手をしていられるかな。」
「…もって数分だな。」
「ほぅ…自身がなさそうだな。」
「いや、お前が立っていられる時間のことだよ。」
仕掛けていた爆弾が爆発をし、奴の体は水でびしょ濡れになる。
そのおかげで真正面から奴の攻撃を防ぐことはできた。
だが、それでも奴の炎の勢いは完全には消すことができずに炎の勢いを弱めただけだ。
「一体…なんの真似だ。もしかしてこんなもので俺の炎を止めようとでも…。だとしたら…少しばかり…がっかりしたよ。俺の炎はこんなものじゃ、消し去ることなんて出来ない。」
それはそうだろう。
こっちだってこのぐらいで終わるとは思っちゃいない。
俺とフレアは真後ろへ飛び、距離を置く。
こいつを倒すのには時間がかかりそうだ。
風花と美樹の方が気になり、横目で確かめると二人もどうやらまだ戦っているようだ。
何だか嫌な予感が胸をよぎる。
早くこいつを倒し、二人を止めなければいけない。
そんな気がしてならなかった。
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