第29話

左右から大きな炎の塊が俺の方へと向かって飛んでくる。

俺は走りながら凛の計算されたルートを辿り、炎の真下をスライディングし、奴の元まで一直線に駆け出した。

そして刀を構えてフレアの喉元へと突きあげる。

だが、そう簡単に奴の元へは刀の先は届かない。

奴は俺の刀の先を頭を傾けて、避けると今度はフレアの方が俺に向かって刀を横へと薙ぎ払う。

刀を避け切ることができそうにない、そう判断した俺は腕に装着していた盾で奴の刀を受け止めた。

「…随分と便利そうなもの持ってんな。」

「そりゃ、どうもっ。」

俺は奴の刀を腕で弾くと刀の頭を奴の顎へと思いっきりぶつけた。

「ぐっ…。」

フレアはよろけ後ろへと下がっていく。

「どうした…力のない人間に一発当てられちまったな。」

奴を軽く挑発し、攻撃を仕掛けにこさせる。

「貴様っ…たまたま当てただけで図にのるなよっ…。」

「いや、狙ってやったんだよ。」

「黙れっ!!!!」

フレアは叫びながら俺の元まで走ると手を向ける。

そして、手の平から炎を作り出し、解き放った。

炎は目の前まで来ると俺の体を包み込むように拡散する。

あんなものを直撃してしまえば間違いなく肉が焼け落ち、骨だけになってしまう。

手持ちの爆弾を全てその場で爆発させ、炎の勢いを殺すと俺は急いで横へと飛び出す。

だが、フレアにはそれが分かっていたのか、俺の飛び出した方にはフレアが立っていた。

「くっ…。」

奴の刀の先が右肩を貫く。

痛みがないとはいえ、刀が突き刺さるのを見ると焦ってしまう。

「死ねぇぇぇぇぇっ!!!!」

右肩に刺さっている刀をフレアは横へなぎ払い、体を真っ二つに斬り落とそうとする。

このままじゃ、ヤバイと感じた俺は左手で奴の刀を押さえると刀の勢いを殺す。

「バカがっ、そんなことをしても無駄だっ!!!」

受け止めた刀の炎が俺の左手や右手を燃やしていく。

ジュゥウッと肉の焼ける感覚が右肩から伝わる。

奴が両手で体重をかけながら刀を横へと薙ぎ払う中、俺は奴の股間にめがけて足を振り上げた。

「ヌゥッ!?」

フレアは顔を歪めると手から力を抜く、俺はその隙に奴の体に前蹴りをくらわし、よろけながらも後ろへと飛び跳ねる。

「はぁ…はぁ…はぁ…。」

右肩に刺さった刀を力強く引き抜くと刀を遠くへと投げ捨てた。

右肩から血はあまり流れてはこなかった。

奴の炎のおかげでもしかしたら傷口が塞がっているのかもしれない。

「これで…お前の武器はその炎だけだっ…。」

「ぐっ…刀など…なくても…俺は十分に強い。お前になぞっ、負ける私ではないっ。」

確かに奴の言う通り、刀などなくても奴は十分に強いだろう。

だが、奴の力だって無限ではない。

今の奴は俺との戦いで疲れが見え始めている。

あの炎の力もいつかは枯れ果てるだろう。

まぁ…俺も疲れてきているのは同じことなんだが。

「確かにその通りかもな…だけどよ…お前…そんなに力使って体力は持つのかい…?」

「何を…言っているんだ…この俺がガス欠で負けるとでも…。ふっ…ふふふっ…貴様は俺をどこまでバカにすれば気がすむのだっ。」

目の前に大きな炎の塊が作られ、爆発を起こした。

咄嗟に両手のシールドを盾に爆発をもろに受けることだけはなんとか避けたが、体は爆風により、後ろへと飛ばされる。

「凛っ…奴のデータはっ。」

「行動パターン、力の発動条件、全て把握しました。」

これでこちらも反撃を開始することができる。

空中で態勢を整えると俺は地面に着地すると同時に動き出した。

フレアはそんな俺に気づき、さらに炎を俺へと放ってくる。

「私がサポートします。」

凛の声が聞こえると同時に体が勝手に動き出す。

迫り来る炎を右へ左へと避け、さらに目の前に現れた炎の塊の真下をスライディングする。

そして奴の目の前まで来ると奴は俺に手のひらを向け攻撃を始めようとしてきた。

だが、それよりも早く凛はブーツのブースト機能を使い、俺の体は空高くへと飛び上がり、奴の背後を取ると刀を奴の背中へと斬り入れた。

「がっっ!!!!こんのクソ野郎がっ!!!!」

フレアは振り返りながら炎を纏った腕を俺の方へと薙ぎ払う。

だが、俺にはもう奴の攻撃は当たらなかった。

俺はシールドで奴の腕を受け止めると地面へ深くしゃがみこみ、奴の足を払う。

そして態勢を崩し、地面へと倒れたフレアに向かって拳を叩き入れた。

「ぐっ…。」

俺は奴の顔の原型が変わってしまうほどの力で何度も何度も奴の顔面を殴る。

「ガッ…ギッ…。」

頭の中で声が聞こえた。

そのままこいつを殺せと誰かが囁いている。

腕や体が言うことを聞かず、奴を殺そうと何度も何度も攻撃を食らわした。

「夏樹っ!!!!」

突然、背後から体を押さえ込まれた。

「離せっ…こいつは生かしては…。」

「貴方は殺さないんでしょっ…あの時にそう言っていたはずですっ。だから…やめて下さい…。」

俺の体を必死に押さえ込んでいたのは風花だった。

風花は泣きそうな声で俺を必死に止めていた。

「………すまない…。」

聞き取ることができるか分からないほどの声で呟くと俺は拳を握るのをやめ、後ろへとしゃがみこんだ。

「美樹は?」

「安心してください。美樹ならあちらで大人しくしています。」

風花の指を指す先には美樹が膝を抱えて座り込んでいた。

あまりボロボロになっていないところを見ると風花は加減して相手をしていたんだろう。

「ぐっ…まだだ…まだ終わってない。」

フレアはそう言うと俺達の前へと立ち上がる。

ボロボロの状態で顔を血で真っ赤に染め上げたフレアの姿は恐ろしいものだった。

その姿に俺と風花は声を失った。

「お前だぢをここがらにがずわげにばいがないっ…。俺どどもに…。」

フレアはそう言いながら身体中に炎を纏い、力を溜めていた。

奴の皮膚は火に焼かれ黒焦げになり、なんとも言えない臭いが漂う。

このままじゃ、まずいと思った俺は腰にぶら下げていた銃を取り出すとフレアに構えた。

「これ以上…お前には誰も殺させない。」

そう言うと俺は銃の引き金を引いた。

銃口からは大量の水がフレアの体へと放出されていく。

「なっ…なぜっ…。」

ジューッという音と共にフレアの体に纏っていた炎は完全に消え去り、フレアはそのまま壁に激突し、気を失った。

「意外と…役に立ったな。」

スケルトン状の銃を見つめ、そんなことを言っていると風花がある異変に気付き始めた。

「な…つ…き。」

様子がおかしい風花の方を振り返るとそこには消えかけている体を見て後ろへと後ずさりをする風花の姿が目に移る。

何が起こっているんだ。

「風花っ!!!!」

俺はすぐに風花の元まで走るが風花の姿は完全に消え去った。

「何がっ……。」

「おじさん…私は世界を救えるの…本当だよ。」

まさか…今のは美樹が…。

「お前…風花に何をしたんだっ!!!!」

「あの人が望んでることをしただけ。美樹は風花さんを幸せにしてあげたの。」

「幸せに…お前自分が何をしたのか分かってんのかっ!!!」

「うるさいっ!!!美樹は…美樹は神様と同じなの。何でも美樹の思い通り出来るんだから。だから、この力を使って…世界を救うの。これは美樹にしかできないことなんだから。だから…邪魔しないで…。」

こいつは自分のやったことに気づいているのか…。

「お前はっ…!?」

周りの景色が変わっていく。

何もかもがなかったかのように世界が作り直されていく。

「美樹…元に戻せっ!!!」

「もう無理だよ。美樹には変える気なんてないから。何もできないおじさんは黙って見ててよ。風花さんの世界が救われるのを。」

いつのまにか後ろに倒れていたはずのフレアの姿が消え去り、壁や地面が真っ黒に染まっていく。

俺は目の前にいる愚か者を一発ぶん殴って今すぐこのおかしな現象を止めようとしたが…間に合わなかった。

突然、地面が消え去り、俺は下へと落ちていく。

もしかすると風花のことを忘れてしまうかもしれないと思った俺は彼女のことを忘れないようにメモ帳を取り出すと必死に下手くそな字で風花の名前を書いた。

これが何の役に立つかは分からないが…こうしておくべきだと俺はその時に感じた。

そしてそのまま俺は何時間も落ち続け、意識を失った。

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