第27話

「それで、何か情報は?」

部屋の中に囚われたボルトの姿を見ながら心へと尋ねた。

「必要なものは全部、あいつが寝ている間に調べといたわ。問題は用済みのあいつをどうするか。正直、ここから出て行かせても良いけど…邪魔になるだろうし。」

「…このまま、あの部屋の中に閉じ込めておけ。今は用済みだがいつかは役にたつかもしれない。それよりも何を知ることができたんだ?」

「美樹の居場所よ。どうやら、あの子は本部にはいないみたい。あの子は今、フードの男と一緒にいるみたいよ。どうやら、美樹はフードの男から力の使い方を学んでるらしいわ。」

「だったら次の標的は決まったな。」

美樹の居場所を知ることができた。

後はそいつから美樹を取り戻せばいい。

だが、相手はフードの男だ。

スピードやフェザーを殺した相手。

入念な準備が必要になるだろう。

「それで風花ちゃんのことは連れて行くの?あの子はフレアを目の敵にしてるんでしょ。」

「…いや、あいつは連れて行かない。今回は俺一人で行くよ。あいつは体を休めさせておく。」

「そう…あの子は納得しないだろうけど…まぁ…貴方がそう言うのならそうさせるわ。」

あいつはまだ目を覚まして間もない。

それに怪我だってまだ直ってなどいないだろう。

ここは俺一人でケリをつけに行く。

「ジョウを呼んで来てくれないか。作戦をあいつと考えたい。」

「分かったわ。」

そして、待っていること数分、ジョウは部屋へと訪れた。

何だか神妙な面持ちだ、風花のことで何かあったのだろうか。

「待たせてすまない。それで、どうしたんだ。」

俺は心と話をしていたことをジョウへと伝えた。

「なるほど…美樹がフレアとな。それならば準備がいるな。だが…私は反対だ。風花を連れて行くべきだと思う。」

「ダメだ、あいつはまだ怪我を負っているだろう。あの怪我じゃ、かえって足手まといになる。」

「彼女を連れて行かない理由はそんなことじゃないだろう。あの子ならきっと大丈夫だ。お前が思っていることなんかしないさ。」

それはどうだかな。

いざ、奴を目の前にして風花は平然を装っていられるのか。

それはきっと無理だ。

あいつは目の前で二回も人を殺されているんだ。

しかもそれも同じ相手に。

それなのに冷静でいられるわけがない。

相手はあのインビンシブルの右腕とも言われていた男だ。

冷静を保てない風花じゃ、きっと…。

「さっきも言ったろ、連れて行かないと。」

「だが…。」

「大丈夫だ。俺がちゃんとケリをつけて来てやる。今の俺は昔の俺とは違う。俺一人でもあいつに勝てるさ。」

「それはそうかもしれないのだが………。」

ジョウはあまり納得いってなさそうだったが、俺は勝手に話を進めた。

フレアは強力な相手だ。

なんの準備もせずに挑めば、間違いなく、やられてしまう。

きっとこれまでの相手とは比べ物にならない程の強さだろう。

そんな相手とどう戦うか。

「フレアは火を使う相手、だがその火力は風花よりも上だ。ジョウ、お前ならどう戦う。」

「…私なら水場がある場所をまず選ぶ。奴の火をもしかしたら弱めることができるかもしれないからな。それと武器には刀を持っているのだろう。それならばその刃を受け止めるための防具も必要だな。後は…奴の戦い方が分かればいいのだが…。」

「凛は…ダメなのか。奴の動きを学習させて動きを完全に封じ込めることは?」

「出来るだろうが…時間がかかってしまう。その間、お前は奴の動きを避けるか耐えなければいけない。お前にそれが出来るか?」

「もちろん、やってみせるよ。」

それから俺とジョウは夜通し、フレアの対策について話をしていた。

「………。」

だが、その話を隠れながら聞いていたものがいる。

俺達はそのことに気づかずにずっと話を続けていた。

そして何日か経つとジョウは心の仲間と共に武器を揃えた。

「まずはこれを腕に装着させろ。」

「これは?」

ジョウが渡して来たものは甲羅のような形をした盾のようだった。

俺はジョウから受け取ると両手に装着させる。

見た目とは裏腹にかなりの軽さだ。

これなら動きの邪魔になることもないし思い通りの動きができる。

「それともう一つ、お前がスマイルと戦っていた時に使った刀、黒刀を渡しておく。これは前回よりもアップグレードし、刀の刃の長さを伸ばし、軽量化をさせた。その分、耐久力は少し劣るが間合いは伸びる。そして、もう一つの機能をつけてある。ボタンを押してみろ。」

刀を手に取るとボタンを押す。

すると鍔から刃が飛び出した。

ここまでは前回と同じように見える。

だが、よく見ると刀の刃から水滴が垂れていた。

「もう一つの機能は刀の内部に水を入れ、その水を纏い、相手の火を弱めることができる機能を追加しといた。これである程度の炎なら受け止めることができる…と思う。もし防ぎきることができなかったら、腕につけたシールドで攻撃を受け止めろ。」

「分かった。」

「最後にこれを。」

今度は銃が机の上に置かれた。

銃の見た目は可愛らしいスケルトン状の銃だ。

だが、その銃はどう見てもただの水鉄砲にしか見えない。

「冗談か?」

「そんなわけがないだろ。試しにあの壁に使ってみろ。」

水鉄砲を受け取ると壁に向ける。

かなりの重量がある。

引き金を軽く引いて見るととんでもない勢いの水が流れていった。

「威力は申し分ないだろう。だが、使えるのは一発だけだ。時を考えて使えよ。」

これは使う場面が来るかは分からないが一応、持っていくことにしよう。

ジョウが用意してくれたものは他にも手榴弾型の水爆弾など、フレアの攻撃を弱める目的で作られたものだ。

俺はジョウの用意してくれた武器をありがたく使わさせてもらうことにした。

後は奴と戦うための場所選びだが。

「私達が場所を決めたとしても奴がわざわざ自分から来るとは思えない。奴は今、美樹と共に動いているんだ、だったら慎重な動きをしているはずだ。だから、私達は奴を待つんじゃなくてこっちから奴へ攻撃を仕掛ける。」

「だが、奴の居場所は?」

「それは…。」

「フレアはこことここ、他にはここで目撃されてる。だから、もしかするとこの辺りに奴の寝ぐらがあるのかもしれないわね。」

いつのまにか隣には心が立っていた。

ジョウは一瞬で姿を現した心のことに気づくとビクッと体を震わせる。

「そっそうか…だったらここが怪しいのかもな。ここは昔、デパートを建てる予定だった作りかけの建築物が建っているとのことだ。誰にもばれずに住むならこの場所が最適かもしれない。」

「私は違うと思うわ。そんな場所は分かりやすくない?」

「行って見ないことには分からんだろう。明日、ここへ俺が行って確かめて来る。その間に別の隠れ家の候補をあげといてくれ。」

二人は頷くとまた隠れ家の話に戻って行く。

俺は外の空気を吸いに部屋を抜け、歩いて行くと風花の部屋のドアが開かれていることに気づいた。

不審に思った俺は風花の部屋に立ち寄ることにし、中を覗く。

だが、そこには誰もおらず、もぬけの殻となっていた。

「…あいつはどこへ行ったんだ。」

すぐに部屋から出て二人の元へと戻ると二人に慌てて事情を説明した。

「…風花ちゃんがいない?さっきまで部屋にいたはずだけど…まさかっ。」

心は急いでモニターの前に立ち、キーボードに何かを打ち込む。

すると画面に監視カメラの映像が映し出され、風花が俺たちの話を聞いている姿が写り、アジトから出て行く様子が写っていた。

「不味いわね…あの子…フレアの元へ。」

「だが、あいつも居場所までは分からないはずだ。今、追いかければあいつに追いつくかもしれん。」

「急いでくれ、あの子はまだ怪我が治っちゃいない。あんな状態で挑めば確実にやられてしまうっ。」

そんなことは言われなくても分かっている。

急いであいつを連れ戻さないと。

棚に置かれた鍵を取ろうと手を伸ばすがそこには何もない。

あのバカは…俺のバイクを…。

風花が移動手段に使ったのは以前、俺がスピードと戦うために使った改造されたバイクだ。

これは…少し、追いつくのには苦労するかもしれない。

バイクを諦め、心の使っている車のキーを取り出し、車へと乗り込む。

「夏樹っ、風花の居場所が分かった。あの子は私が言っていたあの廃墟へと向かっている。お前もすぐにそこへ迎えっ、道案内は凛がしてくれるっ。」

突然、ジョウからの通信がはいり、俺は凛を起動させた。

「風花の元へとたどり着きたい。ルートを頼むっ。」

「了解しました。最短距離で目的地へと向かいます。運転はどうなさいますか?」

「お前に任せる。」

「では出発します。」

車は凛の声と同時に発進した。

目的地まではだいぶ距離がある。

そこへ行き着くまでに風花がいないかを目を凝らして見て置かなければ。

「風花のバイクのGPSを探したところ、見つかったぞっ。」

ジョウから通信が入り、風花が見つかったとの情報が入る。

だが、すでに距離はだいぶ離れ、風花に追いつく前に風花は到着してしまいそうだった。

このままでは不味いことになる。

そう思った俺は車の操作をオートからマニュアルへと切り替え、アクセルを全開に道を走って行く。

だが、それでも風花との距離は縮まることはない。

あいつは一体、どれほどのスピードを出しているのか。

「まずい…このままだと風花が…。」

無線の奥からそんな声が聞こえる。

そんなことは俺も分かっている。

あのバカが何をしようとしているのかも。

さらに強くアクセルを踏み込む。

どうにか…間に合ってくれ。

俺はそう祈りながら風花の元へと向かって行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る