第19話

「彼女の傷は酷い状態らしくてね。すぐには目覚めないかもしれないって…。」

「すぐに目覚めないって…どう言うことだ…。」

「言葉通りの意味だよ。助けるのがもう少し遅かったら死んでいたんだ。こうして助かっただけでも…儲けもんだよ。」

ジョウには複雑な形状の機械が体に繋がれている。

「お前の知り合いに怪我を治せる奴は…一人ぐらいいるだろうっ?」

「いないよ。それに僕は君達と一緒にいることが奴らにバレたからね、もうあそこへは戻れない。あとはこの子の生命力に賭けるしかないよ。」

こうして目の前で大切な仲間が傷を負って眠っているのに、それを助けることが自分には何も出来ない。

このまま指をくわえて彼女が目覚めるのを待つしかない自分に腹が立つ。

「何とかジョウを救い出すことはできないのかっ?」

後ろの二人からの返答はなかった。

何か様子がおかしいと思った俺は二人のことを確かめようと振り返る、そこには心が腕を組んで壁に背中を預けながら立っていた。

「何をしに来たんだ…。」

心に尋ねるが心は何も言わずに部屋を出て行くと

廊下へと歩いて行く。

俺も後をついて廊下へ出ると不思議な光景が目に入って来た。

まるで時が止まってしまったかのように人が動かない。

だが壁に掛けられていた時計の針は動いている。

「これは……。」

辺りを見渡すと心がエレベーターへと入っていくのが見えた。

急いでエレベーターへと向かい、扉が閉まる前にボタンを押そうとする。

だが、いつのまにかエレベーターは屋上に着き、俺はすぐに心の後を追いかけ、屋上へと向かう。

扉を開け、屋上へと出るとフェンスに肘をつき景色を眺めている心の姿があった。

「心…お前は何をしに?」

「美樹が連れ去られたって聞いたから…確かめに来たの。嘘だと思ってたけど……どうやら…本当みたいね。」

「………。」

心の言葉に何も言うことが出来なかった。

口では美樹のことを守ると言っていたが、実際は連れ去られてしまっていた。

彼女が連れ去られたのは俺のせいだ。

「私は貴方に美樹を渡すなって言ったわよね。それなのに貴方はあの女の子を助けた。あの子が美樹よりもそんなに大事なの?未来の娘の命よりも。」

そんなわけがないだろう。

いつもの俺ならそう言っていたかも知れない。

だけど、今の俺にはそんなことを言う資格はない。

確かに美樹は大事な存在だ。

だけど、俺にとって美樹と同じようにジョウや風花のことも大事なんだ。

「また…取り戻せばいい。」

考えたすえ、そんな言葉しか俺には出てこい。

取り戻せるかどうかなんて分からないのに。

「よくもまぁそんなことが言えるわ。…だけど、あの子のこと…助けてあげてもいいわ。私のアジトに怪我を癒すことができる人がいるからね。ただ…条件がある、今度は絶対に美樹と他の命を天秤にかけた時、貴方は迷わずに美樹を救いなさい。」

それは…約束できない。

もしまた今回のように風花やジョウの命を天秤にかけていたら、俺は…。

「あの子はそれだけ大事な子なの。ジョウやあのマスクの子よりも…ね。あの子さえいればなんでも出来るのよ。だから、美樹を助けなさい。これはお願いでもなんでもない。命令よ。」

「教えてくれ…美樹には一体、どんな力があるんだ。なんでお前やヒーローは美樹のことを狙っているんだ。」

「…それは貴方ならわかるはずよ。あの子は二人の力を引き継いでいるの。一人は未来…そしてもう一人は……いずれ嫌でも知ることになるわ。…ジョウって子を救いたいんでしょ。それならあの子を私が連れて行くわ。貴方もヒーロー達と戦うための武器も何もかもを準備してあげる。だから、私のアジトに来なさい。貴方の仲間も連れてね。」

心はそう言うと屋上の扉から病院の中へと戻って行く。

そして、次の瞬間、俺は知らない部屋の真ん中に立っていた。

何が起きたか理解ができずに周りを見渡していると奥の扉から心がコーヒーを持って俺の前に現れた。

心は俺の方をチラッと見ると机の上に俺の分のコーヒーを置き、椅子に座る。

「何が起きたか理解できてないでしょ?そういえば、言ってなかったわね。私にも…力があるの。」

あの時にそんな気はしていたが…どんな力なのだろうか。

「いつからなんだ?その…。」

「力が目覚めた日?そうね…生まれた時…からかしら。」

「嘘だろ?」

「本当のことよ。貴方は気づいていないだけで貴方の前で私は何度も力を使ったことだってあるの。ただ、私の力は目に見えるものじゃないから気づけないと思うけどね。」

目に見えない能力とは一体、どういうことなのだ。

それに何度も俺の前で使っていると言っていたが…。

「お前の力はどういう力なんだ。まったく想像ができないのだが。」

あの時、病院で起きた不思議な現象を思い返すと時間を止める能力だと考えられるが…あの時、確か壁に掛けられていた時計の針は動いていた。

時間を止められるのならば時計の針はあの時、動いていたらおかしいはずだ。

「ふふふっ…時を止められる力が使えたならきっと私はここへはいないわ。」

まただ、こいつはいつも俺の心の中を見透かすような発言をする。

「貴方ほど分かりやすい人は他にいないだけよ。そんなことよりも座ったら?」

返事をする前に俺の体は椅子に座らされていた。

「気味が悪いからやめてくれ。」

「それは悪かったわね、気をつけるわ。それよりもそのコーヒー飲んだら?」

「分かったから…変なことだけはしないでくれよ。」

心はニヤニヤと俺の方を見て笑っている。

俺が何も言わなかったらまたやる気だったのだろう。

「案外、使って見ると便利なものよ。力っていうのはね。」

「そんなもんに頼っていたら人としての生き方を忘れちまうだろ。」

「そんなこと言ってないで素直になればいいじゃない。そうしたらきっと「やめろ。俺には俺の考えがあるんだ。お前の考えを俺に押し付けるな。」

こいつは俺のことをどこまで知っているんだ。

「全部よ。貴方は話さなくても私には嫌でも見えてくるの。私の前で言葉は不要なのよ。」

「そんな力、頼むから俺には二度と使わないでほしいよ。」

「それは貴方次第よ。貴方が私に隠し事をしている限り、私は貴方のことを覗くわ。」

覗くと言うことはこいつの力は心を覗くとかそう言うことなのだろうか。

「少し、違うけど…まぁそんなようなもんよ。それよりも貴方、これからどうするつもり。貴方の相方は一応、助かりはしたけど…目覚めるのには少しかかってしまうらしいのよ。けど、そうなると貴方のそのスーツや武器…それからもう一人の女の子の武器をメンテナンスする人がいないわけよね。それで…私に考えがあるのだけれど…私の仲間にスーツのこと任せてくれないかしら。」

「任せるって…具体的に何を…。」

「そのスーツをアップグレードさせるのよ。今のままじゃ、少し心もとないでしょ?それを私の仲間が改良する。悪い話じゃないでしょ?」

このスーツはジョウが作り上げたものだ。

それなのに…他の奴が勝手に弄っていいものなのか…。

「そんなこと言っても、あの子はいつ目覚めるのか分からないのよ。それだったら私の仲間に任せた方が良くないかしら…。」

ジョウならなんて言うか分からないが…正直、俺は嫌だった。

このスーツはあいつが丹精込めて作り上げてくれたものだ。

それなのに他の奴らに改良されるぐらいならこのままの方がいい。

「…いや、こいつはこのままでいい。それなら新しいスーツを作ってくれ。こいつはやっぱり、ジョウに見てもらわないと…彼奴にしか触ることができないからな。」

「本当に…貴方は変わったわね。まぁ、そう言うなら分かったわ、そう言っとくわ。それよりも少し休んで、あんなことがあったんだし。疲れているでしょう?」

確かに心の言う通り、体はボロボロだし、頭痛が止まらない。

「…悪いが…そうさせてもらう。」

近くのソファーに横になると俺は頭の後ろで手を組んで目を閉じる。

こうしている間にも美樹はどんな目にあっているか分からない。

本当は今すぐにでも助けに行きたいが、武器もアーマーもない状態で突っ込むほど俺もバカではない。

心のことはまだ信用はできないが今は言葉通りに休ませてもらうことにしよう。

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