第20話
どこまでも続く青空が見える。
俺はどこに立っているのだろう。
多分…どこかのビルの屋上だと思うが…こんなビルは見たことがない。
辺りを見渡していると声が聞こえてきた。
声は下から聞こえ、屋上から下を覗くと、下には俺の殺すべき相手が演説をしているのが見える。
合図を確認すると俺はすぐにビルの屋上から飛び降り、奴の目の前に立つ。
奴は俺の姿を見て呆気にとられている。
これは…夢なのだろうが…なんだかとてもリアルな夢だ。
周りの声も聞こえなくなり、奴の顔面に拳を入れた。
何だか俺の体じゃないみたいだ。
動きがまるで違う、若い時のようにしっかりとそして身軽な動きで相手に攻撃をさせる隙を与えずに圧倒していた。
夢だとしてもとても気分がいいものだ。
現実ではこんなふうに上手くいくわけはない。
だけど…とても清々しい気分だ。
よくぞ、ここまでやり遂げた。
そう、自分に褒めてあげたいくらいだ。
まぁ…所詮は夢なのだが。
そして空を見上げると口が勝手に動き出す。
なんと言っているのかは分からないが誰かに向けた言葉なのだろう。
もう少しだけ、余韻に浸っていたかったがそうはいかない。
夢の世界から現実へ引き戻されると目の前にとんでもないほど近くに心の顔が見える。
「何を…しようとしてるんだ?」
「別に…何でもないわ。それよりも…貴方の仲間が貴方に会わせろってうるさいのよ。だから付いてきてくれないかしら。」
「……分かったから…離れろ…。」
心は何事もなかったように振る舞うと俺の前から離れ、扉を開け、外へと出て行った。
どうやらここへは彼奴ら連れてこられてしまったらしい。
部屋の外へ出ると風花とスピードスターが俺のことを待っていた。
「夏樹っ、ここは何処なのですか?」
「どうしてここにこの女がいるんだよっ。」
二人は同時に俺に話を聞いてくる。
「落ち着けよ。俺もどうやってここへ来たか分からないんだ。……待てよ…スピード…お前今なんて?」
「だから、どうしてこの女がここにいるのかっ…て。」
どういうことなんだ。
何故、こいつは心のことを知っているんだ。
「お前ら顔見知りなのか?」
「当たり前だろ?だってこいつはっ……。」
スピードは言葉を話している途中で時間が止まってしまったかのように動かなくなった。
心の方を見ると彼女は俺から目線を逸らしている。
どうやら完全に彼女の仕業らしい。
「心…お前…こいつと会ったことがあるのか?」
「そりゃ…何度かはね。まぁ、そのことについてはまた今度、話してあげる。それよりも風花ちゃんが貴方のことを心配してたんだから。まぁ…無理矢理、連れてきた私が悪いんだけど…。」
彼女はやはり何かを隠している。
まぁ、それが何なのかは後で追求することにして…今はこいつの機嫌を直さなきゃな。
「この人は誰なのですかっ、夏樹っ!!!」
風花は俺の首元をギュッと握りしめながらこれでもかってぐらいに体を揺らしてくる。
そんなに揺らされると気分が悪くなってくるだろうが…。
「落ち着けって…こいつのことは…信用…出来ないがまぁ、問題はないと…思う。それよりもお前はここへどうやってきたか分かるか?」
「分かりません。突然、ここへ移動していたので。それよりも質問の返しが曖昧ですよっ、この女は信用できるのですかっ、それとも信用できないのですかっ?どっちなんです?」
首元をさらに締めつけられ、息が出来なくなってきた。
いい加減に離してくれないと酸欠でぶっ倒れてしまいそうだ。
「頼むから落ち着いてくれっ。こいつはジョウのことを助けてくれているんだ。だから…信用していい。」
何とかそういいながら風花のことを落ち着かせると俺はすぐに風花の手を首元から払う。
危うく、こいつのせいで意識が飛んでしまいそうだった。
「まぁ、私が言うのも何だけれど、信用はしていいと思うわよ。私も貴方達と同じでヒーローを狙っているから。まぁ、だからってヴィランってわけでもないけれどね。」
「………。」
あまり納得いってない風花に俺は後から説明すると伝える。
「それよりもこいつのこと、元に戻してやれよ。何をしてこうなってるかわからんが、見ていて気持ちが悪い。」
いつまでも固まっているスピードスターを見ているとなんだか少し、かわいそうになってくる。
「………分かったわよ。ただし…目を覚まさせるだけよ。」
心がそう言った途端にスピードスターは電源が入ったように動きだす。
だが、すぐに口元を押さえ、俺に何かを訴えかけてきていた。
「んっー、んっ?んんんっ?」
「あっ…何だ?」
何かを俺に教えようとしているがこいつが何を言っているのか、俺にはわからない。
「お前は…こいつまだ変だぞ。」
「喋れなくしてるのよ。喋りだしたらうるさいしね。」
どうやら心の力で口が開かないように塞げられているらしい。
「それよりも貴方達に言わなきゃ、いけないことがあるのよ。フェザーって知ってるわよね。」
知っているも何もフェザーなら俺が美樹を取り戻そうとした時に邪魔をしてきたヒーローだ。
「彼女が数日前に死んだわ。」
「はっ?」
予想をしていなかった事態に俺と風花達は言葉を失った。
「なんだって…?」
「フェザーが殺されたのよ。やったのは貴方達を襲ったフードを被った男。名は炎上 焔(えんじょう ほのお)彼はフレアと呼ばれるヒーローだった男よ。」
「どういうことなんだ…奴らは仲間じゃなかったのかっ。」
「フェザーは私があのチームに潜り込ませた仲間よ。」
どういうことなんだ。
フェザーは心が奴らの元へ送り込んだスパイ?
「彼女には内部から奴等の情報を集めさせていたのよ。けど…それがバレて…殺された。」
「んっんんっ!!!」
「私達の元へこれが送られてきたの。」
心が俺達へ見せてきたものは写真だった。
そこには柱に貼り付けられ真っ黒になったフェザーの姿が写されている。
「…くっ…どうしてこんなことが…やつらにできるんだよ。」
「それだけ、守りたい情報をフェザーが知ってしまったからよ。フェザーは死ぬ前に私達へ情報を送り届けたわ。」
「なんて?」
心は機械を弄ると目の前のモニターに文字が映し出された。
そこにはなんだかよくわからない言葉が並んでいる。
「これは?」
「私達だけが解読できる暗号のようなものよ。これによるとフェザーは私達にこう伝えているの。」
文字の並び順が変わり、ある言葉が生み出された。
「彼女は…生きている?」
「えぇ、その彼女が誰か…貴方は知ってるわ、それに私達もね。けど、今は誰か明かすことができないの。」
「何故だっ、別に誰かぐらい教えてくれたっていいだろうっ?」
「ダメよ、これから始める計画に支障が及ぶわ。そんなことよりも貴方達にはやってほしいことがあるのよ。それはボルトって言うヒーローを捕まえてきてほしいのよ。」
ボルトと言えば確か…電気を自由自在に操ることができるヒーローだったはずだ。
「何故?」
「彼奴は私達のことに気づき始めてるからよ。このままじゃ、貴方達のアジトが襲撃されたようにここも襲撃されてしまう。そうなる前に…奴を捕らえてきてほしいの。」
「だが、奴が何処にいるか…まずは居場所を探さなければ。」
「場所なら分かるわ。そうでしょ、スピード君。」
スピードスターは心の言葉に頷いていた。
元ヒーローだから奴の居場所が分かっているのかもしれない。
「はぁ…だったら武器とアーマーを準備してくれ…。そうしたら作戦を考え、仲間とそいつを捕まえに行くから。」
「分かったわ、すぐに準備をさせるわね。」
そう言うと彼女は部屋から出て行った。
ジョウのことやこれからのことを考えると今は心の言うことを聞くしかないようだ。
あまり納得のいっていない風花と口を塞がれたままのスピードにこれからどうするかを話す。
そして俺達は彼女に導かれるまま先へと進んでいく。
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