第5話
「最初の標的は?」
「ストーンだ。彼奴は野放しには出来ん、それに彼奴には借りがある。」
「ストーンか…最初にしては面倒な相手を選んだな。奴の能力を知っているだろ?物理はほとんど奴には効かない。真正面から戦えば間違いなく、無事じゃ済まない。」
「ああ、そうだろうな。だが、勝てない相手じゃないと俺は思ってる。それに俺は勝つためなら手段を選ばない。どんな卑怯な手でも使うさ。」
俺はヒーローなんかじゃない。
奴らに勝つためならどんな卑怯な手だって使う。
「なるほどな…どんな手でもか…お前はどっちかというとヴィラン側の人間なのかもな。」
「犯罪者共と一緒にするな。」
「まぁ何であれ、いつやるんだ?」
「さぁな、計画がまとまり次第始めるつもりだが…そのためにも準備が必要だからな。そうだ、追加でもう一つ作ってくれないか?」
「ああ、いいが…何を作ればいい?」
「一瞬で地面にドデカイ穴を開けることのできるものなら何でもいい。そうだな大体、5〜7mほどの高さの穴を開けたい。」
「…やってみよう。だが…高くつくぞ。」
「金なら腐る程ある。」
これさえあれば、少しは楽になるかもしれない。
まぁ考えているように行けばの話だが。
「いつ頃出来そうだ?」
「さぁな、私のやる気次第だ。」
短期間でここまでの装備が出来たのだ。
それほど時間はかからないだろう。
そういえば家に美樹を残したままだ。
多分…大丈夫だとは思うが…一応、戻るか。
「待てよ、何処に行くんだ?」
「帰るんだよ。」
俺は一方的に別れを告げるとジョウの研究所から出て行く。
後ろから何度か名前を呼ばれたが今のところ、もうここに用はなかった。
外へ出ると空が黒く染まり、夜中へと変わっている。
冷たい風が体に触れる。
俺は体を震わせるとすぐに車へ乗り込んだ。
しばらく車を走らせながらウトウトとしているとカチャッと後ろから音が聞こえ、振り返ようとした。
「やぁ、ちゃんと車に乗る時とかはさ、誰か乗っていないか、確認しないと。」
聞いたことのある若い男の声だ。
バックミラーを見て、声の主を確認するが、顔が見えず、口元しか見えない。
だが、その口元でさえマスクのようなものをつけているのか、青い布しか見えなかった。
「何が望みだ。」
「えっと…そうそう、美樹ちゃんだっけな?彼女の居場所が知りたくてさ。」
「何のことだ?」
美樹…何故こいつが美樹のことを…。
「とぼけないでよ、僕も暇じゃないんだからさ。君は彼女の居場所を僕に教えてくれればいいんだ。そしたら、僕も君を殺さずに済むんだから。」
「殺すだと、お前みたいな小僧が?ふん、笑わせるなっ。」
「武器なんて必要ないよ。」
やっぱり、そうか。
こいつは力を持っている。
その力が何なのかは分からないが。
「そんなことを言われても知らんもんは知らん。」
平然を装いながら、惚けると男はペラペラと何かをめくっていた。
「姫川夏樹、37歳、血液型はO型。星座は…へぇ顔に似合わずに乙女座なんだ、なんか笑える。大学卒業後に警察学校に入校。そんで数々の章を受け取り、結婚をする。妻の名前は…。」
奴が喋りきる前に俺はマニュアルモードへ切り替え、ハンドルを思いっきり横へ切った。
車は横へと曲がり、態勢を維持できなくなり、道路で傾き、大きな音を立てながら、道路を転がって行く。
そして数メートルを転がると車は動きを止めた。
一瞬、意識が飛んで行きそうだったが、なんとか持ち堪える。
そして後ろを確認するが奴の姿はなかった。
奴は何処へ行った…吹き飛ばされたのか…それとも…。
外から声が聞こえてくる。
「僕だよ、その…失敗しちゃって。」
さっきの若い男の声だ。
誰かと連絡を取っているらしい。
「しょうがないだろ?あんなことするなんて思わなかったんだから。……分かってるよ。あいつ?あいつなら死んだって。……嫌だよ、気持ちが悪い。………はぁ…分かったよ、確かめて見る。」
そう言うと若い男が俺の方へと近づいてくる。
もしかして奴は俺の生死の確認に来たのかもしれない。
俺は出来るだけ息を止め、死んだフリをした。
「ったく、頼むから死んでいてくれよ…。僕は人を助けることが仕事で殺すことが仕事なんかじゃないんだから…。」
人を助けることが仕事…。
しばらく目を閉じて馬鹿みたいに口を開けながら体の力を抜いていたら、男はチラッと俺の方を見て遠ざかって行った。
どうやら詳しくは調べないみたいだ。
「死んでるよ。……うん、分かった。それじゃ戻るよ…マインドったら同じこと言わせないでよ。ちゃんと死んでるってっ。もう切るよっ。…まったく…めんどくさいな。」
今、あの男は確かにマインドと言っていた。
マインドはヒーローのチームにいる女の名だ。
それにさっきもあの男は人を助けることが仕事だと言っていた。
これは…何かあるのかもしれない。
片目を薄く開けて外を見て見ると男の姿は消えていた。
早く、この中からでなければ。
さっきからガソリンの匂いが漂っている。
それにポタポタッと水滴が滴る音も聞こえていた。
急いでシートベルトを外すと体が地面へと落ちて行く。
そしてなんとか這い蹲り、車の中を抜け出した。
さっきの奴は…誰なんだ…。
声からしか判断できないが…二十代前半…そしてマインドと親しげに話していた…。
だとすると…スピードスターとボルトか…。
だがあの一瞬で車の中から居なくなることができた…くそっ…二人ともそれが出来そうだな。
いや、そんなことよりも美樹は無事なのか…。
ここから歩いて行くんじゃ、時間がかかってしまう。
一度、ジョウの所へ戻るか、奴が車を持っているとは思えないが…。
くそっ…それにしても身体中が痛ぇ。
幸い、骨は折れていないようだが。
流石に無茶をしすぎたようだ。
足を引きづりながら来た道を引き返しているとジョウの研究所が見えてきた。
その瞬間、車の方から大きな爆発音が響き渡る。
急いで脱出して正解だったようだ。
だが結構、時間がかかってしまった。
これじゃ、美樹が…。
ボロ屋の中へ入るとボタンを押し、階段を降りて行く。
「ジョウっ!!!」
大きな声を出し、名前を呼ぶと彼女は欠伸をしながら奥から歩いて来た。
俺の姿を見ると慌て出し、肩を貸す。
「何があったんだっ!!!」
「説明している暇なんかないっ。車かなんかないかっ?」
「いや、私は免許を持っていないから車なんてものは……いや、あるにはあるが…。」
「それを今すぐに貸してくれっ。それとあのコスチュームもだっ。」
「……だが、あれは…。……まぁいい、私はバイクの準備をしなければならない、お前は先にコスチュームの所へっ。」
ジョウはそう言うと走って何処かへと向かって行った。
俺は急いでコスチュームの元へと向かい、カプセルを開きコスチュームを着る。
そして置いてあるマスクを頭にかぶると機能を作動させた。
「…えるか?夏樹っ、聞こえるか?」
「ああ、聞こえるよ。それで乗り物は?」
「その廊下に出ろ、そして右を向き、左にある部屋の中へ入ってくれ。」
廊下に出て、右のほうを向き、左にある部屋か…ややこしいな。
言われた通りに部屋へと向かい、扉を開ける。
中には真っ黒に染まったとがとがしいバイクかま置かれていた。
「これは?」
「乗り物も必要だと思って作って置いたんだ。どうやら無駄ではなかったようだな。ただ、まだ試運転も何もしていない。まぁ、走らせるだけなら問題ないだろう。乗り方は通常のバイクと変わらない。乗ったことはあるだろ?」
「ああ、嫌って言うほどにな。ありがたく、使わせてもらうよ。っとその前にこの女の子が何処にいるか調べてくれ。今、俺の家で…匿っている子なんだが、もしかしたら、連れ去られているかもしれない。だからお前は街の方を探してくれ。監視カメラかなんかを調べてくれれば見つかるかもしれん。」
「…流石に時間がかかるが…分かったっ。お前は街に向かうのか?」
「いや、一応、家の方を見て見る。…ジョウ…頼んだぞ。」
そう言うと俺はバイクに跨り、発進させた。
何故、奴らは美樹のことを狙っているんだ。
美樹は俺にとって…大切な存在だ。
そんな彼女に傷一つ、つけて見ろ。
お前らを地獄へ送ってやる。
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