第4話
「まずは動作の確認をする。ヘルメットを頭に装着してみてくれ。」
言われた通りにヘルメットを頭に装着する。
だが、何も見えずに真っ暗なままだった。
「おい、これはどうしたら良いんだっ。何も見えないままだぞっ。」
「大人しく待ってろ。起動するまで少し時間がかかるんだ。これも後で改良しておくさ。」
彼女の声が聞こえた途端、目の前に文字が現れた。
文字には お帰りなさい と書かれている。
そしてすぐに周りの景色が現れ始めた。
「どうだ?」
「ああ、見えるようにはなった。だがこのマスクに意味はあるのか?」
「もちろん、目の前にある的を見てみろよ。」
目の前の的…もしかして離れた位置にある机の上に置かれている缶のことか。
「缶の文字が読めるか?」
「あんなに離れていちゃ、読めるわけないだろ。」
「2秒ほど缶のことを見ていろ。そうすればきっと読めるはずだ。」
2秒か。
試しに缶のことをじっと見つめていると右下の方にズームされた画像のようなものが出てきた。
そこにはジョウは天才と書かれている。
「それで読めたか?読めたんなら声に出してみろ。」
「ジョウは使えないクソヤローだ。」
「どうやら文字が読めないのはお前の知恵の遅れのせいだな。」
「何か言ったか?」
「いや?それよりもマスクには他にも機能が付いているんだ。それは追々、教えてやる。それよりも今度はアーマーの方の機能を確認する。それじゃ、動くんじゃないぞ。」
意外と役に立ちそうなマスクだ。
とそんなことを考えていると扉が開かれ、ジョウがアサルトライフルにしか見えない銃を持ち、目の前に現れた。
そして俺の前に立つと銃を俺に向ける。
「…一ついいか?何をするつもりなんだ…。」
「防弾性を確かめるんだよ。」
「いや…それは俺が着ていないとダメなのか?」
「もちろん。だから、動くなよ…。」
凄く嫌な予感がする。
俺は走ってジョウのことを止めようとしたが、
「しねぇぇぇぇえっ!!!」
と構わず、ジョウは俺に目掛けて銃を撃ちやがった。
奴の放った弾が何発か体に命中し、俺はそのまま地面へと倒れていく。
「どうだ、生きてるか?」
「……殺す。」
「そんな怖い顔で睨むなって生きているんだし。」
「次はないからな…。」
「謝ってるだろうに…それで痛みは感じたか?」
「いや、そんなには感じなかった。多少はチクチクっとしたが。」
「まぁ完全に衝撃を吸収するようなものじゃないからな。それでも十分だろ。それでは次の動作を確認するか。取り敢えず壁際まで寄ってくれ。」
今度は何をするつもりだ…。
またさっきのようなことだったら…殺す。
「ふむ、少しだけじっとしていろよ。今、場所を変えてやる。」
そう言うとジョウが腕につけている時計のようなものを操作する。
すると一瞬で周りの景色が変わった。
「これは?」
「ホログラムさ、それで景色を変えたんだ。こっちの方が臨場感が出るだろ?それで今からお前にやってほしいことはそっちのビルからこっちのビルまで飛んでほしい。」
「冗談だろ?ここからそっちでは大体50mはあるぞ。」
「そのためのブーツだろう。さっきも言ったようにそのスーツには銃と同じような装置が付いているんだ。それを使えば……多分いける。」
「お前はこれを試したことは?」
「ない。」
要するに空を飛べということか。
何だが奴の態度がさっきから癪にさわるがやらなければならないようだ。
どの道、空を飛ぶヒーローも相手をしなければならないこともあるかもしれない。
その為にも奴の言うことを聞いておくか。
「それでどうすればいいんだ。」
「つま先を上げて踵に体重をかけろ。」
つま先を上げて踵に体重か。
言われた通りにしてみるとブーツからカチッと何かが発動した感触が足に伝わる。
(飛空モード)
と言う文字が画面の右下に現れ始めた。
「モードが切り替わったろ?それで準備は出来た、後はそこから走り、飛ぶ時に両足で思いっきりジャンプしろ。」
両足でジャンプか…カエルみたいでカッコ悪いな。
それにわざわざ景色を変える必要はなかっただろう。
失敗しても落ちることはないと分かっていてもこんなにリアルでは…。
屋上のギリギリまで歩くと下を覗いてみる。
なんていう高さだ…こんな高いビルが今まであったことすら俺は知らないぞ。
完全に心が弱気になってしまっていた。
「これは…落ちても大丈夫なんだよな?」
「それは……どうだろうな?」
嫌な顔をしてやがる。
くそっ、いつまでもこんなとこでウジウジしてるのもイライラするし、彼奴のニヤニヤした顔も気にくわない。
「ある童話の緑の装束を着た男の子も言っていただろう。飛べるかどうかを疑った瞬間、永遠に飛べなくなるって。だから信じろ、飛べるって。」
そんなもんは知らん。
見たこともないし、聞いたこともない。
何なんだその緑の少年とは…。
ああっ、もう為せば成る、為さねば成らんだっ。
俺は覚悟を決めると端から端まで走っていく。
「うぉおおおおおっ!!!」
大声を出し、自分を無理やり奮い立たせると言われた通りに両足を地面につけグッと踏み込む。
するとキュイーンッと音がなり、画面の右下の文字の下にメータが現れた。
メーターがマックスになるのを確認すると思いっきりその場から前へとジャンプをする。
ブーツから衝撃波が飛び出し、体が空高く飛び上がった。
確かにジョウの言う通り飛ぶことはできたのだが、一つ忘れていたことがある。
それはここは外ではなく部屋の中で天井があると言うことだ。
その時だった、ゴンッと天井に思いっきり頭をぶつけた俺はそのまま下へと落ちていき、気を失った。
ここは…。
目を開けると嫌な光景が目に入る。
周りは瓦礫に囲まれ、人々が必死に何かから逃げ惑っている。
俺の目の前には瓦礫の山があり、その奥から助けを求める声が聞こえてくる。
俺ら確かあの時、助けを求めていた。
「誰かっ、誰かいないのかっ。妹がここに閉じ込められているんだっ!!!」
あの時の俺はそう叫んでいたと思う。
だけど、周りにいる人達はみんな知らんぷりで逃げて行く。
みんな生きる為に必死なのだ。
その為には他者を助けている暇なんかない。
「待ってろよっ、すぐに助けてやるからなっ。」
俺は諦めずに瓦礫の山を一人で退かそうとしていた。
だが、一人ではどうすることもできない。
こんな時にヒーローみたいに力があったら彼女を助けられたかもしれない。
俺はただの一般人に過ぎないんだ。
奴らのような力なんてない。
だが、それでも無駄なことだと分かっていても必死に彼女を助けようとしていた。
こうなってしまったのも全部奴らのせいだ。
奴らが現れなければこんなことになんてならなかった。
ヒーローとヴィランとの戦い、俺たちはその戦いに巻き込まれた。
だが、俺はその時に見たんだ。
世界最強のヒーローと呼ばれているあの男が俺のそばにいたのを。
「おいっ、こっちだっ。妻がここにいるんだっ。助けてくれっ。」
俺は奴にそう叫んだ。
大きな声で声が枯れてしまっても構わないくらいの大声で。
あいつは俺の方を見た。
絶対にあいつと俺はあの時に目があったはずなんだ。
「おいっ、アンタならこの瓦礫を退かせるだろうっ。協力してくれっ。妻を助けてくれっ!!!」
俺は何度もな同じような言葉を叫んでいた。
奴に聞こえるように何度も助けを求めた。
だがあいつは俺達を助けようはせずにその場から消えた。
「まてよ…何処に行くんだっ。助けてくれよぉっ!!!!」
彼奴らはヒーローと呼ばれているがそれは違う、彼奴らはただの偽善者だ。
中途半端に世界を救ったただの化け物。
例え、奴らに命を救われたとしても奴らには感謝はしない。
例え、俺が間違ったことをしていたとしても奴らには謝りはしない。
俺は絶対に奴らをヒーローとは認めない。
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