第6話

「くっ…どうなっていやがる…。」

家に帰ると美樹はいなくなっていた。

それどころか部屋は荒らされており、そこら中に物が散乱している。

奴らがこの家に来たのか…それとも…。

「聞こえるか、ジョウ。家にはいなかった、そっちは?」

「いや、まだ見つかってない。彼女の行きそうなところは?」

「………。」

俺は美樹のことを何も知らない。

そして、知ろうともしなかった。

だから、彼女のことは何も分からない。

「分からんか…それならこっちはやるだけやって見る。」

ジョウとの通信が終わると俺は急いでバイクに跨り、近くの町へと向かう。

あの子は免許を取れる年齢ではない。

移動手段は近くの交通機関を使うはずだ。

家の近くにある交通機関といえば、バスか。

そうなるとこの時間帯だと隣の街にしか行けないはずだ。

「ジョウっ、如月って街の監視カメラで美樹のことを探してくれっ。」

「分かった。」

何だか嫌な予感がする。

バイクに乗りながら街へと向かっているとジョウから通信が入る。

「見つかったぞっ、今から画像を送るっ。」

画面の右下に画像が現れる。

そこには美樹の姿が写っており、美樹は呑気にクレープなんかを食べていた。

だが、その写真を見て俺はあることに気づく。

「ジョウっ、美樹の右後ろにいる男を拡大してくれ。」

「待ってろよ…こいつは…。」

美樹の後ろにいた男はフードを被っているがバッチリ顔が写っていた。

間違いない、こいつはストーンと呼ばれている男だ。

「これはまずいんじゃないか…。」

「ここから先どうなったのかは分からないのか?」

「ああ、死角になっていて分からないんだ。取り敢えず、地図を送る。」

画面に矢印が現れ、行き先が表示される。

「そのナビに従え、そうすれば最短距離でいけるはずだ。」

アクセルを全開にし、急いで美樹の元へと俺は向かった。

美樹のことを狙っている奴らはきっとヒーローのチームだ。

奴らが何を考えているかは分からないが急がなければ。

街に着くと裏路地にバイクを止め、ビルの上へと駆け上がる。

そして踵に体重をかけ、飛空モードへと切り替えるとビルからビルへと飛んで移動を始めた。

「あれから美樹の居場所は?」

「こっちも探してはいるんだが…何かに邪魔されて……うまく探せないな。あれを試すか…。今から指定するビルの上へと向かってくれ。今、データを送る。」

マスクの画面の矢印が別の場所を示し出す。

目的地は遠くに見える大きなタワービルだった。

「あそこを目指せばいいのは分かったが、どうやってあそこまで登ればいいっ。」

「お前のそのグローブとブーツには壁に張り付くことができる機能が付いている。私が使ってみた時は何の支障も無かったから多分、それで登れるだろう。」

要するに壁を登っていけと…無茶苦茶だな。

だけど、やるしかないか…。

ビルからビルへと飛び移り、タワービルのそばまで近づく。

このビルを登るのか…。

上を見上げるとはるか先にてっぺんが見える。

考えていても仕方がない。

「どうすれば壁を登ることができるんだっ。」

「そこからビルに向かっておもいっきり飛べ、そしたら勝手にシステムが作動する…はずだ。」

本当に大丈夫なのか…。

一瞬、失敗した時のことが頭に浮かんだが、すぐに頭を横へ降り、成功すると暗示をかける。

俺は覚悟を決め、助走をつけると思いっきり走り出し、両足でジャンプをする。

画面に何か文字のようなものが出てきたが確かめる余裕なんかなく、そのままビルの窓ガラスへとぶつかった。

慌てて、両手を窓へ当てるが何も起こらずに下へと落ちていく。

「まずいまずいまずいまずいっ。」

頭の中ではそんなことを考えていたと思う。

下へ落ちていきながら、何度も手を壁へと押し当てる。

すると数メートル落ちたところでシステムが作動し、壁へと張り付くことができた。

「はぁ…はぁ…はぁ…。」

「夏樹っ、聞こえるか?夏樹っ!!!」

「聞こえてるっ!!!何なんだこれはっ、試したと言っていたのに作動しなかったぞっ!!!」

「すまない、多少は時間がかかってしまうことを伝えるのを忘れていたよ。だが無事で何よりだ。」

まったく、こいつは…帰ったら絶対に殺す…。

「それでそこから登れそうか?」

湧き上がる怒りを抑え、返事を返す。

「……ああ、時間はかかりそうだが…行けそうだ。」

見上げるとさっき飛んだ距離からは下へと下がってしまっている。

だけど、これぐらいなら時間はかかりそうだが何とか登り切ることができそうだ。

しかし、急いで行きたいところだが…さっきのことが頭をよぎって慎重にいかざるを得なかった。

また落ちていくのはこりごりだ。

ゆっくりゆっくりと壁に手を合わせて上へと登っていく。

そして15分ほどで半分以上は登ることができた。

下を見たらダメだな…。

それからも時間をかけてなんとか屋上へと登ることができた。

「屋上へと登ったぞ。それで俺はどうすればいいんだ。」

「よし、そしたら下を向いてくれ、あとはこっちで探す。」

言われた通りに下を見る。

相当な高さだ。

どうやってここから降りればいいのだろうか。

「見つからないな…今度は反対側へと回ってくれ。」

「はぁ…。」

溜息を吐きながらも言われた通りに壁伝いに反対側へと向かい、また下を見る。

「うーん、これかも知れないな…。………やはりこれだっ、まずいな。ストーンに連れ去られているようだ。」

「なんだとっ、急いで追跡してくれっ。」

「ああ、分かってる。お前はそこから飛び降りろっ。」

「はぁ?なんて言った?」

「そこから飛び降りろ…と言ったんだ。」

「正気か?」

「当たり前だろ、その方が早いだろうし。」

飛び降りろってこんな高さから飛び降りたら間違いなく死ぬぞ。

そのことがこいつは分かっているのか。

「何をしてる、ささっと飛び降りろ。」

「………。」

他人事だと思いやがって…。

これは……無理だな。

死ぬイメージしか湧かない。

「私を信じろよ、大丈夫だ。」

何が大丈夫なのだろう。

こいつはさっきのことを忘れているのか…。

「お前が飛ばないなら私が後押しをしてやろうか?お前のブーツを遠隔操作してそこから飛ばせることができるぞ?」

「やめろっ。」

「カウントダウンを始めるな。3、2、…。」

耳元から奴のカウントダウンが聞こえてきた。

奴に飛ばされるぐらいなら自分から飛んだ方がマシだ。

と、思っていたが奴はカウントダウンの途中で俺の履いているブーツの機能を作動させる。

俺の体はそのまま高く飛び上がり、空中を回転しながら落ちて行く。

「おっまっ…いやぁぁぁぁあああいああっ!!!!!」

ビビりすぎて変な声が口から出てしまった。

「馬鹿っ、何をしてるっ。回転するんじゃなくて大の字になれっ!!!」

そんなこと聞いていない。

落ちて行きながら空中でなんとか態勢を整えると言われた通りに大の字になる。

その瞬間、シュッと腕の間から膜のようなものが開き始めた。

「うぉっ…。これは?」

「ウィングスーツのようなものだよ。それなら自由に滑空飛行することが出来る。それで美樹の元へと飛んで行けっ。」

「着地するときはどうすればいいんだよっ。」

「地面から大体、5メートル離れた距離ぐらいからブーツの機能を発動させろ。そうすれば…多分いけるっ。」

その多分ってのをやめろよ…不安になっちまうだろうが…。

画面には美樹とストーンの居場所が写し出されている。

あそこに向かえば良いんだな。

どれぐらいスピードが出ているかわからないがどんどん目的地へと近づいていく。

だが、二人の姿を目視することはできなかった。

ビルとビルの隙間を通り抜け、滑空して移動をする。

なんだかさっきよりも余裕が出てきた、慣れてくると案外、楽しいもんだな。

そして、しばらくまた滑空をしていると二人の姿を画面が捕らえた。

ストーンは美樹の身体を担ぎ、何処かへ向かっている。

どうやら美樹は気を失っているらしい。

俺は身体を真っ直ぐにするとストーンの前に目掛けて落ちていく。

そして言われた通りに地面が見えてきた瞬間を狙い、ブーツの機能を作動させた。

だが、うまく機能が発動せずに着地することができず、ストーンの前を転がって行く。

そして目の前にあったゴミ箱の中へと俺は飛び込んでいった。

なんだか…嫌な臭いに体が包まれてしまった。

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