第14話 戸惑いと決断

理沙からの突然の告白。


フリーズした私を気にもせず、理沙は続ける。


「恵那が立花を好きなのは知ってる。

あのイケメン顔はずるいよね。ハキハキしないし、成績だって大した事ないのに」


そんな、、、。


「私、本気だよ。恵那と恋人になりたい。

返事、待ってるから」


そう言って理沙は帰って行った。


すぐに立ち上がれず、頭では色んな事がぐるぐる渦巻く。


理沙の事。

立花さんの事。


理沙の事は、もちろん好き。

でも、それは友達として。

明日香や他の友達への気持ちと変わらない。


立花さんは違う。

友達ですらないけれど、こうやって姿を思い浮かべて、考えるだけでドキドキする。


「イケメン顔、かあ」


確かに立花さんは、誰が見てもカッコいい。

涼やかな目元、さらりとしたショートカットが良く似合ってて、日焼けした肌が精悍さを引き立ててる。


私も、他の子達と同じ様に憧れの眼差しで見ている自覚はあるけど。


でも、立花さんに惹かれ始めたのは、彼女の悔し涙を見てからだと思う。


あれは去年の夏休み。

部活のために登校していた私は、試合から戻って来たらしい立花さんを見かけた。


他の部員に混じってバスから降りた彼女の顔は、驚くほど悔しさが滲み出ていてハッとしたんだ。

それまでのクールな彼女はどこにもなくて、目はギラついて歯を食いしばって、爆発する寸前みたいな張り詰めた表情。


周りで泣いている部員が見えて、何となく負けた事は分かった。


先輩らしき他の部員から肩を叩かれて、「ドンマイ」「よく頑張った」って声をかけられるたび、「すみませんでした」と何度も頭を下げ、謝る立花さん。


後で、他のクラスメートから、地方大会の決勝戦で接戦を制しきれず、全国に進めなかった事を聞いた。

そして、同点のホームを彼女が踏めなかった事も。


練習後にグラウンドの側を通ると、立花さんが一人で素振りをしていた。

他の部員はもう帰ったんだろう。


立花さんは必死の形相で、何かを断ち切るようにバットを振っていた。

私は目が離せなくて、隠れるようにネット越しに突っ立つ。


立花さんは、少ししてバットを下ろし、腕で顔をゴシゴシ擦り始めた。

、、、泣いてる。


声をかけようか戸惑っている内に、立花さんは空を見上げ深呼吸をしてから、またバットを振り始めた。

胸がギュッと締めつけられて苦しいのに、目が離せなくて、立ち去れなかった。


なんて強いんだろう。

なんてカッコいいんだろう。


彼女が終わるのを見届けて、帰宅してからもドキドキしたままだった。


あの日からだ。

立花さんの姿を探すようになったのは。


クラスが違うから、会う事はほとんど無かったし、あんなに感情が剥き出しになってる姿も見かけなかったけど。


2年で同じクラスになって、落ち着いてクールなだけではない、子供のようにあどけない表情や笑った顔を見るようになって、どんどん惹かれていくのが止まらなくなったんだ。


こんな気持ち、知らなかった。


毎日彼女の姿を眺めては、ちょっとの仕草や表情にドキドキして。

彼女の側にいつもいるマキに嫉妬して。


ぼんやりだけど、きっとこれが恋なんだろうなって思った。


「顔だけなんかじゃない」


自分に言い聞かせるように呟いた。







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