第13話 ぐちゃぐちゃ


佐原さんに声をかけられず、ヘタレな自分に心底呆れて、気分が悪くなった翌日、なぜか三崎さんから屋上に呼び出されて、更に気分はどん底に落ちた。


「私、恵那に告ったから」


は?告った?


「あなたは恵那の顔しか見てないんでしょ。でも私は違う。恵那の可愛い所、弱い所もみんな知って好きになったの。外見だけに惹かれたあなたなんかには恵那を渡さない」


堂々の宣戦布告だ。

美人だからこそ余計に凄みがある。


「別に佐原さんの事は、、、」

思わずまた怯んでしまう。


「この後に及んで、好きじゃないとでも言うつもり?

顔がいいだけのヘタレね。なんであんたなんか、、、人気あるんだか」


そんな事知らない。

佐原さん以外に人気があったって意味ないのに。


「とにかく言いたい事はそれだけ。じゃ」


背中を見せて颯爽と教室に戻っていった。


「外見だけ、か」


佐原さんの何が好きなのか。

もちろん、あの容姿に心を奪われたのは確かだ。


でも、意識するようになったのは、入学してまもなく、自主練で土手を走ってる時に、彼女がフルートを演奏している姿を見た時からだと思う。


なんとなくだった思いが、決定的になったのは、1年2学期の終業式。

部活で活躍をした生徒達が、体育館の舞台袖で表彰の順番待ちをしていて、自分もその一人だった。


地区大会でかなりの成績だった吹奏楽部が、ステージに上がって準備をする。

フルート席にいる彼女を見ると、真剣な横顔で胸に手をあて、深呼吸をしている姿があった。


その表情に、どこか共感を覚える。

バッター席で、ボールを見極めようとする自分。

守備位置で、来たボールを逃すまいと構える自分に。


これは、彼女にとっての試合だ。

心の中で応援する。

「頑張れ頑張れ、佐原さん!」


演奏が始まって暫くして、フルートのソロになった。

堂々と見事に演奏し切った彼女に、鳥肌がたった。


きっと、もの凄く練習したんだろうな。

土手で見た彼女が思い浮かぶ。


見事な場外ホームランだ。

練習なしでは決して届かない境地。


駆け寄って、抱きついて、「やったな」って言ってあげたい。


あの演奏を聞いて、多分本気で恵那を好きになったんだと思う。

自分も負けてられないって、練習にも一層身が入るようになった。


そうだ。

外見だけなんかじゃない。


でも、もう手遅れなのかな。


三崎さんと手を繋いで、一緒に歩く佐原さんを想像してしまう。

今だって、親友として寄り添う2人の姿はすごく絵になる。


自分は、まだ友達ですらないんだ。


どうしたらいい?

どうしたい?


なんか頭がぐちゃぐちゃで分からない。



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