<閑話> 親友を越えて 〜理沙の思い〜


私には、親友と呼べるような友達がこれまでいなかった。


中学は、家から近い公立に通ってた。

普通に学生生活を送っていたはずが、色気付き始めたクラスメートに巻き込まれて、散々な目にあった。


要は、男子にモテて、やっかみの対象になったんだ。

私は、男子なんか好きじゃないのに。


高校は、そんな事が起きないよう、女子校を選んだ。

でも、入学して1週間も経たないうちに、考えが浅かった事が分かった。


男子が周りにいなくても、やっかむ要素はどこにでも転がっていて、友情なんて綱渡りみたいで、ちょっと気を抜くと、ぼっちになってしまう。


作り笑いをして、意見も正直に言えずに、それでもぼっちにならないよう、神経を尖らせていた日々。


でも、ある日を境にしがみついてきたものが、音を立てて崩れてしまった。

友達グループと帰宅途中、駅付近でモデルのスカウトをされたんだ。


すぐに断ったけど、4人いたのに、私だけ声をかけられた事が許せなかったみたいで、その日から後の3人から徹底的に無視された。

他のクラスメートにも私の悪口を言って、ぼっち確定。


これまで息を詰めて守ってきたものが、あっけなく壊れて、もう色々と限界だった。

滅多な事では泣かないと自負してたけど、あの日、土手にまで出た私は堰を切ったように泣き崩れた。


どれぐらい泣いてただろう。

隣にそっと腰を下ろす人の気配に気づいて顔を向ける。


「あ、やっぱり三崎さんだった」


クラスメートの佐原恵那だった。

とびっきりの美少女。

見た瞬間、はっと息を飲むような。


それだけの容姿を持ちながら、独特の透明感と、たまに遠くを見るような視線が、まるでこの世には属さない妖精のようで、イジメの対象にはならない。


彼女の澄んだ瞳と、愛らしい笑顔が庇護欲をくすぐるんだと思う。


それと、彼女を守るようにいつも一緒にいる一ノ瀬明日香。

体の小ささと反比例するような教室中に響く大声と、持ち前の明るいキャラでクラスのマスコット的存在だ。


可憐な姫にまとわりつくペット。

誰に聞いても、こんなイメージの2人。


その姫である恵那に、至近距離で泣き顔を見られた私は、恥ずかしさでまともに返事が出来なかった。


そんな私に、恵那は何も言わずそっとハンカチを渡してくれる。

躊躇いながらも受け取って、涙を拭いた。


どのくらいの時間だっただろう。

言う事が思い浮かばなくて、ひたすら目の前の川を眺めて、必死で気を落ちつけた。

恵那も何も言わず、ただ私の横に座っている。


なんとか気を取り直して尋ねてみた。

「私と一緒のところ見られたらヤバくない?」


そしたら恵那は、面食らったように

「なんで?」

って聞き返してきたんだ。


あのクラスで私がハブられてるの気づいてないはずないはずなのに。

でも恵那の表情から悪意は感じられなくて、なんとなく今いる自分の状況を説明する。


「そんなの三崎さんのせいじゃないのに。ごめんね、気づかなくて。ねえ、私と友達になってくれる?」


邪気のない花凛な妖精から手を差し伸べられて、断る人なんていないだろう。


翌日、教室に入ると恵那はすぐに駆け寄ってくれた。

一緒にいた明日香を紹介してくれて、それからは3人で行動するようになった。


クラス一のペアに気に入られた私を、イジメるのは得策ではないと思ったのか、クラス内で私を除け者にする人達は日を追って少なくなった。


1年経ってクラス替えもあって、今でもその事を覚えてるのは、きっと被害を受けた私だけだ。


でも、そんな傷は関係ない。

私には親友と呼べる存在が2人もできた。


近くにいるようになって、恵那の天然な所、可愛い所をいっぱい知った。

そんな彼女に、友達以上の気持ちを抱く自分にも気づいたけど、同時に、彼女の視線の先に立花奏がいることにも気づいてしまう。


2年になって、奇跡的にも3人一緒になれた事は嬉しかったけど、立花も一緒になった事で、恵那の思いの強さを知ってしまったんだ。

そして、立花も恵那が好きな事も。


超がつく程鈍感な2人だから、お互いの好意にはこれっぽっちも気付いていなくて、このままだったらいいって思ってた。


でも、席替えで2人が前後の席になって、焦ってしまう。

私は2人とは正反対の廊下側。

立花と横列が同じな分、後ろにいる長谷川のちょっかいの真意も手に取るように分かった。


立花に気があるフリしてるけど、恵那を振り向かせたくてやってるんだろうなって。

同じ人を好きなんだから、分かって当然だ。


長谷川も目ざといから、私の気持ちにも気づいたみたい。


ノー部活デーで、立花が恵那に声をかけるのを見て、咄嗟に呼んだ声。

長谷川から「なにみっともなく邪魔してるの?」と問われて、「渡さないから」と啖呵を切って恵那と下校した。


もうこれ以上、2人が距離を縮めていくのは見たくない。


親友でいられなくなるかもしれない。

正直、また一人になる怖さはあった。


でも2人が恋人になって、それを笑顔で祝福なんて出来ないから。


私は、自分にもう嘘をつきたくない。


だから、恵那。

どうか私の思いに気づいて、受け止めて。


「好きなんだ」


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