第11話 勇気の先

ダメだ。


午後の授業は、全く頭に入らなかった。

佐原さんにどう話かけるかで、頭が一杯だったから。


「佐原さん、このあと時間ある?」

うーん。

「佐原さん、駅まで一緒に帰らない?」

、、、唐突過ぎる。


ぐるぐるベストな言い方を探すんだけど、どれもイマイチ。


今まで挨拶ぐらいで、まともに会話をした事ないのに、いきなり一緒に帰るって、ハードル上げ過ぎだ。


でもマキの言う通り、滅多にないチャンスを活かさないと、せっかく席が近いのに進展ないまま終わってしまう。


よし。

ともかく、授業が終わったら、名前を呼ぼう。


「、、、今日のホームルームはここまで。今日は、どの部活も休みだからな。さっさと帰れよ」


担任の先生が話を終えて、教室を出て行った。


帰り支度も、いつもより早く済ませて、前の席に声をかける。


「あの、さ、佐原さん」


まだカバンにノートを詰めていた彼女が、驚いた顔で振り向く。


「な、何?」


よし、言うぞ。


「今日、この後さ、、、」

言い終わる前に、決して大きくはないけれど、無視出来ない声が廊下側から聞こえてきた。


「恵那!一緒帰ろ!」

佐原さんと仲の良い三崎さんだ。


出鼻をくじかれた感じで、急激に自分が場違いに感じられる。


「理沙、ちょっと待ってね。えーっと、立花さん、ごめん。何か言おうとしてたよね」


佐原さんは、三崎さんに断りをいれてから、私に向き直ってくれた。


でも、一度くじかれた勇気はもう戻ってはくれない。


「あ、何でもないんだ。ごめん、呼び止めたりして。また明日」


カバンを乱暴に掴んで、教室を飛び出した。


「立花さん!」

自分を呼ぶ佐原さんの声が聞こえたけど、これ以上ここに居られない。


自分はバカだ。

ヘタレだ。


はあ。

何やってんだ。


すれ違った時にチラッと見た三崎さんの顔。

「勝った」と言わんばかりだった、、、


敗者は、自分だ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る