第12話

「だれ?」


 紗奈は低く、感情を殺した声で、話しかけてきただれかに、短く質問する。


「私は死神」


 沙奈が振り返るとそこにはあの日、真夜中に一瞬だけ話した死神の姿があった。


「あなたが沙奈さんであってるかな」


 死神はそう言って沙奈に小さく笑いかける。

 沙奈は思わず頷いてしまう。


「よかった。間違えちゃってたらここの国の人達で言う……住居不法侵入罪になっちゃうところだったね。ま、わたしの姿はあなたにしか視えないんですけど」


 死神はそう言って沙奈を笑わせようとするが、沙奈は笑わない。


「はぁ……」


 沙奈は溜め息を吐く。


 ――面倒なことになった……? 両親が死んじゃってわたし、頭がおかしくなったのかな。


 そんな失礼なことを沙奈が考えていると死神は、


「沙奈さん、死にたい?」


 と沙奈に問いかけた。


「当たり前じゃない」


 沙奈は即答する。

 両親がいないこの世界に価値はない。

 それほどまでに、沙奈の心の中で両親は沙奈の支えとなっていた。


「一週間、待ってくれないかな?」


「――はい?」


 死神から死ぬのを少し待ってくれないかと言われ、沙奈は思わず聞き返してしまう。


「死なせてくれないの?」


「はい、それはできません。私達死神は、人間と契約し、一週間考える期間を与えるんです。そして、一週間後、契約者に、死んでも大丈夫か、殺されても文句は無いか訪ね、イエスなら殺し、ノーなら別のターゲットを探します」


「……それで偶々ターゲットになったわたしのところに来たってことなのね」


 沙奈はあまり納得してないが、死ねるなら何でもいいや。と割り切った。

 自分だけで死ねなかったときのために死神が来たんだと考えることにした。


「何故死神は直接殺さずに、そんなに回りくどいことをするの?」


 そして浮かんできた疑問を沙奈は死神に質問する。


「契約者の同意を得ずに直接殺すのは死神界でのルール違反なんです。もし仮にノーと答えられても、我々死神との記憶だけを消し、私達死神はターゲットから姿を消し、二度と関わりません」


 沙奈の質問に死神は、まるで暗記していたかのようにスラスラと説明する。


「ふぅん……じゃあなんであなた達死神は人を殺すの?」


「最近、人間が増えすぎて、美しい自然や、命がすごい勢いで失われていっているのです。それを止めるために、私達死神は人間の命を刈るのです。まぁ私は一度もイエスと言わせたことはないのですが……」


 死神はそう言って俯く。


「じゃあ私が契約者第一号だね」


 沙奈は、今までの暗さが嘘のような明るさで死神にそう言う。


「だといいのですが……」

 

 だが死神はうつむいたままだ。


「とにかく、一週間よろしくね」


「……はい」



 こうして、沙奈と死神の一週間が始まった。

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