第7話

「楽しかったですね」


 死神が声を上擦らせて春希に言う。

 春希は死神と周囲の景色をデッサンした。

 とても良く書けていると死神は思った。


「そうだね、死神さん」


 今の時刻は午後10時半。

 これから家に帰るところだ。



 来たときと同じように歩いて帰る。


 空を見上げれば、星が見える。


 光っている。


 手を伸ばせば届きそうだ。


 そんなことを思って死神は手を伸ばす。


「何してるの?」


 春希が死神に尋ねる。


「いや、星に手が届きそうだなぁ〜……なんて」


 春希は死神に笑って、


「そうなのか、僕も思ったことがあるんだ。あの星に手が届けばなぁ……って」


 死神の顔に喜びが現れる。しかし春希はそんな死神に気づかずに、


「――もう随分昔のことだけどね……」


 と付け加え、春希は目を伏せた。


 それから、春希と死神は、二人並んで夜の街を歩いた。

 帰り道、死神が唐突に、


「夜の街もみてみたい」


 と、春希に言ったからだ。


 春希はもちろんこんな夜中に用事なんて無いので、了承して、街へと歩き始めた。


 死神は、何が楽しいのか、街を歩いている間も笑顔を絶やさなかった。


 春希は少し疑問に思ったが、すぐに忘れてしまった。


 どうでもいいのだ。自分はどうせもうすぐ死ぬのだから。








「――はぁ、疲れた」


 春希はリビングに倒れ込む。


 帰りも死神が延々と話しかけて春希は疲れ切っていた。


 そのせいか、死神に「おやすみ」と言う前に眠りについてしまった。


 ――実は死神は玄関の前で、家に入る前に寝てしまっていた。そのことを春希は知るよしもなかった。

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