第11話
「ただいまー」
帰宅すると、母と妹が並んでテレビを見ていた。背中だけでなく、振り返った横顔も似てきている。
「おかえりー。お姉ちゃん、どうだった、怪しいセミナー?」
すぐに声をかけてきたところを見ると、妹なりに興味があるのかもしれない。
「うん、面白かったよ」
スプリングコートをイスに掛け、買ってきたたこ焼きをテーブルに置く。
「またたこ焼き?」
「うん、たこ焼き」
「美香、ありがとう。由佳、いやなら食べなくていいのよ」と母がお茶を入れてくれる。
ひとり2個ずつ食べたあと、由佳が当然のように残りのたこ焼きに手を伸ばしてきた。
と、次の瞬間、私はパックを勢いよくつかんで引き寄せていた。
残ったふたつのたこ焼きを立て続けに口に放り込んだ。
食欲は正直なくて、最初の2個でもしんどかったのだけれど、それでも私は無理矢理口に押し込んだ。
おおげさにアゴを動かして咀嚼し、ぐいぐいと喉を鳴らして飲みこんだ。
あまりの勢いに、ふたりとも「どうしたの?」とあっけにとられている。
「なんでもない。たまには独り占めしようかなって」
私は答え、へへ、と笑った。と、涙が一粒、二粒とこぼれてきた。
「えー、ちょっとお姉ちゃん、だいじょうぶ?」
「美香、なに? 胸に詰まった?」
ふたりがわざわざ立ち上がって心配してくるので、私は、そこからひとしきり笑いながら泣いた。
げっぷをすると、たこ焼きが出てきそうで、それがまたおかしくて、また泣いた。
〈完〉
for others 私の私は誰のため 茉野いおた @choualamano
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます