サマータイム・パレード 4

「控室以外にも建物の中を一通り調べてみたけれど、やっぱり見つからないね。」

 控室では東海林の衣装は見つからず、沢城や橋本が女子更衣室やお手洗いを探し、僕と今井は夏祭りでパフォーマンスを行うほかの団体の控室まで尋ねた。けれど、それでも東海林の衣装は見つからなかった。

「パレード開始まで残り三十分です。そろそろ音出しを始めないと・・・。」

 橋本が言いにくそうに言った。

「そうだな。君たちは音出しに参加しなくても構わないからもう少し捜索を続けてくれ。」

 青葉先輩もほかの部員に音出しのできる待機場所へ移動するように指示を出しながら、心残りなように一人制服のままの東海林をちらりと見た。

 控室には、僕と橋本と今井と東海林が残っている。

「一応、落とし物センターにも聞いてみよう。」

 今井がそう言って、落とし物の預かり所へと走っていく。

「みんな。もう、いい。私は大丈夫だから、パレードの準備をして。」

 うつむいたまま、東海林がぽつりと言った。肩からかけたスクールバッグのひもをぎゅっと握っている。

「定子、何を言ってるの?まだ時間はあるから、あきらめずに探すよ。」

 橋本が東海林の肩をつかんで言ったが、東海林は首を横に振った。

「もう、いいの。私、みんなみたいに練習にもきちんと参加できていなかったし、パレードに参加する資格もないんだよ、きっと。」

 東海林は下唇をかみしめるような表情で言った。

 そんなのが彼女の本心なわけがない。僕と橋本はそう信じていたし、信じたかった。

「沿道からみんなの写真を撮ってあげるね。」

「定子・・・。」

 無理に笑顔を作っている東海林を、僕と橋本が見つめる。

 ふん、と鼻で笑うような音が聞こえた。振り向くと、青葉先輩が控室の扉のわきに立ち、腕を組んで東海林を見つめている。

「君がそう言うのなら、それでも構わない。そうするのならば、橋本も大橋も早く準備をしたまえ。今井ももうすぐ戻ってくるだろう。」

「青葉先輩、そんな・・・。」

 橋本が泣きそうな顔で青葉先輩の顔を見上げる。

「このパレードは毎年、たくさんの人が楽しみにしている。トラブルがあったとしても、来てくれた人たちに無様な姿をさらすわけにはいかない。正直言って、もう時間はないんだ。」

 青葉先輩はそう言って、僕たちを待機場所へと向かわせようとした。

「青葉先輩、もう少し、もう少しだけ時間をください。」

 橋本が青葉先輩に向かって言った。

「定子の衣装が無くなってしまったのは、衣装管理責任者である私の責任でもあるから。衣装を見つけ出さないといけないんです。」

「探せるところは探しつくしたのだろう。君にできることはもうない。それよりもパレードの準備の方が大事だ。」

 橋本は涙をこらえた表情で青葉先輩をにらんでいる。

「このパレードを楽しみにしてるのは、私たちだっていっしょなんです。このパレードには、部員全員で参加することがなにより大切だと思います!」

 青葉先輩は肩をすくめるようなしぐさをして、ため息をついた。

「好きにしたまえ。」

 先輩はそれだけ言うと、くるりと橋本に背を向けて去っていった。

「橋本、僕もいっしょに探すよ。」

 橋本に声をかけても、返事はない。橋本はもう何度も探した衣装ケースを開けて中を調べている。

「ふたりとも、もういいよ。早くパレードの準備に行って。お願い。」

 東海林が震える声で言ったけれど、パレード開始前の本当にぎりぎりの時間になるまで、僕と橋本は黙って控室の中を探し続けた。

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