異教徒の踊り 6

 青葉先輩と僕が向かった先は、鈴木先輩と山本先輩の具合が悪くなった現場、練習室Bだった。

 練習室Bは、ダンス部も練習に使うような本格的な完全防音のスタジオで、外側からは誰が使っているかわからない。

「邪魔するぞ。」

ノックもせずに廊下側の二重扉を開こうとした先輩の腕を、僕は慌てて引いた。

「ちょっと、なにやってるんですか。誰が使ってるかわからないんですよ。」

青葉先輩は振り向いて、それの何が問題なのかわからないという顔をした。

「それに、練習室Bは飲食物の持ち込み禁止です。その手に持ってる『すっきりパイン』は外のロッカーに入れてください。」

「そうか。なら入れておいてくれ。私がいたころはこんな豪華な練習室はなかったかんだがな。」

青葉先輩はそう言って僕にペットボトルを渡すと、再びノックもせずに練習室の扉を開けた。

 練習室の中では、わがサックスパートの一年生と二年生が、集まって練習をしていた。ダンス部とかの知らない人じゃなくてよかった。

「あ、青葉先輩。こんにちは。」

おとといの合奏の恐怖がまだ残っているのか、一年生たちはひきつった表情で挨拶をした。

「ああ、楽にしてくれ。君たちをいびりに来たわけじゃない。鈴木と山本がこの部屋で倒れた時、君たちはなにをしていたんだ?」

青葉先輩の唐突な質問に、一年生たちはきょとんとしている。それはそうだ。去年の事件のときに彼女たちはまだ入学していなかったのだから。

「ああ、あの、ごめんね。一年生たちには関係ない話で、二年生に聞いてるんだ。去年、鈴木先輩と山本先輩が練習中に具合が悪くなっちゃったの、覚えてるよね?そのとき、君たちはなにをしていたんだっけ?たしか、一年生向けの基礎合奏に参加してたと思うんだけど。」

僕が補足説明をすると、二年生たちはなんのことかようやくわかったようだ。

「あ、はい。私たちは三人とも去年はまだ初心者でしたし、顧問の坂本先生の基礎合奏に参加してました。たしか、大橋先輩も坂本先生の手伝いでいらっしゃいましたよね。」

アルトサックスの二年生が言った。

「君たちはいつもここで練習しているのか?」

「いいえ、そういうわけではないです。今日は個人練習になったって聞いて、たまたまこの部屋が空いていたから使っているだけです。」

二年生のテナーサックスの子が答えた。

「ふむ。大橋、パート練習の場所はいつも同じ場所なのか?」

突然、話の矛先が僕に向く。

「パーカッションパートだけは音楽室で固定されていますけど、ほかのパートはそのときどきの部屋の空き具合によってばらばらです。特に誰かが振り分けているわけでもありませんから、自分のパートがその日どこで練習しているかを知っているのは、基本的にそのパートの部員だけですよ。」

「そうか。なるほどな。ということは、コンクールメンバーがここで練習していることを知っていたのはサックスパートの部員だけだったということか。」

青葉先輩はそう言うと、ぱっと顔を上げて、「邪魔したな。」と言って入室時と同様唐突に部屋を出ていった。

「邪魔してごめんね。ありがとう。」

僕は慌てて青葉先輩のあとを追って部屋を出た。

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