第78話 カリに始まり、カリに終わる
さすがは童貞歴150年。
1000万リコ以上の料金請求を放棄し、代わりにパンツを要求してくるとは。
ウー●ンもビックリだぜ。童貞のこじらせ方の次元が違う。
「確認するけど、カリーシャ隊長のパンツ?」
ドッティは頬を染め、目を伏せがちにして頷いた。
「今穿いてるパンツ?」
「可能なら」
「腐ってるけど」
「腐ったパンツを穿いているのか?」
「パンツは腐ってないが、着用者が腐ってる」
「よくわからねえが、ドンと来いだ」
ついさっき、オリハルコンの入手クエストが始まったのかと心を躍らせたけど、蓋を開けてみれば、カリーシャ隊長のパンツ入手クエストでした。
「……一応交渉してみるけど、期待すンなよ」
「あ、待ってくれ」
「どうした?」
「俺が欲しがっているのは内緒で頼む。女の子に変態だと思われるのはちょっと」
ヘタレか。
けどま、金額が金額だ。多少の無理は聞かねばなるまい。
「なるだけ上手くやるさ」
工房から出た俺は不自然にならないよう、カリーシャ隊長の近くに飾られている剣を手に取るようにして傍に寄った。
「商談は済んだのか?」
「ん、もう少し」
自然に。自然に。あたかも、今思いついたかのように何気なく。
今日の曜日を尋ねるくらい、軽く切り出すんだ。
「あー、そういやさ、この店、暑くねェ?」
「そうか? 今は炉に火も入っていないようだし、私はそうでもないが」
「いや、暑い。絶対暑いって。俺なんて、背中が汗でぐっしょりだぜ」
「そこまでか。言われてみれば、私も少しだけ汗ばんでいる気はするが」
「だろ? こう暑いとさ、あれだよな」
「あれとは?」
「パンツ脱ぎたくなってくるよな」
「貴様、やはりそういう趣味があったのだな」
引かれた。失敗か。
しかも、俺が日常的に下半身を露出したがっている男だと思われてしまった。
いきなりパンツは焦りすぎたか。まずは上着から攻めていくんだった。
もう手遅れか。なら次の手だ。
「あのさ、カリーシャ隊長に聞いてほしいことがあるンだ。悩み相談っつーか」
「悩み相談? 構わないぞ。部下の悩みを聞くのも上司の務めだ」
「元を辿れば、原因はカリーシャ隊長でもあるンだけど」
「私が原因? 私が何かしたのか?」
「昨日、俺とアーガス騎士長をネタにした妄想を聞かされたろ? ピュアな俺には刺激が強すぎたみたいで、なんて言やいいのかな。俺、あれからちょっと女の人が怖いンだ。カリーシャ隊長に限ったことじゃなく」
「そ、そうなのか?」
嘘ですけどね。ぶっちゃけ、カリーシャ隊長の腐妄想に比べたら、転生支援課のアラサービッチに襲われかけたことの方が、よっぽどトラウマですわ。
「今だってほら、女性と話してるだけで手が震えちまう。こんなンじゃ俺、この先一生女の人を好きになれねェかもしれねェ。いや、カリーシャ隊長を責めてるわけじゃねェんだ。俺のメンタルが弱かったってだけの話さ」
「なんてことだ。私はどうすればいい?」
「女性で負った心の傷を癒せるのは、同じく女性しかいないと思うンだよ。女性の優しさに触れることができれば、きっと乗り越えられるんじゃねェかなって」
「つまり?」
「カリーシャ隊長のパンツを俺にくれ」
「何発でもくれてやる」
「パンチじゃねェよ! パンツだよ! 余計に傷が増えるよ!」
「フザケるなら相手を選べ。そういう話は騎士長にしろ」
いや、それもおかしいだろ。40過ぎのオッサンのパンツなんかいらねェよ。
「私からできるアドバイスがあるとすれば、世の中には女性だけじゃない、ということか。そういえば、騎士長も独身だぞ?」
第三小隊の男性諸君、この隊長にだけは恋の相談をするな。男を勧めてくるぞ。
泣き落としも失敗か。
「もしもの話なンだけど。カリーシャ隊長のパンツをもらう代わりにドッティ――工房にいる店主と俺が濃厚なキスを、この場でやってみせるって言ったら?」
「…………………………………………………………………………」
「カリーシャ隊長?」
「…………………………………………や、いや、やっぱりダメだ。できない」
できれば即答で断ってほしかった。
まあ、俺もドッティとキスするくらいなら装備を諦めるけど。
ドッティには申し訳ないが、このクエストを達成するのは不可能だ。
俺はカリーシャ隊長から離れ、すごすごと工房に戻って行った。
「ドッティ、悪ィ。無理だわ」
「代案がある」
「聞こうか」
「一度でいいから、女の人に…………イカされてみてえ」
それさ、パンツ入手より難易度高くない?
「難しいか?」
「パンツくれって言って断られた相手に、ンなこと言ったら殴殺もんだろうがよ。それなら、そういう専門店に行った方が早――」
……いや、待てよ。……できるかもしれない。
俺はタダで装備を手に入れる。
ドッティは女性にイカされる。
そして、カリーシャ隊長も気分良く店を出られる。
そんな、皆がハッピーになれる方法を思いついた。
「ドッティ、用意してもらいたい物がある」
十分後――
「準備できたぞ」
「ちゃんと結べたのか?」
「お、おう。言われたとおり十本、全部結びつけてある」
結べたってことは、既に臨戦態勢か。
まず、ドッティに直方体の箱を用意してもらった。
そこに、細い紐を通す穴を開けてある。おみくじ番号の書かれた棒が入っている箱が神社に置いてあったりするだろ。あれと形も大きさも同じくらいだ。
ドッティが両手で抱えた箱から、黒い紐が外に十本垂れ下がっている。
「カリーシャ隊長、ちょっと来てくれ」
「そろそろ商談はまとまったのか?」
「大体な」
「その箱はなんだ?」
「これは紐クジだ。20万リコ以上の買い物をした客が一本引いてイイらしい」
「何が当たるんだ?」
「当たると全額無料になる」
「ぜ、全額無料だと!? 店主、それは本当なのか!?」
「ホ、本当デス(ドキドキ)」
「カリーシャ隊長に引いてほしいんだ」
「わ、私が引いてしまってもいいのか?」
「もちろん」
こういうのって、無性にワクワクしてくるよね。
カリーシャ隊長も例に漏れず、緊張しつつも、どこか楽しそうだ。
そうして、十本の中から一本を選び、人差し指と親指でちょこんと摘まんだ。
「これにしよう」
「頼んだぜ。当たれば1000万以上の装備がタダになるんだ」
「い、1000万!? どういうことだ!? 貴様、いったい何を買うつもりなんだ!? そんな予算は無いぞ!?」
「まあまあ、イイからイイから。あ、一度掴んだ紐から手を離したら失格だから」
「……ぐっ、そういうことは早く言え。責任重大じゃないか」
打って変わって歯を食いしばり、ガチガチに体を強張らせたカリーシャ隊長が、摘まんだ紐をくいっと引っ張った。
「おぅっふ!」
ドッティが艶っぽい声を出した。
「店主、どうかされたのか?」
「キ、気ニシナイデクダサイ」
首を傾げたカリーシャ隊長が、気を取り直して紐をさらに引っ張った。
「む、引っ掛かっているのか。これ以上出てこないぞ」
「中で他の紐と絡まってるのかもな。もっと引っ張ってみようぜ」
「こうか?」
くい、くい、とカリーシャ隊長が二度三度と引くが、紐は出てこない。
実はこれ、紐を通す穴が開いている対面にも同様に穴が開いている。
そっちの穴は少し大きめだ。
「あっふ! うふぉ! うひぁ!」
その穴に、ナニを隠そう、ドッティがナニを挿し込んでいる。
そして十本全ての紐が、ナニに結ばれている。
「全然出てこないぞ。ん、ん」
「あひぃいい!」
段々と引っ張る力が強くなっていき、ドッティが苦悶とも、恍惚とも言える表情を天井に向ける。カリーシャ隊長はクジに夢中で気がつかない。
「待て、カリーシャ隊長! そんな乱暴に引っ張ってはダメだ! そう、そうだ。ゆっくり、優しく、だが時に激しくスピーディーに」
「タクト、こいつは……想像以上に凄まじいぞ。……そう長くはもたねえ」
「むぅ、どうなっているんだ。さっさと出て来い。ん、ていっ」
ずりっ。
「ぬっほおおおおお!」
紐がわずかだけ外に出たが、まだ何かに引っ掛かっているようだ。
「ドッティ、今どういう状況だ?」
耳元で囁くと、ガクガクと顎を震わせながらドッティが答える。
「カ、カリに来た……」
マジかよ。そいつはグレートだぜ。
「ああもう、どうして出て来ない。えい、えい」
「ぐひ! ぬひ!」
カリーシャ隊長が躍起になって紐を引くが、それでも頑固に出て来ない。
実を言うと、箱の中に直接手を入れる中身当てクイズも考えたが、それはさすがに罪悪感がハンパないというか、他にもいろいろと問題になりそうな気がしたのでやめておいた。
「カ、カリが! カリがががが!」
「頑張れ、カリ! もう少しだカリ!」
「なんだいきなり。私をカリィと愛称で呼ぶのは両親だけだぞ」
ついにカリーシャ隊長は、ただ引っ張るだけではなくて、紐を上下左右に動かすテクニックを披露し始めた。
「もげ、おごごごご、ぬほあああああ!!」
「頑張れ、頑張れカリィィィィィ!!」
「言われなくてもやっている。こうなったら」
なんと、カリーシャ隊長が、摘まむようにしていた紐をくるりと指に巻きつけ、しかも両手で掴んだではないか。まさか、一気にいくつもりなのか。
待て、それは下手をすれば、ドッティのカリが――!!
「てえええええい!!」
「ぬっふうううううううぅぅ……――うっ」
短い呻き声を上げたドッティが、ビクンッと体を仰け反らせた。
カリは無事か。どうやら、ベストなタイミングで紐が抜けたようだ。
そう、カリーシャ隊長が抜いた。
「ふぅ。ようやく抜けたか。ん? 紐の先が輪っかになっているな。よく見ると、何やら白いものがどろりと」
「それに触るな!」
俺は咄嗟にカリーシャ隊長の手をはたいて紐を床に落とした。
「なんなんだ、ワケがわからないぞ。結局当たりなのか? ハズレなのか?」
「オ、大当タリ……デス」
箱を抱えたドッティが天井を仰いだまま、全身を痙攣させながら言った。
「あ、当たったのか!? つまり、タダだいうことなのか!?」
「そうだとも。カリーシャ隊長のおかげで、1000万リコ以上もする装備がタダで手に入るんだ。ありがとう、そしてごめんなさい」
「す、凄い! 私、凄くないか!?」
仕組まれたクジだったけど、こんなにも喜んでもらえて俺も嬉しいよ。
装備の完成は三日後の予定だ。
ドッティに礼を言い続けていたカリーシャ隊長を連れて、俺は店を出た。
ドッティも、早く快感の余韻に浸りたいだろうしな。
「浮いたお金はカリーシャ隊長がもらっちゃえよ」
「馬鹿を言うな。ちゃんと騎士団に返す。ふふ、でもよかったな」
「うん、ごめんなさい」
「さっきから何を謝っているんだ?」
「……俺、アーガス騎士長に特訓してもらおうと思う」
「いい心掛けじゃないか」
「でも俺だけ脱衣状態は恥ずかしいからアーガス騎士長にも脱いでもらおうかな。よければ、またカリーシャ隊長も見てやってくれ」
「お、おいおい。急になんのご褒美だ?」
ご褒美言うなや。
「それとさ、カリーシャ隊長からは見えてなかったと思うけど、さっきドッティにアソコの長さを測ってもらったんだ」
「ア、アソコって、男同士でか!? 測り合ったのか!?」
測り合ってはいねェよ。
「あと、アーガス騎士長には言ったけど、俺さ、数日前にこっちの世界に転生して来てるはずの
「女だったらいいのにと言っていた友人のことか!?」
「そうです」
「みみ、見つけたら、どうするんだ!?」
「そりゃ、
「恋人キタアアアアアアアア!!」
ドン引きするくらいの大興奮だな。
「もっと、もっと聞かせてほしい! その友人との馴れ
馴れ初めてねェよ。
腐女子に借りなんて作るもんじゃねェな。
俺は償いとして、しばらくカリーシャ隊長の好みそうな燃料を投下し続けた。
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