29話 暴走生乳宣言

「お疲れ様でーす」「お疲れ様でーす、あっさっき川口さんが探してましたよ。ラブラブですね、ぐふふ」



「ほっとけ」




 恐らく川口の後輩である二人に挨拶をされ、思わずぶっきらぼうな態度をとってしまった。『ぐふふ』って絶対腐ってやがるよ。


 エレベーターを下って1階の片隅に区切られた喫煙スペースへと向かう。


 愛煙家とまではいかないものの、クリスタと住むようになって控えたぶん、会社で吸っている。臭いって言われたら傷ついてしまう微妙なお年頃なのだ。


 タバコに火をつけて深く息を吐くとストレスも一緒に吐き出したような気がする。気がするってだけで無くなってはいないのだろうが気休めでも必要なことだと俺は思う。


 ちょっと落ち着いたところで、スマートフォンを取り出してさっき着信したチャットの内容を見返す。




『池崎さん、本当にすいません。今日家に友達を連れて行くことになってしまいました。細かい事情は話せそうにないので、上手く話を合わせて下さい!しんせきの』




 ああ、なんか嫌な予感がする。


 ここまでで文章は終わっている。一応『了解』と返信してみたものの既読がついていない。


 ま、なんとかなるだろうと楽観的に捉えていたが、後悔するのはそう遠い話しではなかったのであった。




 ☆




 時刻は18時30分。わざわざチャットを送ってくるくらいだから、まだお友達はいるのだろうが気掛かりなのは未だ返信がないことだった。


 玄関の前に着いて鍵を開けようとすると、内側からキャイキャイと女の子の声が二つ漏れ出ている。




「た、ただいまー...」




 ドアを開けると、見覚えのないローファーが一足。

 しかし、クリスタの友達か...これはもしかしてとんでもない美少女なのではなかろうか。友達とは比較的似た種類の人間同士がなったりすることが多いし、ギャルの友達はギャルみたいな。


 閑話休題それはともかく


『しんせきの』なんて書いてあったくらいだったから、親戚のお兄さんとかそんなんだろうと小さく深呼吸をしたときだった。


 –––––––ドッドドドドドドドド

 ガチャン、とドアを開くのと同時に血走った目つきのめちゃくちゃ怖いJKが飛び出してきた!




「お、お、おおおお前ぇええええええ!!!ゆきりんの柔肌蹂躙したんかぁあああ?!触るだけじゃ飽き足らず己のそそり立った肉棒を未だ誰も迎え入れたことのない幼い蕾に–––––」



「!?ちょ、何言ってんだ!てかなんで官能小説風味!?」




 おおよそ女子校生とは思えないレベルの力でガクガクと頭を揺さぶられ泡吹きそうである。

 なんだこいつ、マジヤバイ。




「ちょっと!綾音ちゃんストップストーーップ!誤解!誤解だからぁあああ!」




 顔を真っ赤にしたクリスタが間に入ってしばらくした後にようやく綾音ちゃんと呼ばれたその子は落ち着いてくれたようだった。




「うぷっ、ぎ、ぎもちわるい」




「とぅいまてんでしたー。反省してまーす。後悔はしてませーん。」




 不快を訴える俺を半目で睨みながらそんなことをいう瀬戸セト 綾音アヤネ

 こんのクソガキっ!全然可愛いくないっ!




「もう綾音ちゃん!だから誤解だよ!ちゃんと謝って。池崎さんは本当にそんな人じゃない!」




 クリスタは改めて誤解を解こうと説明をしている。要約すると、最初親戚のお兄さんと紹介したらしいのだが、なぜ同居まですることになったのか細かい部分までつっこまれてあえなく降参。白状したらしい。


 事実として一緒に暮らしていることや俺がどんな人なのかを瀬戸さんに説明しているうちに爆発バーストしたらしい。この関係も決して恋人のような関係ではなく、クリスタ自身の家庭の事情が多分に含まれることや、普段の生活ぶりを話しているのだが、




「えー、だってゆきりん絶対コイツのこと好きじゃん。なんなの?愛の巣なの?ぶち壊すよ?」



 爆弾を投下する瀬戸さん。マジ止まんねぇ。

 それにしても、こいつ今なんと...?




「はわわわわわわっ!何言ってんの!?何言ってんの!?私がこんな歌がへたっぴで誰にでも優しくて、Mっ気があって、お人好しな人をす、す、す、好きになるわけが...なるわけがないでしょぉおおおお!!?」




 あ、やっぱり歌下手だと思われてんだ俺。微妙にショック。

 そしてこんな真っ赤な顔でワタワタと慌てるクリスタも珍しい。眼福、眼福。




「兎に角、私は認めません!」




 そして、瀬戸さんは俺を指指して宣言する。




「私なんて、私なんて......ゆきりんの生乳揉んだことあるんだからねぇ!!!」




「いいいいやぁあああああああああっ!!」




 これまで聞いたことのないクリスタの悲鳴が部屋中に響き渡るのだった。

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