23話 学園へと至る道

「学校に行きます」




 クリスタがそう言ったのは夕飯の豆腐ハンバーグを食べながら、旬のお笑い芸人のギャグを見て「またこいつか」とボヤいていたときだった。




「うん、いいんじゃないか?」




 というか、学生にも関わらずこれまで家にずっといたのが異常だったのだ。そう考えたら、こんな言葉しか出てこなかった。




「そういえば、クリスタはどこに通ってるんだ?こっから通えるか?」




青葉学園アオバガクエンです。ここから近いので徒歩で行けますし、問題ないです」





 青葉学園アオバガクエン

 県内屈指の進学率を誇る進学校であり、生徒数も多く、運動部系の部活はいずれも優秀な成績を残している。

 真の文武両道を掲げ、特待生だろうがなんだろうが赤点を二つ取った時点で留年が決定するという一見理不尽に思われるが、その厳しさ故のブランドが進学を有利にしている側面がある。そして友也自身もそこの卒業生だったりする。




「そうか、勉強大丈夫か?」




 我ながらお父さんみたいだな、と苦笑する。




「それも大丈夫です。それと前から思ってましたけど、池崎さんはちょっと過保護だと思いますっ!子供じゃないんですから」




 そう言って頬を膨らませていると子供っぽいと言わざるを得ないのだが、可愛いので何も言わないでおこう。




 ☆




 久しぶりに袖を通した紺を基調とした制服を見せつけるように池崎さんの前でクルリと一回転して見せると、顔を少し赤くしながら「うん、いい。似合ってる、凄くいい」と照れながらも褒めてくれた。テンションあがる。




「行ってきます!」




 そう言って住まわせてもらっている家を出る。マンションから出て数歩進んで振り返ると「良いマンションだなあ」なんて他人事のような感想が口から漏れ出る。


 ここ数日ほとんど家にいたからこそ実感が湧かなかったものの、自分は本当に恵まれているのだと実感する。


 学園への道をテクテク歩きながらスマートフォンのチャットを開くと、友人の瀬戸セト 綾音アヤネのアイコンが点滅していた。





『せっかくだから待ち合わせしよ!復学祝いにおっぱい揉ませてね☆』




 綾音ちゃんは相変わらずだ。セクハラ発言を多用する彼女のせいで、正しいのか分からない性知識を色々植え付けられている気がしないでもないけれど、気兼ねなく話せる数少ない友人だ。




『わかった。あの喫茶店でいい?おっぱいはダメ』





 チャットを返信すると、『おうよ!』と男らしい返信が返ってくる。少し懐かしいやり取りにクスリと笑みが漏れる。


 池崎さんの家に住むことになってから、詳しいことは伏せたままだったけれど、何かと連絡はとっていた。久々に会うと思うと少し気恥ずかしいけれど、彼女の気遣いは素直に嬉しかった。


 歩きながら風景を見やると入学したときと変わらない景色。比較的新しめの一軒家が立ち並び小さな公園ではお年寄りがベンチに腰掛けて鳩に餌をあげている。


 そんな光景に自然と頬が緩む。視界の端に喫茶店を捉えると自分の来た道の反対側からブンブンと手を振った綾音ちゃんが、少し青みがかったショートカットの髪を揺らしながら小走り...いや全力で向かってきた!




「ゆきりん、ゆきりん、ゆきりん、ゆきりーーーん!!会いたかったよぅ!嗅ぎたかったよぅ!触りたかったよぅうう!!スーハースーハー!!あぁいい!これこれこれこれぇええええええ!グヘヘへへ」




「ちょっ、綾音ちゃん落ち着いて!人目!人目があるからぁ!やぁんっ」




 飛びついてくるかと思いきやスルリと背後に回り込み抱き締めるようにしながらも右手は胸に左手はお尻に、後頭部に鼻を埋めて大きな深呼吸をしながらハァハァしている。


 一体どこでこんな身のこなしを覚えたのだろうか、一瞬で視界から消えるような素早い動き。この才能の無駄遣い!


 瀬戸セト綾音アヤネ私の友人である...

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