22話 クリスタ、めっちゃ喋るじゃん
やってしまった...
やってしまった!やってしまった!やってしまったぁああああああああ!!!
ぁぅぁぅぁぅぅわぁあああああああ!!
な、何がようやくスタートライン?!ゴールまでぶっちぎっちゃったんじゃないのぉおおお?!?!
どこぞのヒロインよろしく友也の頬にキスをした宮本は自分のしたことに今更身悶える。もしここが外であったなら、いい見世物になっていたことだろうが生憎既に自室のベッドの上だった。
ごろごろごろと転がってはごろごろごろと元の場所に戻る。そうしてかれこれ1時間。
結局あのキスの後、呆ける友也を置いて逃げるように帰ってきた。それでも一緒に帰って来られるほど鋼メンタルでもなかった。
あのとき自分のとった行動を思い出し、また赤面する。
でもあのときはそうせずにはいられなかった。今、デートしてるのはわたしなのに。目の前に居るのはわたしなのに。何かにつけてはクリスタクリスタクリスタクリスタ。
そしたら謝る先輩が可愛くて。わたしのことを意識してほしくて。
しまいには『ああ、楽しかったよ。宮本は凄いな。俺の知らなかったものを沢山知っているんだな』そう言ってくれたときの少年のような無垢な笑顔に惹かれるようにキスをしてしまった。
「こんな予定じゃなかったのにぃ...もっとゆっくり仲良くなってぇ...それなのにぃ...あぁん、もうわたしのバカバカバカバカァッ!」
––––––ガチャリ
「あんた、いつまで何やってんの?」
「ひゃああああああ!?!?」
無言で部屋に入ってきたのは姉、
しかし、帰ってきてからというもの部屋に篭ってこの調子なわけだが、何年も一緒に暮らしてこんな茉由花を見るのは初めてだった。
「もう!いつも部屋に入るときはノックしてって言ってるのにぃ!」
「はいはいごめんなさいね。でもあんたねぇ、そんな部屋でドタバタしてたら五月蝿くて敵わないわよ。」
ふぅ、と礼羽はため息をつくとポンポンと茉由花の頭を撫でる。
「なんかあったんなら聞くから。ね?」
「うぅっ...ありがとぉ、お姉ちゃん...」
会社では『鬼』なんて呼ばれているが、茉由花にとっては頼れるお姉ちゃんなのだ。
☆
......様子がおかしい。
『夕方までに帰る』その言葉を守ってくれたのは、正直嬉しかった。
その、大人同士のデートだし、気持ちが高まればそういうことも無きにしも非ずというか、可能性はあったわけで。
そんなことを考えて、いつ帰ってくるのかとそわそわして落ち着かず、炊事、洗濯、掃除をして心の平穏を保っていたクリスタである。意外とむっつりクリスタちゃんである。
池崎さんは帰ってきてからというもの、鏡で髪型をチェックしたり、筋トレをしてみたり、いつもの普段着はちょっとオシャレなものに変わっていたり。
今は夕飯を終えて、テーブルで水を飲みながら滅多に吸わないタバコを吸っている。
「それで、デートは楽しかったですか?」
「ぶほぉおおっ、な、な、なんでクリスタがそれを?」
そう声をかけると飲んでいた水を吹き出す池崎さん。ちょっとそれ、自分で拭いてくださいね?
それにしてもバレていないと思っていたのか...
こっちのモヤモヤも知らないで、というのは我儘なんだろうと。それよりも大事なのは、
「なんでって、見てればわかります。そ・れ・で何があったんですか?」
「い、いや〜、それはなんていうか...」
なんて煮え切らないっ。この態度が何かありました、と白状しているようなものなのに。
凄まじい勢いで泳ぎまくる目の動きを止めるために、池崎さんの顔を両手で包むように捕まえる。あっおひげ。
「き、キスされました。頬に」
その瞬間、部屋の音が一瞬で何もかも消えるような錯覚とガツンと殴られたような衝撃に目の前がチカチカする。
「あ、ははっ、なるほどですねぇ〜。なるほどなるほど〜。遅れてきた青春?的なアレですよねぇ〜。しかし、アレですよ池崎さん。外国だと挨拶みたいなものだと言いますし、今はキスフレなるものも流行っているらしいじゃないですか。それと比べると比較的軽傷と言いますか、まだセーフと言いますか。自ら進んでアウトになる必要もないわけですよね」
「クリスタ、めっちゃ喋るじゃん」
うるさぁああああい!!
めちゃめちゃ動揺してしまう私。途中から何について話しているのか自分でもわかってないのだ。
「と、とりあえずわかりました。それより夕ご飯にしましょう...」
「いやいや、さっき食べたよ!また食うの?!」
「あっはい、そうでしたね。私、今日は少し体調が良くないので先に休みますね。おやすみなさい」
「お、おぅ。お大事に。おやすみクリスタ」
覚束ない足取りで部屋に入ってドアを閉めるとベッドにダイブ。
「食器洗うのサボっちゃった...」
色んなモヤモヤした気持ちを抱えたまま、時間が過ぎていく。その日は結局あまり寝た気がしなかった。
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