20話 「 」とデート
自分と彼の食器を洗いながら、先程ニヤニヤしていた彼のことを思い出す。
およそ検討はつくのだが、モヤモヤというかムカムカというか言葉では表しきれない何かが胸の奥でざわついている。
それの正体がわからないほど子供でもないわけだが、一方でそれに名前をつけるのは憚られた。
助けられたから?優しいから?かわいいから?割と好みの顔だから?この髪を見ても何も言わないから?
そんなことをいくら並べてもなんだか腑に落ちないのだ。それでも、あの宮本という人と話していたり、服屋で女の子に囲まれている姿を見ると...
–––––なんか嫌だった。
そして、明日、夕方にまでは帰ってくると言った彼の言葉に不安を感じているのだ。
スマートフォンを見たときからニヤニヤしていた。そして用があると言った...
「ああ!!もうっ!!!」
その声は誰にも届かないリビングに虚しく響くだけだった。
☆
街にある謎のアーティスティックなトーテムポール。お国柄とか宗教とか文化とかぶっちぎって目立ちまくっている。
11時35分。謂わゆるデートスポットと言われる場所で俺は宮本を待っていた。
......会社で顔を合わせる相手とデートってどうなんだ?その、アレ的な展開になったら次に会うときどんな顔で会えば?社内恋愛ってどうなんだ?
などと、しなくてもいい心配を繰り広げる26歳童貞。
そんなことを考えながら、そわそわすること10分後。
「あーっ!!池崎先輩はやいですよぅ。もしかして、結構楽しみにしてくれてましたぁ?」
そう言って小走りで寄ってきた
スキニーのデニムに白のブラウスという組み合わせが大人っぽさと彼女のもつ可愛らしさが合わさって独自の魅力を醸し出していた。
「え?いや、まあそれなりだな、うん。とりあえず行こうか」
「ですね!」
そう言うと、なんの断りもなく腕を組まれる。
(おっぱ...!おっぱがおっぱおっぱして、おぱぱぱぱぱぱぱぱ!!!)
童貞を殺す密着率である。刺激が強い。友也のいうところのおっぱが友也の童貞力を最大まで引き上げる!
「それでぇ、お姉ちゃんとこの前海に行ったんですけどぉ、ナンパしてきた男達に『あんた達みたいな量産型は個性を身に付けてから出直してきなさい』って–––––聞いてますぅ?」
はい、聞いてます。でも腕の柔らかい感触から逃げようとすると、さっきよりも強い力で引き込まれるのだ。
つまり、余裕がない。
「ああ、それにしてもあれだな。今日は熱いな」
「っ!絶対聞いてなかったじゃないですかぁー!」
不満顔で頬を膨らませる23歳。割とイケる。
雑談を続けながら街を並んで歩く。会社でのこと、昨日の面白いかったテレビや最近流行っているドラマや音楽。
宮本は豊富な話題を的確なタイミングで提供してくれる。
気を遣ってくれているのだろうか、これは俺も負けてはいられないと自分の中の引き出しを上から順番に開けて俯瞰して眺めているうちに、目的の洋食屋に着いたようだった。
–––––カラン、コロン
ベルと音と共に店内に入る。モダンな雰囲気と料理のいい匂いとコーヒーの香りが鼻腔をくすぐる。
メニューを見て、オムライスと食後にコーヒーを注文し、宮本も同じものを注文した。
数分後に到着したオムライスはテレビで見ただけで実食は初めてのものだった。
「こ、これがナイフで卵を割るオムライスか...」
結果からいえばとても美味だった。
堅焼き卵で包む派の友也だったが、これはこれでいいものだな、と認識を改めるくらいの美味しさだった。
「ここはコーヒーも美味しいんですよぉ。店長がコーヒー好きらしくて、オリジナルブレンドがとても人気らしいですぅ」
「お、いいね。俺コーヒー好きなんだよ」
友也を見かけるとコーヒーを飲んでることが多いので、それを見越したチョイスだった。
楽しんでもらう為の話題や相手の好物をリサーチすることに余念がない
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