19話 デートプラン

 日曜日の買い物から既に5日経ち、今日は金曜日。いつもなら、路上ライブに出掛けている時間帯だが、雨が降っているせいで友也はお気に入りのL字ソファに腰掛けてコーヒーを飲んでいた。




「池崎さん、もう少しでご飯出来ますからお皿出してもらっていいですか?」




「おう」と一言返事をして、クリスタの前に皿を並べる。温まった鍋の蓋を開けると鍋からいい匂いが部屋に充満していく。今日は豚の角煮らしい。




「ああ...んんんまいっ」




 一口噛み締めると豚肉の旨味と肉汁が口いっぱいに広がる。女の子の手料理というのは一つ夢ではあったけれど、それが予想を上回った美味しさだと喜びもひとしおだ。




「ふふふっ喜んでもらえて何よりです」




 友也の言葉にクリスタも嬉しそうに笑う。まるで夫婦のようだと、第三者が見ればそうとしか見れないのだが、当人達は別段そこまでの意識はしていない様子。


 豚の角煮の最後の一切れを口に運んだそのとき、友也の右ポケットのスマートフォンから軽快な着信音が鳴る。電話ではなく、チャットだ。


 咀嚼しながら宛先を確認すると宮本ミヤモト 茉由花マユカの名前。

 実はこのところ、おはようからおやすみまでチャットが届いている。律儀な友也はそれに全部返信しているので、途絶えることなく続いているのだった。


 閑話休題それはともかく、チャットを開いて内容を確認する。




『お疲れ様です!この前約束したオムライスが美味しいお店行きませんか?2名限定のクーポンも期限ぎりぎりなので、ご一緒してくれたら嬉しいです。もちろん、デートですからね!』




 や、約束?約束した...か?いや、したな。デートだ、とかなんとか言っていたが本気だったのか。おちょくられているとばっかり...


 相変わらず絵文字や顔文字を器用に使った文面を見ながら、『わかった。12時くらいでいいか?』と返信すると、『了解です!明日楽しみにしてますね!』と間髪入れずに返信がきた。


『デート』リア充の典型的なイベントであり、これまでの人生で味わったことのないものだ。

 手を繋いで街を歩いたり、一つの飲み物をハート型のストローで飲んだり、肩を寄せ合い互いのことを語り合ったりする。あの!デート!!


 とは言っても友也もバカではないので、付き合ってもいない男女がするデートなんてたかがしれているだろうことはわかっている。わかっているのだが......




「あの、ニヤニヤしてますけど、どうかしたんですか?すっごくいやらしい顔してますけど......」




 クリスタに突っ込みを入れられて顔を引き締めるが、口元のニヤつきは抑えられないようだった。




「なんでもない。えーっとだな、明日は少し用事がある。多分夕方までには帰ってくるとは思うが、いいか?」




「へー...いいんじゃないですか?」




 クリスタは笑顔で肯定してくれてるようだが、なんだか作り物の笑顔みたいでなんか怖い。

 怖い、なんて思うのは俺が自意識過剰なのだろう。一回り近く歳も離れているわけだし、気のせい、気のせい。またキモいって言われかねん。




「それじゃあ、俺はもう寝るから。クリスタも夜更かしするなよ」




 食べ終えた食器を片付けながらそう言うと、短く「おやすみなさい」とだけ言ってクリスタは食器を洗い始める。


 食器を洗うのは次の日でいいと言ったこともあるのだが、そういうのは落ち着かないらしい。


 綺麗好きなのだろう。部屋も細かく掃除しているみたいだし。しかし、ありがたいことだ。二週間に一度のペースでしか掃除しないものだから大助かりである。

 お礼に明日はお土産に何か買ってこようと心に決めるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る