11話 帰れないっ!

......帰ってこない。


俺が起きたのは昼頃で今は15時。夕方というには早いかもしれないが、あと2時間もすれば日が暮れ始める。


『いいよ、ここにいて』なんて俺としたら人生最大級に格好つけたわけだが、どういうわけかクリスタは帰ってこない。少し出掛けただけかと思っていたのだが。


格好つけたし、格好がついたかと思っていたがそう思っていたのは俺だけでその実かなりキモかったとか...?

そういえばクリスタに出会ってからというものキモいと何度か言われているような...


いやしかし、クリスタが眠りに落ちる前に見せたあの笑顔はとてもそんなことを考えてるようには...いやいやだけども–––––


ぐるぐるとリビングを歩き回る26歳童貞リーマン。

自分のキモさ故にクリスタが帰ってこないのではと悩んでいるのであった。







結論から言うとクリスタは帰ってきていた。といってもマンションの下、オートロックという壁に阻まれて、途方に暮れていた。


すっかり失念していた。出てきたときに部屋番号を確認するのを忘れるなんて...!

反射的にスマートフォンを取り出すが彼の連絡先を知らない。




「むー......どうしたらいいか考えつかないっ」




大きめのリュックサックに学生カバンと右手にはエコバッグと重装備。泊まっていたネットカフェに寄って、必要なものを買い足してこのマンションに来るまでもう一汗かいてしまったところである。


ネットカフェに戻るのも疲れるし、何よりここにいていいと言ってくれた彼の気持ちを裏切ってしまうような気もしてここから動けないのであった。


そんなこんなで既に1時間。もう少しで15時30分を回ろうかというそのときだった。


ウィーーーンと機械的な音と共に一人の女性がマンションに入ってきた。


顔立ちはまだ幼さが残るが薄い化粧と何より、高そうなスーツをぴしっと着こなしていて、同性からでも綺麗と思わせる、お姉さんと呼ぶのがピッタリな人だった。




「あ、すいません」




私はそう言って、道をどけると「ごめんなさいね」と愛想良く笑顔を浮かべて部屋番号を打ち込む機械に鍵を差し込んでオートロックを解除した。




「えーっとぉ、貴女はこのマンションの子なのかなぁ?初めて見るけど...」




彼女はオートロックのドアが閉まらないようにドアの前に立ってクリスタに尋ねた。




「え、えっと...そうとも言えるような、厳密には違うような...なぁんてっ」




「なにそれぇ!めっちゃ怪しいじゃん!」




クリスタの可愛さは男には通じるが目の前にいる女性には通じないようだった。



(やっぱダメですよねぇ〜そうだとは思ってました!)



彼女は訝しげな視線を向けたままドア向こうへと進む。


–––スタスタスタスタ


–––トテトテトテトテ


–––スタスタ...スタ...スタ


–––トテトテ...トテ...トテ




「......ちょっとぉ!なんで着いてくるのぉ?!ちゃっかり入ってきてるしぃ!」



「あ、あの!お願いがありまして!これには事情が、事情がありまして!実は–––––」




そうして、クリスタは聞かれてもいない事情を話し、ひとまずマンション内に入るのだった。

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