6話 雨の中で
––––––––走る。走る。走る。
目的の駅に着いてすぐ走り出した。服に雨が入って気持ち悪い。靴はもぐしょぐしょで、この靴はもうダメかもしれないな、なんてことをぼーっと考えていた。
けれどそんなことは些細なことで、どうでも良かった。安心したかった。
あの日、『家に帰りたくない』と言った少女は、ちょっと不良で暇を持て余してなんとなく俺の前に現れただけの普通の女の子だ。
きっと、きっとそうだ。そうであってほしいんだ。
「–––––––はぁ、はぁ、うぷっ、うぇっ」
そして着いた八百屋のシャッター前。いつもはそこに俺が立っていて、その前にはいつも君がいた。
君はしゃがんで、ニヤニヤしながら、たまに目を閉じて口ずさんだりもしていたその場所––––––––。
「......何してんのお前?」
なんとか振り絞った言葉の先に、彼女はいた。
潰れた八百屋のシャッター前、いつもは俺が立っている場所、小さな雨除けの下。
体育座りで、時折震える小さな体。濡れた銀色、プラチナブロンドの髪は彼女の顔を覆い隠してその表情は見えない。
「...雨宿りです」
「寒くないのか?」
「寒いに決まってます」
「...待っていたのか?」
「勘違いしないでくださいっ。ここが雨宿りに最適だっただけです」
「そんなにびしょ濡れになってまでここで雨宿りとか修験者か何かかよ...」
「......」
差し出した傘の下、彼女は俯いたまま俺とそんなやり取りを繰り返す。
そして黙り込む彼女。こんなとき、女性経験豊富なら...と自分の経験不足を恨む。思えば勉強に明け暮れ、男女 交際とは無縁というか、実はまともに女性とも話したこともなかったし、会社の飲み会でも挨拶を交わす程度。
「...家、くるか?」
ド直球である。
女性経験の一切ない
「......変態です」
「いや、違うから!嫌ならいいんだ。ただ、ずっとそのまんまだったら...心配すんだろ」
「しませんよ、誰も。」
さっきよりも沈んだ声。
「...するよ、俺が」
顔が熱くなる。慣れない言葉を言ったせいだ。
「えっ......?」
再びの沈黙。それと一緒にようやく彼女は、
「ロリコンですねぇ〜...」
クリスタはそう言って、不器用に笑った。
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