4話 銀色の妖精とラーメン

「なあ、やっぱりこれ年下の女の子に奢ってもらったみたいな感じじゃないか?」




「みたいな感じじゃなくてそうなってますよねぇ〜」




ぐぬぬ...

言い返したいし、なんなら金を返そうと何度か提案したわけだが一向に受け取らない銀色の妖精は友也がぐぬぬ...とする度にニコニコととても良い笑顔を浮かべている。ぐぬぬ...




「それにしてもこのラーメンほんと美味しいです。こんな近くに美味しいお店があったなんて驚きですっ」




銀色の妖精は耳に髪をかけて麺にフーフーと息を吹きかけると一気にずずずっと麺をすする。

ただ今、念願であった大盛り豚骨みそチャーシュー麺をシェアしているところである。


こういうのはお店のマナー的にまずいかと思っていたが食べる前に店長に尋ねたところ、ちらっと友也の反対の席に座る女の子の様子を見て、ハッとしたかと思えば、どうぞどうぞとのことだ。

美人は得とはこのことなんだろうか。


銀色の妖精は小さなお椀にミニラーメンを作って至福の表情を浮かべている。




「で、どういうつもりなんだ?」




食べ尽くしてきたところでふいに疑問に思ったことをそのまま伝える。




「いえ、別にないですよ。しいて言うなら貴方が目標にしてるラーメンがどんな味がするのか知りたかったからですね」




一瞬、頭によぎったのはパパ活だった。最近そういう頭の良い女の子も増えているというし、巷ではモテないおっさん達が若い女の子にお金を払ってご飯を食べにいくらしい。理解できんが...


あれ、これって俺がおっさんに見られてる?

と勘繰っていたが、どうやら違うらしいのでホッとする。


食べ終わって行儀よくご馳走さまでした、と両手を合わせて二人で店を出ると空がさっきよりも暗く感じた。

行き交う車の数が少なくなったせいだろうか。


腕時計で時間を確認すると21時15分。

横をチラ見すると銀色の妖精はふわあっと小さなあくびをすると伸びをした。




「まあ、なんだ。流れっていうか、同じラーメンを食った仲というか...」




「なっ、なんですか急に?キモいですねぇ〜」




お、おぅふ...思ったよりダメージあるな。




「なんか勘違いしているようだが...まあ、君は未成年だろ?時間も時間だし、送るよ」




「あー...何か思い違いをされてるみたいですねぇ〜、私こう見えても20ハタチですよ」




「えっぇえええ?!マジかよ...全然見えないな」




プラチナブロンドの髪をもつ妖精は童顔で大目に見ても15歳くらいだろうか。




「嘘、17歳です」




「嘘かよっ!!」




こ、こいつ...!!

というかやはり未成年。17歳にも見えないが。

知らなかったとはいえ未成年とこんな時間まで飯だけとはいえ連れ回したとなると...

マズい。社会的に!




「あのなあ、お前くらいの歳のやつがこんなとこフラフラしてたら余裕で補導されるからな?タクシー代やるからさっさと帰れ」




言葉が乱暴になった気もするが、仕方ないだろう。

少し厳しかったかと横を見ると、俯いていて表情が見えないが雰囲気がどことなく辛そうな...




「私、家に帰りたくないです...」



「えっっっ?!?!」



「まあ、嘘ですけどねぇ〜」



「また嘘かよっ!!」




どうやら嘘だったらしい。ぷぷぷっとこちらを見て笑っている。




「それでは、私は貴方の言葉通り帰ろうと思います。ところで、また聴きに来てもいいですか?」



聴きに、というのは俺の歌のことだろう。

ニコニコ顔だ。一体何がそんなに楽しいのか...




「ま、まあ、来てもらって困ることもないしな。嬉しくないこともないが、帰る時間はしっかりしろよ?」




そういうとパァッと銀色の妖精の笑顔が咲いた。

んぐおぉぉっ...破壊力すげえ...

アイドルに貢ぐヲタの気持ちが分かる。決して顔には出さないようにするが。



「ではではこのへんで。あと私は『銀色の妖精』でも『お前』でもなく、久禮クレイ=クリスタ=有希ユキです。」



「あ、あぁ、俺は池崎 友也だ!」




遠ざかっていく背中に呼びかけるように名乗ると手を振りながら去っていった。タクシー乗らんのかい...

小走りだったからか既に姿は見えない。




「ていうか俺、銀色の妖精なんて言ったか?!言ったのかぁああああ?!」




はずっ!この歳にしていつのまにか思っていたことがどこからか溢れていたのか...




「はあ...帰ろう」



もう1年以上続いた路上ライブ。毎週金曜日の息抜きに現れた銀色の妖精...久禮=クリスタ=有希との出会い。

そして、変わらなかった日常が割と良い音を立てて変わっていくほんの始まりに過ぎなかった。

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