3話 銀色
友也が演奏をしないことでその場がシン、と静まり返る。
友也が歌い出さないことを確認するとお客さんはゆっくりその場から離れていった。そんな中一人だけ残った銀色。
「はっ...あのごめんなさい。お邪魔してしまいましたね。とても愉快だったのでつい」
...ゆ、愉快?笑える要素は一つもないと思うんだが。
それはともかく、いや全然ともかくで流せるほど小さな事柄ではないものの、正面にしゃがんでこちらを見て微笑んでいる少女に比べたら小さな事柄に思えた。
紺に白のラインが入ったワンピース。見方によってはどこかのお嬢様学校の制服に見えなくもないが、こんな制服の子は見たことがないから多分私服なのだろう。
それよりも目に入ったのは、月に照らされた長い銀髪。言い方を変えればプラチナブロンド。髪と同じ色をしたパッチリとした瞳。その瞳の下にあるちいさな泣きぼくろ。
『実は妖精なんですよー』と言われても納得するレベル。
つまり、これまでに見たことのない美少女がいた。
「えーと、君は...俺のファン?」
「それはないですねぇ〜」
やや被せ気味に銀色の妖精は答えた。
即答は流石にひどくないか?とがくっと項垂れた。
「貴方はいつもここでコントをしているのですか?」
「コント?!真面目に歌っているんだが?!」
何言ってんだこの人ばりに不思議そうな表情をしている。なんとも無遠慮だ。
だが、友也もバカではない。なんとなーくそれとなーくそんな雰囲気は感じてはいた。信じたくないばかりにハイテンションでごまかしているが。
「...で、でもそうか。そんなに俺の歌はひどかったか...」
落ち込みつつもケースの中身を確認すると、1円玉が15枚 10円玉が8枚 5円玉が1枚でちょうど100円。
「100円ですね〜、自販機でジュースも買えないですねっ!」
「いやっ何見てるんだ!?」
何故かニコニコと上機嫌そうに見える銀色の妖精。
ていうか近い。覗き込んでるせいでなんかいい匂いにクラクラするし、顎から鎖骨までのラインも見えて非常にけしからん。
「貴方はお金がほしいですか?困ってる?」
友也の言葉も意に介さず、あくまでも自分のペースだ。
「違うっ!金なんかじゃない。ここにいれてもらった金は俺の歌の価値を図るためのものであって稼ぐとかじゃないんだ。それに一種の目標にもなりやすいし...」
「...目標?」
こてん、と首を傾げてこちらを見上げる銀色の妖精。
なんだこいつ狙ってやってんのか?ロリコンになっちゃうぞ?ん?
「そ、そうだ。あそこに見えるか?」
友也が指をさした先にあるのはラーメン屋の暖簾。看板には『とんとん』と書いてある。
「あそこの大盛り豚骨みそチャーシュー麺がすごい旨いんだ。1100円でそれを食べるのが目標だ」
「うわぁ、お金じゃないとか言いながらしっかり糧にしちゃうんですねぇ〜」
「だっ、だから違う!ラーメンが食べたくてやってるわけではなく、頑張って歌った結果がラーメンなだけだ」
自分で言っておきながらわけがわからなくなっている友也。アコースティックギターをしまいながら他にもあーだこーだと論じてみるが、「そうなんですねぇ〜」とか「なるほどなるほど〜」と聞いているのか聞いてないのか...
「まあ...そういうわけだから、俺は帰る。もし良かったらまた聴きにきてくれ」
言葉のやりとりも不毛に感じ、そう伝えて
去ろうとしたときだった。
「じゃあこれで目標達成ですね、おめでとうございますっ ぱちぱちぱち〜」
気づくと蓋を閉めたギターケースの上に1000円札が。ご丁寧に風で飛ばないように小石をのせている。
「んー...なんかこれは違うような違くないような。やっぱ違うよなぁ...?」
「さてさて、目標も達成したことですし、行きますかっ」
友也の呟きが聞こえているのか聞こえていないのか、にこりと笑うとラーメン屋の方に腕を引っ張られるのだった。
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