8-1:K橋1
(編:ここは娯楽作と割り切って、実際に橋を上げるようにしてみませんか? それに関するドタバタということで。あと、できれば金髪は改定してもらいたいです。幾らなんでも一人に背負わせ過ぎじゃないでしょうか?)
(メモ:金髪は残したい旨を編集に言う)
(W:さて、K橋である。実際にこの橋が上がる、というデマが流れたのは読者諸君もご存知だと思うが、ここで出てくる『コンビニのあれやこれや』も実話である。極限状況において、(背後に何か意図があろうとも)善意が示されるというのは、心の底からホッとする……と思うのは年寄りだからなのかもしれない。若い世代にこの話をすると、半分くらいの人が『なんか怖い』『気持ち悪い』『罠っぽい』という感想だった。とはいえ、警戒心が強くなければ、こういった状況で生き残れないのもまた事実であり……難しい問題だ。
また、『梱包された何か』も出てくるのだが、これも実話である。618の話を集めていくと、こういう意図不明な現象や状況をよく聞かされる。個人的には、必死だった、もしくは確実さを求めた処置ではないかと思うのだが――判断は読者諸君にお任せしよう)
私達は東銀座の交差点手前に出た。
見下ろすと、トンネル内では発砲音がまだ響いている。
一瞬、行っていいのか、この武装した人達と行動を共にした方が安全じゃないのか、という考えが浮かんだ。
同じ考えだったのか、他の人達もその場で、もじもじと体を揺らしている。
梁に座っていた女性が、私達に背を向けたまま大声を上げた。
「我々はゾンビのいる場所に移動していきます! 一緒に行動したい、などと考えないでください!」
ああ、この人達は、私達のように、『何とかここから逃げ出したい集団』とは真逆の存在なんだ……。
私達は歩き出した。腰を低くして、なるべく早足で進む。通りは相変わらず車がぎっしりと停まっている。中に運転手はいないようだった。
誰かが、潮の匂いがすると小さく呟いたが、私には判らなかった。
左手に歌舞伎座があるが、大型トラックが入り口に横付けされていた。バリケードなのか、事故なのか――
先頭を行く女性が手を挙げた。
皆が足を止め、更に腰を低くして辺りを伺う。
しんと静まり返ったビル街は、動く物は時々頭上を飛び交うドローンだけのように思えた。
女性は自分の耳を叩く。
微かに何かが聞こえてきた。
「人の――話し声か?」
私の後ろで誰かがそう言うと、成程、そうとしか聞こえない気がしてくる。
私達の足が速くなる。
両側のビルは一階のシャッターが、全て閉まっていた。風が吹く為か、それとも内側で誰かが何かをやっているのか、時折ガシャガシャと音がする。その度に私達は立ち止まったり、小さく悲鳴をあげたりした。
しばらく進むと、前方に大きな交差点が見えてきた。角にコンビニがあるが、やはりシャッターが閉まっている。
その時だった。
私の左から悲鳴が聞こえた。はっとしてそちらを見ると、Tシャツの老人が後ずさりしていた。Tシャツ老人は私達に目配せすると、前方下を指差した。
私達はゆっくりとそちらに近づくと、黄色い軽自動車の影を覗きこんだ。
アスファルトに長細く大きな物――どう見ても人間――が転がっている。問題なのは、それがビニール袋を何枚も被せてあり、しかもビニール紐でぐるぐる巻きにしてあるという点だ。
しかも、片方の先端には中に赤い液体が溜まっていた。
「これ……ゾンビかな?」
誰かがそう呟いた。
「……多分、そうなんだろうな」
誰かの答えに、Tシャツ老人は眉間に皺を寄せた。
「だからって……こんな風にするのか。こんな……余裕が無いような時に、こんなに手間暇かけて……」
確かに、ゾンビが大発生しているこの状況で、こんなに手間のかかる処分の仕方をするものなのだろうか?
しかも袋は片方の先端の中だけに赤い液体が溜まっている。
つまり、袋の他の部分が綺麗すぎるのだ。
破れてもいない。
ゾンビは動かなかったのか?
「これ、中に人が入ってたりしてな……」
誰かがポツリと言った言葉に、私達は互いの顔を見ながら、その場に立ち尽くした。
あんな風に、中が見えない状態では――ゾンビか人か判らない。
例えば、この機に乗じて薬を盛って昏倒させ、拘束した後こう言う――
『ゾンビを閉じ込めたぞ!』
すると、どうなる?
もしかしたら……勇敢な人が、スコップを振り上げて……自分の手を汚さず……これは完全犯罪で……多分、絶対にばれる事は無くて……。
私は頭を振って、その考えを追い払い、交差点に向かって歩き出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます