7-1:混沌

(編:大規模な戦闘シーンなので、銃を主人公が手にするシーンがあった方が良いと思います。意外なキャラが銃スキルを持ってると、盛り上がるんじゃないでしょうか?)

(メモ:タオルおばさんが実は銃の名手というのは有か無しか)


(W:さて、618の七不思議と言われている物のうち、二つが同時に登場である。両方とも動画が存在しているという点で、他の五つと違って都市伝説ではないのだが、不思議なのは変わらない。疑問は尽きないが、答えに至る情報は、今も私の耳には入って来ない)




 私達の集団は当初十人ぐらいだったのだが、昭和通りを進むにつれ、人数が徐々に増えていった。今や歩道を進む流れ全てが、どうやらK橋行のようだった。


 途中、茶色い小さな牛が車道に現れた。

 その背には、水色の大きなリュックを背負い、麦わら帽子を被った少女が乗っていた。

 驚く我々や、車の中の人達を無視し、地図を見ていた少女は、ひらりと牛の背中から飛び降りると、牛の顔の横を撫でながら、車道を横断し、ビルの間に入って行った。

 中年夫婦らしき一組が、少女の後を追ってビルの間に消えた。


 今のは何だったんだ、とざわつく我々だったが、今度は右手前方から、黒づくめの集団が小走りで現われ、更にざわついた。

 二十人くらいだろうか、全員が長袖長ズボンに、防弾ベストのような物を着込み、ゴーグルを装着。更に大きな銃を抱え、隊列を組んでいる。

「ご安心ください! モデルガンです!」

 先頭の人物がそう叫ぶと、片手を挙げて隊列を止めた。

「皆さんは、どちらに行かれるのですか?」

 私の前を進む、大学生と思しき長身の男性が、質問に答えた。

「K橋です。なんでも橋を上げて、封鎖地区を作るとか――」

 小走りで並走し始めた集団は、アイコンタクトを取りはじめる。全員が頭を振った。

「それ、本当の話ですか? 僕達の仲間は実地で集めた情報以外は信用しないことにしてるんですが、誰も知らないそうです」

 大学生は頭を捻った。

「僕はネットで読んだだけで、確認は取ってないです。嘘かどうかは判らないなあ」

 先頭の人物が赤いゴーグルを上げ、振り返った。ゴーグルの下に見える眉は白かった。染めているのか、地毛なのかは判らない。

「どなたかK橋の確実な情報をお持ちの方はいらっしゃいますか!」

 私は周りを見たが、誰も彼もがそわそわとしているだけだった。

 赤ゴーグル氏は前にも声をかけるが返事は帰ってこない。

「しかし、それでしたらT大橋を渡っても良いのでは?」

「ええっと、そっちは、もう封鎖されたと、この呟きに……」

 赤ゴーグル氏は、大学生が差し出したスマホの画面を見て首を捻り、更に何か言おうとした。その時、車道を渡って、またも珍客が現れた。


 ピンク色の兎のキグルミが走ってくる。


 またも、ざわつく我々と違い、赤ゴーグル氏は片手を挙げた。

「そっちはどうだった?」

 兎から、くぐもった女性の声が聞こえた。

「ダメだね。東京駅の辺りは地獄だわ」

 赤ゴーグル氏の後ろの武装した人物が声を上げた。装備の所為で判らなかったが、こちらも女性だった。

「群れの規模は?」

「上から写真と動画撮ってきたけど、見る?」

 武装した女性とキグルミに挟まれた数人が、どうぞ、という感じで後ろに下がり、二人がスイマセンと体を寄せ合った。結果、私が彼女達のすぐ後ろになった。なので携帯の画像を見る事が出来た。


 私達がいた場所は、ぎっしりと人が溢れていた。


「うへー、これ、全部か。流石に多いな」

「いや、参ったわよ。非常階段から降りたら群がってくるし。めっちゃ毛むしられたわ」

「すげえな、その鎧。敵は脱水だけかー」

「まあね。でもいいダイエットになるわ、これ――」

 凄まじい内容のだらけた会話に、眩暈を覚えそうになっていると、赤ゴーグル氏が、さっとスマホを取り出した。

「皆さん! ちょっと止まってください!」

 全員、とはいかないが、結構な人たちが足を止めた。

「すいません、前の人達も止まるように伝えてください! この先、T町の辺りにゾンビの大群がいます!」

 えっ、と声が上がる。

 何人かが、ガードレールに足をかけて前方を見る。

 武装した一人から双眼鏡を渡された男性が、背伸びをした。

「どうですか?」

「多分、いる……のかな? バスとトラックがあって、よく判らないです。人影は確かにあると思うんですけど」

「皆さん! このまま進むとゾンビの群れの只中に行くことになります! 我々が引きつけますので、違う方へ進んでください!」


 違う方って、そんなふわっとした事言われても……。


 不安そうな顔で、一体どこに行けばと口にする人たちを無視し、武装集団は車道に出て隊列を整えると、進み始めた。すぐさま、それを十数人が追いかける。

 私は躊躇した。

 デパートの時みたいに、単体だったら何とかなる。だが、大群となれば――

 私は車道に出ようとしている人に声をかけた。

「え? あぁ……うーん、地下道になってる箇所があるだろ。ゾンビが上にいるなら下を通ればやり過ごせるんじゃないかって思ってさ……」

 ああ、そういうことか。

 群れが下にもいたなら、引き返せばいいわけだ。

 東銀座の辺りまで行って地上に出れば、K橋まではすぐだ……。


 私も武装集団を追いかけた。

 一度だけ振り返ったが、その場に留まっている人達が結構いた。


 人が大勢乗ったバスとトラックの間を通り抜けようとすると、窓が開いて太ったおばさんが顔を出していた。

「ちょっと! いるからね! この先にうじゃうじゃいるからね!」

 おばさんは声を抑えて、必死に我々に声をかける。バスの屋根から、高校生らしき男の子が顔を出した。

「すいません、そろそろ中に戻りたいです!」

 おばさんは、ほらほら早く! と席をどくと、高校生は横のトラックに足をかけ、器用に窓に滑り込んだ。

 私達は腰を低くした。


 進むべきか――いや、強引に進むことに何かメリットがあるのか。

 大体、K橋の話だって、本当か嘘か、ネットの情報頼りだから半々だ。


 それでも――何も目標が無くうろうろするよりは、気持ちが安らぐ気がする。


「おい! 撃ってるぞ!」

 誰かの囁きに、私は耳を澄ました。

 金属の軋む音と、ぱたぱたと誰かが走る音。遠くから聞こえるクラクション。

 まるで東京とは思えないくらいに静かだった。

 電車と車が動かず、誰も無駄話をしない東京。その静まり返った向こうから、バスバスとモデルガンの発射音らしき音が聞こえてきた。

 右に回り込め、と赤ゴーグルの大声が聞こえる。


 何人かが、さっと前に進み始めた。

 私の前にしゃがみ込んでいた女性が、腰を浮かしたが、トラックのドアに手をつけたまま震えだしていた。


 こうなったら、きっと、もう動けない……。

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