第2話 I think 川辺

「爽やかな風が吹いているな……」


 川辺の傾斜のある草むらに横たわり、僕は青空を眺めていた。

 するとワイワイ叫ぶ声が。


「おい曽園そその、野球やろうぜ!」


 野球を川辺で始める少年たち。

 ——少し騒がしくなったがまあ平和なので別に気にしない。


「ハァハァハァ……横たわってる暖炉くん、素敵///」


 バレてないと思ってるのか電柱の裏で僕をジロジロみている神結かみゆさん。

 ——少し騒がしくなったがまあ平和なので別に気にしない。


「きゃぁぁぁ! あいつひったくりよぉ〜!!」


「うるせぇ、ババァ! まずいな、早く逃げないと!」


 自転車を漕いでたおばあさんからバックを取り上げた同じく自転車を漕いでいるひったくり犯。

 ——少し騒がしくなったがこの程度僕なら大丈夫だ。


 立ち上がり彼の目の前へ。彼も思わずブレーキをかける。


「なんだお前! 邪魔なんだよ、どけ!」


「悪いがどけないな」


 彼を無理矢理引っ張り自転車から下ろす。そして瞬時に足元を蹴り上げ彼を転ばし、手を押さえ、身動きを封じる。


「神結さん!」


「ほへっ!? わ、私は居ませんよ〜どこにも居ませんよ〜」


「いやバレバレだから。とりあえず警察を呼んでくれる?」


「分かった! ——もしもし警察ですか。今〇〇市八丁目の……」


「く、くそ、離せ、離せよ!」


「お前こそ、そのバックを離せ!」


 無理矢理バックを取り返そうとしたが、勢いあまってバックが宙に飛び、川に落ちてしまった。


「あっ」


 取りに行きたいが、犯人を押さえつけてないといけない。

 バックは川に流されてしまった。


「警察です! ひったくり犯はどこか分かりますか!」


 無事、警察にひったくり犯を引き渡す。


「お兄さん、助かったよ、ありがとう」


「犯人は捕まりましたが……バックが流されてしまいました……すいません」


「あれは仕方ないよ、お兄さん。財布とかも入ってたけどひったくり犯に取られるぐらいならまだマシさ」


「そう言ってくれるとありがたいですが……って、えっ?」


 おばあさんが目を丸にしてどこか一点を見ている。その方向に顔を向けてみると……。


 ゆらゆら ゆらゆら


 おばあさんの自転車が強風に揺られ、カゴに入ってた買い物袋からかぼちゃが一個落ちた。

 傾斜のある草むらを転がって、川の中にばちゃん、と。


「パンプキィィィィィィィィィィィィィィィィン!!」


 おばあさんが川に飛び込んだ!?

 財布が入ってるバックすら諦めたくせに、かぼちゃは諦めないのかよ!?


「ぶほおぅ、この川深い……! 助けてぇぇぇぇぇぇ!」


 しかも泳げないの!?


「おーい、曽園。ボールそっちに行ったぞ」


「分かったよ、取るよ取る……あれ?」


 後ろ歩きで少年が宙に舞うボールを獲ろうとし、案の定、川に落ちてしまった。

 ていうかひったくり犯騒ぎの中、ずっと野球をやっていたのか!?


「つ、ツッコミどころが多すぎる……! いや、今はそんなことを考えてる場合じゃない! みんなを助けないと! でも助ける対象が多すぎる。ど、どうすれば!」


「落ち着いて、暖炉くん」


 声のする方には、先ほどストーキングをしていた神結さんがいた。


「神結さん……!」


「暖炉くんは泳げるんでしょ? 私も泳げるわ。だから二手に分かれて助ければいいのよ」


「なるほど。しかし神結さん、一回考えてもみてくれ。それだとパンプキンを助けられない」


「落ち着いて、暖炉くん。パンプキンは助けなくてもいいのよ」


 二人で瞬時に川に飛び込む。


「おばあさん……! 僕の手を掴んでください! 早く!!」


「ぶあっ、た、たす、助けて……」


「早く僕の手を!!」


 ガシッ


 慌てて陸へ向かう。

 この川は流れが早い、油断してると僕も溺れてしまう。


 サッ


「……大丈夫ですか」


「あ、ありがとう、お兄さん」


 なんとかおばあさんは無事だった。

 少年と神結さんは大丈夫だろうか!? 川の方を見てみる。しかし、誰もいなかった。


「そ、そんな……」


 心が真っ暗になっていく。


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「勝手に私を殺さないでくれる? 暖炉くん?」


「神結さん!?」


 びしょ濡れの神結さんは、少年と手を繋いで川辺に立っていた。


「あなたよりも先に陸に上がってたのよ。私は今でこそ美術部だけど、中学の頃は水泳部だったから多少泳ぎには自信があるの。それに、少年の方がおばあさんより軽かったし」


「無事でよかった……!」


「ふふ、暖炉くんの悲しむことなんてしないわよ」


 神結さんは変態ではあるが、僕が悩んだとき適切なアドバイスをしてくれる

 ——信頼できる友なのである。


「それよりも、濡れた服は嫌だろうから私が洗っといてあげるわ。ちょうだい。ハァハァハァ、早く」


 変態ではあるが。

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中途半端な知識と謎の想像力でとにかく思考する暖炉くん またたび @Ryuto52

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